2025年の壁問題など様々なきっかけが重なり、推進需要が拡大したデジタルイノベーションとDX。
必要性は理解しているものの「一体どのような概念なのか・何を目指せばよいのか?」など、疑問を抱えているかたも多いでしょう。
本記事では、デジタルイノベーションとDXの違いを明確にした上で、DXの方向性を解説します。
自社に適したDXを模索している方は、ぜひ参考にしてください。
デジタルイノベーションとDXの棲み分け
結論からお伝えすると、デジタルイノベーションとDXはほとんど同義の概念です。
本章では、両概念の解説と棲み分けを解説します。
デジタルイノベーションとは?
イノベーションとは、経済学者のシュンペーターが提唱した概念で、新結合により社会的な価値を創造することを指します。
言い換えれば、新しいアイデア・技術を取り入れて新たな価値を創造し、社会に大きな変化をもたらす(変革する)概念なのです。
イノベーションは抽象的な概念であり、捉え方や解釈に違いがありますが、「新結合」と「変革」は必ず登場する共通認識。
その上で、デジタルイノベーションとは、デジタル技術を活用したイノベーションを指します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、エリック・ストルターマン教授が提唱したもので、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面で良い方向へ変化させる」概念です。
ただ、エリック・ストルターマン教授が提唱したDXは、抽象的かつ広義な概念。
経済産業省はビジネスシーンにおけるDXを、下記のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
引用:デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver. 1.0|経済産業省
要約すると、デジタル技術を用いて変革をもたらし、競争上の優位性を確立することが、ビジネスシーンにおけるDXなのです。
デジタルイノベーションとDXの違い
デジタルイノベーションとDXの違いについて、結論は「両概念の主要部分はほとんど同義」だということ。
デジタルイノベーションはデジタル技術を活用し、新たな社会的価値を生み出すことです。
一方DXは、デジタル技術を用いて変革をもたらし、競争上の優位性を確立すること。
どちらもデジタル技術を活用して変革をもたらす点が一緒であり、ほぼ同じ意味合いと言えます。
ただし、経済産業省が定義したDXには、製品・サービス(価値)のほかに、組織・プロセスなどのビジネスモデルが含まれています。
したがって、厳密にはDXがデジタルイノベーションを内包している認識が正確でしょう。
イノベーションから考えるDXの方向性
DXは比較的新しい概念のため、モデルケースが少なく全体像を描きにくいでしょう。
一方、イノベーションは古くから提唱されている概念であり、すでに様々なイノベーションモデルが確立しています。
本章では、イノベーションモデルを元に、DXの方向性を詳しく見ていきましょう。
持続的イノベーション
まず、イノベーションは、持続的イノベーションと破壊的イノベーションに分類されます。
持続的イノベーションとは、既存の製品やサービス、仕組みなどを従来の方向へ伸ばすイノベーション。
技術の進歩により既存製品をより良くするなど、従来の延長線上に位置しており、破壊的イノベーションとは正反対の関係です。
かつて、爆発的にヒットしたAppleのiPhoneは、昨今における持続的イノベーションの代表例。
既存の製品に改良を重ね、現在は性能の向上や価格調節などをする段階です。
持続的イノベーションは、さらに漸進的イノベーションと革新的イノベーションの2種類に分類できます。
DX方向性1.漸進的イノベーション
DXの方向性を考える上で、ひとつの軸となる漸進的イノベーション。
その名の通り、時代の変化とともに技術が進歩し、既存製品や仕組みなどを徐々に最適化するイノベーションです。
一般的に大企業が得意とするイノベーションで、既存顧客の満足度向上を狙う点が特徴です。
社会的に大きな変革をもたらすわけではありませんが、浸透性が高く着実に人々の生活に根ぐいている傾向があります。
漸進的イノベーションを軸にDXを推進した代表例は、洗濯機や掃除機などのスマート家電。
スマート家電とは、IoTと家電を融合したもので、連携したスマホで操作・管理ができ、利便性・節電効果の高い家電です。
具体的には、洗濯が終了するとメールで知らせてくれる洗濯機や、出先から操作・管理できる掃除機など。
スマート家電は、既存製品とデジタル技術との組み合わせにより、性能の底上げを実現した漸進的DXと言えます。
DX方向性2.革新的(急進的)イノベーション
革新的イノベーションとは、既存の製品・サービスの性能を飛躍的に向上させ、競争上の優位を確立するイノベーション。
一般的にイノベーションと聞いてイメージするものと最も近いのが、この革新的イノベーションでしょう。
革新的イノベーションは実現後に得られる利益が大きいものの、達成難易度が高い点が特徴です。
革新的イノベーションを軸に推進されたDX事例は、農機メーカークボタのKSASが挙げられます。
KSASとは、既存製品の農業機械と最先端技術のICTを融合させたクラウドサービス。
農機に搭載されたGPSやセンサーを使い、圃場(田んぼ)管理や耕作計画、食味・収量管理をスマートフォンやPCで可能にしたサービスです。
技術革新により生まれたGPSや食味センサーを、既存製品である農機とかけあわたKSASは、まさに革新的DXと言えるでしょう。
破壊的イノベーション
破壊的イノベーションとは、既存の価値基準よりも低い製品・サービスを投入し、市場概念を根本から覆すイノベーション。
単に既存製品よりも劣っているのではなく、既存企業が見逃す魅力を足掛かりに、市場のシェアを奪います。
先述した持続的イノベーションとは対極的なイノベーションであり、すでに市場で成功している企業が見過ごしやすい点が特徴です。
破壊的イノベーションは、さらにローエンド型イノベーションと新市場型イノベーションに分類できます。
DXの方向性3.ローエンド型イノベーション
ローエンド型イノベーションとは、低機能・低価格など、既存製品・サービスよりも劣った状態から始まり、徐々に市場の概念を覆すイノベーション。
すべての人をターゲットにするのではなく、ニッチなターゲットへアプローチをかけ、性能が向上にするにつれて徐々に受け入れられる傾向があります。
ローエンド型イノベーションに該当するDX事例には、IoTを活用した無人ホテルが挙げられます。
従来のホテルには、コンシェルジュやホテルフロントがいますが、無人ホテルでは、タブレット端末やリモートでの対応。
ホテル経営側は、従来の人件費を大幅に削減できます。
また、利用者側は従来ほど柔軟な対応は望めない一方で、低価格での宿泊が可能です。
新型コロナウイルスの影響もあり、今後更なる浸透が予測されます。
DXの方向性4.新市場型イノベーション
新市場型イノベーションとは、全く新しい市場へ参入し革新性のある価値を提供するイノベーション。
新たな価値は万人受けしにくいものの、消費者のニーズにマッチした場合、急速な広がりをみせます。
革新的イノベーションと混同しがちですが、新市場型イノベーションはあくまでも新規顧客を狙うイノベーション。
また、新市場型イノベーションは、既存製品・サービスの延長線上では実現しません。
新市場型イノベーションに該当するDX事例は、近年不動産業界に浸透しつつあるVR内見が挙げられます。
VRは仮想現実と呼ばれ、人工的な三次元空間を、視覚その他の感覚を通じて疑似体験できるようにした技術。
VR内見は、専用ゴーグルを使い物件の内見ができるサービスです。
内見にかかる時間や労力の削減や、遠方からでも利用できるなどのメリットがあります。
VRは今までにないテクノロジーで、不動産業以外にも、医療・教育・広告業界など様々な市場に浸透しつつあります。
企業のDXを阻む3つの障害と対策
一方で、企業のDX推進は下記の障害により、思うように進んでいないのが現状です。
- レガシーシステムのブラックボックス化
- デジタル人材の不足
- 組織の壁
本章では、上記3つの障害と対策を解説します。
障害1.レガシーシステムのブラックボックス化
1つ目の障害は、2025年の壁でも問題視されているレガシーシステムのブラックボックス化。
レガシーシステムとは、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化などにより、企業の足枷となっている基幹システムのことです。
レガシーシステムの主な問題点は以下があります。
- システムの保守に貴重な人材・コストが割かれる
- システム障害の発生
- 業務効率の低下
- 意思伝達・意思決定の鈍化
システムの保守にIT人材を割かなければならない点は、DX推進の大きな障害。
レガシーシステムを抱えた企業では、限られたリソースが割かれることで、新たなIT技術・システムへ思うように投資できないのです。
レガシーシステムから脱却する方法は、以下2つ。
- マイグレーション:新たな基幹システムへ移行
- モダナイゼーション:既存システムを最新技術に対応する形へ一新
レガシーシステムからの脱却には時間がかかるため、迅速な対応が求められます。
障害2.デジタル人材不足
2つ目の障害は、今後更なる深刻化が予測されるデジタル人材不足。
経済産業省DXレポートによると、日本のITエンジニアの7割以上が、ベンダー企業に偏在しているとのこと。
そのためユーザー企業では、デジタル人材の確保が難しく、デジタル技術・システムの導入時には外部機関へ頼らざるを得ないのです。
たとえ人材を確保できたとしても、レガシーシステムの対応に追われ、クリエイティブな業務へ人員を割けられないケースも。
デジタル人材の確保は多くの企業にとって急務ですが、一朝一夕で解決できる問題ではありません。
採用基準の見直し、離職率の改善、人材育成に力を入れるなど、推進することが重要です。
障害3.組織の壁
3つ目の障害はDXの障害として必ず挙げられる、組織の壁。
具体的な問題は下記です。
- 円滑な情報・意思共有ができない
- 部門間の連携が取れていない
- 社員の方向性が散漫
DXは一部の部門のみで推進できるものではなく、経営トップを含む全社が一眼となり課題を解決する意思共有が大切です。
万が一、社内の意思疎通が円滑でないままDXを推進すると、ヒューマンエラーやプロジェクトの長期化などが生じます。
そのためDX推進に向けて、部門間の垣根をなくし横断的な情報共有の実現が求められます。
具体的な対策方法は、社内業務・情報を一元管理できるERP(統合基幹業務システム)がよいでしょう。
社内情報の円滑化を実現できるほか、先述したレガシーシステムの一新にも繋がるため、近年多くの企業から注目されているシステムです。
ERPシステムの詳細は下記記事で解説しています。
社内DX・デジタルイノベーションを検討中の方へ
結論、DXがデジタルイノベーションを内包している捉え方が正確でしょう。
また、DX戦略を策定する際は、モデルケースが確立したイノベーションモデルを参考に方向性を決めるのがおすすめです。
しかし、レガシーシステムや組織の壁など、DX推進の障害が社内に点在しているケースもあるでしょう。
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