経済産業省が2018年に発表したDXレポートを皮切りに、基幹システムを刷新する動きが活発化しています。
DXレポートでは、老朽化した基幹システム(レガシーシステム)の課題に言及するなど、今後起こり得るリスクに警鐘を鳴らしていました。
ただ、「本当に自社の基幹システムを刷新する必要があるのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。
基幹システムの刷新ともなれば、業務への影響や発生するコストなど多くの懸念点があります。
そこで本記事では、基幹システムを刷新すべき3つのパターンを解説します。
自社のシステムを刷新する必要があるのかお悩みの方は、ぜひ最後までご覧ください。
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【目的別】基幹システムの刷新を検討すべき3つのパターン
基幹システムを刷新する目的は、主に以下の3パターンに分類されます。
- 基幹システムの保守・サポートの終了が迫っている
- レガシー問題を解決するため
- システム間の連携を取るため
自社が上記のいずれかに当てはまっていないか、確認してみましょう。
パターン1.保守・サポートの終了が迫っている
近い将来、基幹システムの保守・サポートが終了する場合は、システムの刷新を検討します。
もちろん、サポートが切れた後も、基幹システムの運用自体は可能です。
しかし、新たな機能の追加やトラブル・障害への対処など、ベンダー企業によるサポートが一切受けられなくなります。
保守・サポートが終了した後は、自社で基幹システムの運用をおこなわなければなりません。
基幹システムは、会社のあらゆるデータを管理し、業務の大部分を担っていることがほとんどです。
システムトラブルが発生した際、迅速に対処できなければ業務全体が停止するリスクもあります。
自社での運用・保守が難しい場合は、保守・サポートの終了が迫っている場合に基幹システムの刷新を検討しましょう。
パターン2.レガシー問題の解決
レガシーシステムとは、長年の運用の中で改修を重ね、老朽化・肥大化・複雑化したシステムのことです。
また、レガシーシステムの影響で顕在化する問題を総じて、レガシー問題と呼びます。
主なレガシー問題は、以下のものがあります。
- 基幹システムの複雑化による柔軟性の低下
- AI・IoTなど新たな技術を導入できない
- 基幹システムの運用・保守コストが肥大化
- データ管理の属人化・システムのブラックボックス化
一番の問題点は、度重なる部分最適化によってシステムが複雑化し、追加の改修ができなくなることです。
DXを推進しようにも、柔軟性の低い基幹システムが足かせとなり施策を実行できない恐れがあります。
結果、企業の競争力や生産性の低下を引き起こすため、基幹システムの刷新が必要です。
パターン3.システム間の連携が取れていない
先ほどのレガシー問題に付随しますが、外部のシステムと連携を取れない場合も基幹システムの刷新を検討する必要があります。
特に、過去に開発された基幹システムは、近年のシステムと仕様が合わなかったり、そもそも連携を想定されていなかったりします。
現代では、さまざまなクラウドシステムを基幹システムと連携させて業務をおこなうのが一般的です。
これは、基幹システムで管理しきれない業務を補填し、業務全体の効率化を実現するためです。
もしシステム間の連携が取れなければ、補えない部分を人手でこなす必要があり、多くの工数がかかります。
つまり、業務を効率化するためのソリューションが、かえって業務効率の低下を招く要因となるのです。
こうした問題を解決するためにも、外部連携ができない基幹システムは刷新する必要があります。
基幹システムを刷新する4つのメリット
基幹システムを刷新した場合、主に以下のメリットが期待できます。
- 既存システムとの連携強化により業務が効率化
- ブラックボックス化の解消
- 保守コストの削減
- データ活用の推進
基幹システムの刷新は、全社員に影響を及ぼす取り組みです。
従業員の協力を得るためにも、取り組みの効果を把握しておくことが重要です。
メリット1.外部システムとの連携強化により業務が効率化
基幹システムを刷新することで、外部のシステムとの連携を強化でき、業務の効率化につながります。
特に効率化できるのは、在庫管理や給与計算などの間接業務です。
社内のあらゆる情報が単一のデータベースで管理でき、部門間で生じる転機作業や重複入力を削減できます。
また、集積した情報はデータベースに整理した状態で保存されるため、情報収集の効率化が可能です。
管理者や経営層は、業務・企業のあらゆる情報をリアルタイムで把握でき、より実態に則した判断ができるでしょう。
ただし、業務を効率化するには、単にシステムを入れ替えたり、再構築したりするだけでは不十分です。
情報管理の体制を見直し、データ基盤を整備することが重要です。
メリット2.ブラックボックス化の解消
システムの刷新はブラックボックス化の解消に効果的です。
基幹システムのブラックボックス化は、主に以下の2種類があります。
- 基幹システムのプログラム・構造がブラックボックス化
- システムの機能・操作方法がブラックボックス化
現行システムをもとに、新たな基幹システムを再構築すれば、上記のブラックボックス化を解消できます。
また、マニュアルの整備や業務プロセスの簡略化をおこなうことで、ブラックボックス化の再発防止にもつながります。
結果、業務の品質や効率を格段に高められるでしょう。
メリット3.運用・保守コストの削減
基幹システムの刷新で内部・外部の設計を簡略化すると、運用・保守コストの削減につながります。
たとえば、機能追加によって操作方法が複雑化した基幹システムを簡略化したとします。
各機能を見やすく整理し、簡単な操作で資料などを作成できるとなれば、システムの使い方を指導する時間・手間を削減できます。
また内部設計が簡略化されれば、メンテナンスがしやすく、機能を追加する場合も開発を進めやすくなるでしょう。
基幹システムの刷新により、従来よりも少ない人員で運用・保守できるようになるのは、大きなメリットと言えます。
メリット4.データ活用の推進
基幹システムを刷新すると、DX推進に欠かせないデータ基盤の強化につながります。
データ基盤とは、情報の蓄積・加工・分析を担う仕組みのことです。
前述したデータの一元管理や外部システムとの連携などは、まさにデータ基盤の強化に直結します。
データ基盤を整備できると、勘や経験ではなく根拠に基づいた経営判断や事業戦略を下しやすくなります。
また、従業員の視点で見ると、部門や立場に関係なくナレッジデータベースへアクセスできるので、自ら情報を取得し自身の価値を高められます。
こうしたデータ活用の推進は、企業体制の変革をもたらし、DXの推進につながります。
基幹システムを刷新するための手順
基幹システムを刷新するプロジェクトは、主に以下の手順で進められます。
- プロジェクトの発足
- 現状の分析・課題の明確化
- 基幹システムの刷新方法を決定
- 新基幹システムの要件定義
- 新基幹システムの開発・導入
- 運用開始・効果検証
基幹システムの刷新では、手順1〜手順4までの準備段階が非常に重要です。
準備が不十分なまま推進すると、課題を取りこぼしたり、プロジェクトが途中破綻したりする恐れがあるためです。
また、基幹システムの影響範囲は多岐にわたるため、プロジェクトの失敗が大きな損失につながります。
したがって、課題の抽出やビジョンの明確化など、準備段階に力を注ぎ、プロジェクトの成功率を少しでも高めることが重要です。
基幹システムを刷新する際の注意点
基幹システムを刷新する際は、以下の点に注意が必要です。
- 基幹システムの刷新は業務改革の一環として進める
- 自社にあった刷新方法を選択する
より効果的な取り組みにするためにも、上記の2点をしっかりと把握しましょう。
注意点1.基幹システムの刷新は業務改革の一環
基幹システム刷新を成功させるためには、業務プロセスの見直しも必要です。
システム刷新の目的は、現在抱えている課題や問題を改善することです。
業務プロセスや管理体制を改善しないままシステムのみを置き換えても、問題の解決にはいたりません。
課題の根源を改善しなければ、新システムを運用する中で、現在の課題が再発する可能性が高いでしょう。
したがって、基幹システムを刷新する際は、現状の業務プロセスやシステムの運用体制を見直し、新しいプロセスへ置き換えることが重要です。
注意点2.自社にあった刷新方法を選択
ひとえに基幹システムの刷新といっても、その方法は多岐にわたります。
代表的な方法は、以下の3つです。
- リビルド:新しい技術でシステムを再構築して情報資産を移行する手法
- リライト:既存システムの仕様をそのままに、旧言語を新言語に置き換え、オープン環境(クラウド等)へ移行する手法
- リホスト:既存システムの仕様や言語をそのままに、オープン環境へ移行する手法
上記のうち、1つのみを選択しなければならないわけではありません。
予算・効果を考慮し、「一部をリビルドで再構築し、重要度の低い部分をリライトにて対応する」などが一般的です。
既存システムの状況や実現したいビジョンを明確にし、適切な手法を採用しましょう。
基幹システムの刷新に成功した3つの事例
以下の3社は、基幹システムの刷新に成功した企業です。
- 株式会社ニッスイ
- DM三井製糖株式会社
- 株式会社伊勢半
各社、独自の方法で基幹システムを刷新しています。
どのように進めれば良いのかお悩みの方は、ぜひ参考になさってください。
事例1.株式会社ニッスイ
株式会社ニッスイは、大手の水産・食品会社です。
同社の事業において最も重要なのが、商品の受発注〜出荷管理までを担う受発注・在庫システムです。
受発注・在庫システムは2003年に構築され、保守を繰り返しながら運用されてきました。
しかし、システム基盤の老朽化に伴い、メモリーを増強できなかったり、処理速度が低下したりなど、さまざまな弊害が目立ってきたとのこと。
DXを推進するためにも、従来の基幹システムを刷新を進めました。
新たな基幹システムでは、構成を自由にカスタマイズできる柔軟性と、CPUやメモリ増強の拡張性を重視。
システムを稼働させたままCPUやメモリを増強でき、ビジネス環境の変化へ柔軟に対応できるようになったそうです。
事例2.DM三井製糖株式会社
DM三井製糖株式会社は、大手の製糖・食品会社です。
2005年の合併依頼、2つの営業系基幹システムが稼働している点が問題でした。
また、新営業システムに統合しようにも膨大な改修コストがかかるため、基幹システムの刷新に着手しました。
プロジェクトの準備段階では、先行企業7社にヒアリングをおこない、具体的な進め方や注意点などの助言を受けたそうです。
準備段階で特に注力したのが、システム選定時の評価制度と、従業員へのフォロー体制の整備です。
結果、事業所ごとに要件が異なる中で、一切批判が起きない適切なソリューションを選定できたようです。
また、本格稼働後も大きな混乱はなく、スムーズに運用を開始しています。
先行企業の助言によりプロジェクトの成功率を高めた事例です。
事例3.株式会社伊勢半
株式会社伊勢半は、江戸時代から続く総合化粧品メーカーです。
30年にわたって運用してきた基幹システムが、老朽化によって多くの問題を引き起こしていました。
具体的には、入力したデータの反映に時間がかかったり、不足機能を補うための作業が属人化したりなど。
こうした問題を解決するべく、パッケージ型基幹システムへの刷新を図ります。
結果、販売・生産・原価管理の一元化や業務効率化を実現しました。
従来よりもデータ共有がスムーズになったことで、需給変動への対応力が向上したようです。
基幹システムを刷新しDXを推進しよう
この記事では、基幹システムを刷新する必要性と手順を紹介しました。
基幹システムの問題を解決することで、業務効率化・コスト削減・DX推進につながります。
既存の基幹システムがレガシー問題を引き起こしていたり、サポートの終了が迫っていたりする場合は、刷新を検討すると良いでしょう。
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