製造業の業務効率化・生産性向上において、重要な役割を担うヒューマンエラー対策。
ヒューマンエラーが原因となるトラブルが少なければ、不良が発生しにくい・対応に追われる時間も減少します。
本記事では、ヒューマンエラーの原因と対策、実施手順を解説。
ヒューマンエラーを誘発する確認不足の対策ポイントとあわせてご覧ください。
製造業のヒューマンエラーとは?
ヒューマンエラーとは、「すべきこと」に対して「していなかった・してはいけないことをした」結果です。
ヒューマンエラーは以下の2つに分類されます。
- 意図して起こるヒューマンエラー:作業を省略する・必要な連絡をしないなど、意図的な行動によって引き起こされる
- 意図せず起こるヒューマンエラー:見落とし・作業忘れなど、意図的な行動以外によって引き起こされる
意図して起こるヒューマンエラーは、仕事に対する慣れ・疲労の蓄積などが主な原因です。
対して、意図せず起こるヒューマンエラーは、聞き間違い・勘違い・判断ミス・連携ミスなどが原因。
いずれの場合でも、溶剤が目に入り角膜炎を引き起こした・爆発を伴う火災を引き起こしたなど、重大な事故につながりかねません。
発生したヒューマンエラーは、原因をもとに的確に対策を講じる必要があります。
製造業のヒューマンエラー、7つの原因とは?
製造業のヒューマンエラーが発生するおもな原因は、以下の7つです。
本章では、ヒューマンエラーの各原因を具体的に解説します。
ヒューマンエラーの原因1.慢心や思い込み
慢心や思い込みによるヒューマンエラーは、実はベテラン社員に起こりがち。
同じ工程を繰り返すうちに「いつもの作業だから大丈夫だろう」と、納期や工程の確認がおろそかになってしまいます。
注意が必要なのは、新入社員だけとは限りません。
ヒューマンエラーの原因2.情報伝達ミス
情報伝達ミスは「報告(放送)・連絡・相談」の不足が原因で発生します。
「報連相(ホウレンソウ)」と略されるほど定着している考え方ですが、きちんと実施できていない製造現場があるのも事実。
相手が知っていると誤解する・連絡事項が間違って伝わる、といったケースにも注意が必要です。
ヒューマンエラーの原因3.見逃し・聞き逃し
見逃し・聞き逃しがあったときに、逃した部分を自分で補ったことで発生するヒューマンエラー。
見逃し・聞き逃しによるヒューマンエラーは、実際にトラブルが発生するまで、自分自身の誤認識に気付きません。
大きなトラブルの原因にもなりやすいため、説明するだけでなく、変更点や作業場のポイントを貼りだす・工場内のモニターに映すなどの工夫が必要です。
ヒューマンエラーの原因4.記憶間違い
記憶間違いは、本来すべき工程の内容を覚えられず、誤操作や不良につながる原因です。
作業の担い手が人間である以上、伝達内容を覚えきれないことがあるのは仕方がないのかもしれません。
しかし、そのまま作業していたのではミスにつながって当然でしょう。
ヒューマンエラーの原因5.育成・訓練不足
育成・訓練不足は、作業機械の操作間違いに多く見られる原因です。
十分な経験がないうちにひとり立ちさせ、機械操作に慣れない状態で作業を続けてしまうのです。
近年では慢性的な人材不足を背景に、育成期間が不十分となるケースも見受けられます。
ヒューマンエラーの原因6.作業環境の不備
作業環境の不備は、間接的にヒューマンエラーを発生させる原因です。
たとえば、十分な照明がない場所で在庫を管理していれば、足元がよく見えずに転倒するリスクが想定できます。
滑りやすい素材の床に滑り止めがない・手元が暗くて操作パネルが見えにくい、といったケースもあるため、現場の声をもとに原因を追究する必要があるでしょう。
ヒューマンエラーの原因7.自己流の作業
作業手順書やマニュアルを守らず、自己流という名の横着や手抜きをしていれば、ミスやトラブルの原因になります。
作業手順書やマニュアルは安全や品質を守るために必要な見本ですが、「楽をしたい」という思いから省略してしまうこともあるのも事実。
安全と品質を守るためにも、マニュアルを守る姿勢を育てておきましょう。
製造業のヒューマンエラーに有効な7つの対策とは?
ヒューマンエラーを減少させるために、以下7つの対策を解説します。
より安全に作業できる体制構築の参考になさってください。
ヒューマンエラー対策1.KY活動の実施
KY活動(危険予知活動)は、日々の作業手順に隠れている不安全状態や不安全行動を明らかにして、作業者自身が対策を考えて実行するのが目的です。
推奨されている活動の1つとして、指差し確認があります。
指差し確認によるメリットは以下の通りです。
- 確認対象を正しく視認できる
- 焦りによる確認不足を防止できる
- 意識を確認対象に集中できる
- エラーに気付きやすくなる
- 的確な情報判断ができる
日頃から指差し確認を浸透させられるよう、指差し確認を励行する張り紙の設置や声がけなどを心がけましょう。
ヒューマンエラー対策2.人材のスキルアップ
業務量にあわせて派遣労働者を雇うシーンが多い中、作業や工程のマニュアル化は必須とも言えます。
マニュアルは人材育成の手間を最小限に抑えながら、確実に正しい手順や知識を教えられるためです。
製造スタッフの技術を向上させ、作業全体の効率化を目指しましょう。
マニュアル化・平準化の意味や方法について、より詳しく知りたい方は下記記事をご覧ください。
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ヒューマンエラー対策3.コミュニケーション活発化
製造現場のコミュニケーションを活発にするためには、現場だけでなく管理側の行動が大切です。
たとえば、管理者が挨拶・質問などを気軽にしていれば、現場全体も挨拶・質問をしやすい雰囲気になるでしょう。
同時に、管理者は疑問や不安を抱えている製造スタッフの話に、しっかり耳を傾けてください。
コミュニケーションが苦手な人も含めたコミュニケーションの活発化につながります。
ヒューマンエラー対策4.作業環境の整備
整理・整頓・清掃・清潔・しつけを意味する5Sによって作業環境を整備しましょう。
「5S活動は製造業に十分浸透している」と思わず、見直してみることが大切です。
5S活動を繰り返すうちに「何となく」で掃除されている可能性もあります。
掃除は基本中の基本ですが、機械の故障リスク軽減・メンテナンス効率アップなど、大きなメリットをもたらします。
5S活動による作業環境の整備は、工場全体の作業効率化に期待できる活動です。
ヒューマンエラー対策5.確認のクセをつける
確認不足は、ヒューマンエラーの中でも対策が困難な原因のひとつ。
作業内容や検品でダブルチェック体制を築いていても、十分に機能せず、結果的にミスが発生する工場が多いのが実情です。
確認不足解消には、目視でのチェック、指差し確認のような体を動かしてチェックする方法を併用することが効果的です。
ヒューマンエラー対策6.業務改善
業務内容が煩雑なほど、ヒューマンエラーが発生するリスクが高まります。
業務に関して覚えることや注意点が増え、対処が追い付かなくなるためです。
作業工程は可能な限りシンプルにして、作業効率性を高めるよう心がけましょう。
ただし、業務改善は製造現場ありきで考えてください。
現場を無視しては、本来必要な工程を削除する原因になりかねません。
なお、業務改善にもつながるリードタイム短縮は「生産リードタイムとは?基礎知識と短縮メリット・方法・注意点を解説」で解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
ヒューマンエラー対策7.フールプルーフの構築
フールプルーフとは、ミスが発生しないような環境構築に必要な工夫です。
製造現場のフールプルーフの例として、以下の3つがあります。
- 機械にセンサーを取り付け、一定条件下でのみ稼働させる
- 両手で押さなければ作動しない工作機械(手挟み防止)
- 操作に二人以上の承認が必要
フールプルーフを活用した製品は、扉を閉じなければ動かない電子レンジ・洗濯機など、身近にも存在しています。
トラブル発生時のデータをもとに対策を施すことで、トラブルを未然に回避することが可能です。
これまでのデータを分析し、フールプルーフ環境を構築しましょう。
製造業のヒューマンエラーを減らす4つの手順
ヒューマンエラー対策は、手順を守って実施する必要があります。
手順を守れば、やみくもな対策実施を防止でき、より高い効果に期待できるためです。
本章では、ヒューマンエラー対策の手順を4つのステップに分けて解説します。
ヒューマンエラー対策の手順
手順1.ヒューマンエラーの内容を分析
発生したヒューマンエラーの内容を分析・カテゴライズします。
分析は、いつ・どこで・どのように発生したかや、原因解明に活用します。
カテゴライズしておけば、発生条件を解明しやすく、フールプルーフ環境の構築に活用できるでしょう。
手順2.ヒューマンエラー対策を検討
ヒューマンエラー対策は、製造現場の声も参考にしながら対策を検討してください。
管理側の考えだけでは、現場にそぐわない対策になってしまう可能性があるためです。
なお、ミスをした現場スタッフから話を聞く際は、責め立てないように注意。
対策検討の場に呼んだのは、叱るのではなく問題解決のためであるときちんと説明すると良いでしょう。
手順3.ヒューマンエラー対策を実施
ヒューマンエラー対策の実施は、実施後に新たな問題がないか確認することが大切です。
現場に赴き、目と耳で直接確認するのがベストですが、工場が見える化されていれば画面上で確認しても良いでしょう。
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手順4.ヒューマンエラー対策の効果を評価
ヒューマンエラー対策は、実施するだけでなく、きちんと評価して次につなげましょう。
そうすることで、より安全な製造環境を構築できます。
評価する際は、下記のようなチェックポイントを設けておくと便利です。
- ヒューマンエラーが再発していないか
- 対策実施後に業務効率が低下していないか
- 新たな問題点が浮上していないか
評価は定期的に実施し、より良い作業環境の構築を目指します。
確認不足によるヒューマンエラー対策のポイントは報連相
ヒューマンエラーの多くは、上司や先輩への確認不足が原因。
確認不足対策としては報連相の定着が効果的ですが、実際には定着していない工場が多いのが現状です。
本章では、報連相の基礎・定着させる方法を解説します。
報連相の基礎知識・定着させる方法
1.報連相は確認不足対策の基本
報連相は、業務進捗・情報共有・問題解決に必要であり、ビジネスの基本として知られます。
工場内の作業機械が故障した際も、報連相が定着していれば、担当者に素早く情報が伝達されて復旧までの時間を短縮可能です。
さらに、作業内容に不安を感じたときも、先輩や上司に相談してトラブルを予防できるでしょう。
2.報連相は実践で定着させる
入社時の研修で報連相の大切さを伝えている企業がほとんど。
しかし、報連相は研修を受けるだけでは定着しません。
実践で報連相によるメリットを実感できなければ、他人事のように感じてしまうためです。
実践の中で報連相を定着させるためには、上司や先輩のフォローが必要不可欠。
報連相の定着に向け、寄り添った指導を実施しましょう。
3.報連相で上司は「おひたし」を大切に
おひたしとは、怒らない・否定しない・助ける・指示するの4つの心がけの頭文字をとったもの。
4つの心がけの具体的な内容は以下の通りです。
- 怒らない:ミスの報告を受けても怒りに身を任せず、原因や対策を一緒に考える
- 否定しない:的外れな意見・間違った意思決定に対して、頭ごなしに否定しない。相手の意見を受け入れた上で自分の意見を伝える
- 助ける:部下が自ら試行錯誤して業務に取り組む姿勢を大切にする。修正が効く範囲を見極め、助けるポイントを設定する
- 指示する:介在しすぎないように注意しながら、的確に指示を出す
製造業のヒューマンエラー対策の今、最先端のポカヨケはERP?
ポカヨケとは、製造ラインに設置される作業ミスを物理的に防止する仕組みや装置です。
一方でERPは、間接的にヒューマンエラーの対策になるソリューションのこと。
本章では、ERPがヒューマンエラーに与える影響を解説します。
1.ERPでヒューマンエラー事案・対策を素早く共有
ERPは、各部署をパイプでつなぎ、情報を一元管理できる基幹システムです。
必要な情報は、必要な時にスムーズに取り出せます。
発生したヒューマンエラーは速やかに共有され、対策検討・実施までの時間を短縮。
主幹業務にあてる時間が増え、ヒューマンエラー対策と生産性向上の両立が可能です。
2.ERPによる作業環境整備で製造業ヒューマンエラーを減少
ERPは工場の可視化も可能です。
作業機械の故障・動線のムダ・配置上の問題点などを、的確に把握できます。
作業環境が改善されれば、作業者の負担軽減に期待できるため、結果的にヒューマンエラーの減少につながります。
3.ERPはヒューマンエラー対策&競争力獲得が可能
製造業界は、既に少品種多量生産から多品種少量生産へと切り替わりを見せ、パーソナライズのために特注品となるケースが増加しています。
そのため作業工程が複雑化し、ヒューマンエラーの原因となっているのです。
一方で、ERPには生産管理システムの機能も搭載されています。
よって、ERP導入により、スムーズな生産計画の策定や作業指示書の作成が可能に。
より柔軟な製品製造に対応できるようになり、企業としての競争力が身に付きます。
製造業のヒューマンエラー対策にお悩みの方へ
本記事でお伝えした製造業のヒューマンエラー対策のポイントは、以下3つです。
- ヒューマンエラー対策は原因解明・対策・実施・評価のPDCAサイクルがポイント
- 多品種少量生産が求められる中、柔軟な製造体制が求められている
- ERPはヒューマンエラー対策・競争力獲得・生産性向上が可能なシステム
ヒューマンエラーの根絶は不可能に近いかもしれませんが、限りなくゼロに近付けるのは可能です。
部門ごとに独立した使い勝手の悪いシステム・老朽化したシステムなどで、非効率的な業務を余儀なくされているのであれば、ERPの導入をぜひご検討ください。