昨今の製造業では、顧客ニーズの多様化・市場競争の激化が進行しています。
なかでも個別受注生産の製造企業では、どのような課題が生じており、いかにして競争力を確立すれば良いのでしょうか。
本記事では、個別受注生産の製造業企業が抱える課題と、解決に向けたマスカスタマイゼーションを紹介します。
個別受注生産とは?他の生産方式との違い
産業用機械やエンジンなど、多品種少量生産の製造業で用いられている生産方式です。
一方、少品種大量生産で用いられるのは、需要などを予測して製品を製造する見込生産。
個別受注生産と見込生産の違いは、下記の通りです。
個別受注生産 |
ニーズを完璧に満たす製品提供が可能 健全な在庫状況を維持できる 生産工程が複雑で生産性の向上が難しい 原価管理・生産管理が疎かになりやすい |
見込生産 |
コストを抑えつつ、高い生産性を実現 適切に原価管理・生産管理をしやすい 顧客のニーズを満たすのが難しい 在庫リスクを抱える恐れがある |
上記をご覧いただくとわかるように、個別受注生産と見込生産は正反対の生産方式。
個別受注生産は顧客の要望を満たした製品の提供を得意とする一方で、生産性の向上・QCDの最適化を苦手とする生産方式なのです。
個別受注生産の現場で起きている3つの課題
- 既存の生産管理システムが業務に適応できていない
- 製品の完成が納期に間に合わない
- 原価管理が疎かとなり原価率低下への対処が遅れる
これらの課題は現場レベルの問題にとどまらず、企業経営にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
どのような課題があるのかを十分に理解し、適切に対処することが大切です。
それでは各課題の詳細を見ていきましょう。
課題1.既存の生産管理システムによる生産性向上の阻害
1つ目の課題は、既存の生産管理システムが現場の生産工程に対応できず、生産性の向上を阻害するケースです。
個別受注生産といっても、製品の全部品を個別受注生産で製造するわけではなく、部分的に見込生産を取り入れ業務の効率化を目指すのが一般的。
そのため生産管理システムには、煩雑化した生産業務をカバーできる高い柔軟性と豊富な機能が求められます。
しかし実際には、一部の生産方式に対応したシステムや、部分的な業務にのみ対応したシステムなど、柔軟性・機能面の不足したシステムが運用されているケースが多いのです。
これにより、システムを運用しても思うような成果をあげられないばかりか、生産効率向上の阻害やQCDへの悪影響などにも陥っています。
課題2.製品の完成が納期に間に合わない
2つ目の課題は、製品の完成が納期に間に合わないケースです。
個別受注生産では顧客ニーズをできる限り汲み取るため、設計直前や生産工程が進む途中であっても仕様の変更が繰り返されます。
仕様が変更されると、設計の修正やスケジュール・人員・設備の調節が必要となり、生産業務が遅れて結果的に納期の遅れを引き起こしかねないのです。
ただ、この課題の解決には、生産現場の効率化のみならず、顧客とのやり取りを担うフロントオフィス業務の最適化も不可欠。
仮に仕様変更・確定状況の管理・生産状況の管理を最適化したとしても、顧客とのすり合わせに時間を要していては、根本的な解決にいたりません。
したがって、課題解決に際しては、現場を指揮する生産管理と顧客からニーズを切り取るフロントオフィス業務の改革が求められるでしょう。
課題3.原価管理が疎かとなり原価率低下への対処が遅れる
3つ目の課題は、原価管理が疎かとなり、減価率低下への対処が遅れること。
大量の部品・度重なる仕様変更・生産工程の煩雑化が伴う個別受注生産では、各部品の原材料を正確に管理するのが困難です。
これにより、万が一原材料の高騰が生じた場合でも迅速に対応できず、蓋を開けると赤字だったという事態になりかねません。
個別受注生産の製造業企業が正確な原価管理を実現するには、製番ごとに原価を見える化し、リアルタイムに確認できる仕組みを作ることが大切です。
個別受注生産の課題解決に向けたマスカスタマイゼーション
本章では、マスカスタマイゼーションの概要と取り組むメリットを解説します。
マスカスタマイゼーションとは?
マスカスタマイゼーションとは、大量生産の高い生産性と、個別受注生産の個別要求に対応した製品提供の双方を組み合わせたコンセプト。
製品生産を、個別仕様部位と標準化可能部位に分類し、受注生産と大量生産の両立を図ります。
マスカスタマイゼーションは日本でも古くから提唱されていましたが、あまり浸透しませんでした。
しかし、昨今では下記の4つ要因により注目を集めています。
- 製品ライフサイクルの短期化
- リードタイムの縮小促進
- 顧客ニーズの多様化
- デジタル技術・ITシステムの普及
マスカスタマイゼーションは、個別受注生産と大量生産それぞれのメリットを享受できる概念であり、多品種少量生産時代における新たなモノづくりの形と考えられています。
マスカスタマイゼーションのメリット
先述のとおり、マスカスタマイゼーションは個別受注生産と大量生産それぞれのメリットを享受できるコンセプトです。
個別受注生産と大量生産には、それぞれ下記のメリット・デメリットがあります。
メリット | デメリット | |
個別受注生産 |
|
|
大量生産 |
|
|
上記のように、マスカスタマイゼーションの実現により、大量生産と受注生産それぞれのメリットを享受でき、なおかつそれぞれのデメリットを補うことが可能です。
マスカスタマイゼーション実現アプローチ4Step
- 顧客ニーズを見極める
- 製品モジュールと部品表(BOM)の整備
- 実際原価を把握し原価率の改善
- 営業の情報武装化
それぞれの手順を解説します。
Step1.顧客のニーズを見極める
個別受注型企業がまずおこなうべきは、顧客ニーズの見極めです。
顧客からの要求を細分化すると、絶対に外せない仕様・過去の仕様に従っているだけなど、重要度が低い仕様に分類されます。
例えば、既存の産業用機械に付属させる製品の場合、取り付け部分の重要度は極めて高く、詳細な仕様を指定されるでしょう。
しかし、その他の部分は重要度が低く、ある程度の範疇に収まっていれば、顧客の要望を満たす可能性があります。
したがって、顧客にとって重要度が高い部位を個別受注生産、重要度の低い部位を大量生産に分類できます。
顧客ニーズを細かく分析し、重要度が高い部分とそうでない部分を明確にすることで、製品の標準化と生産性向上の足がかりとなります。
Step2.製品モジュールと部品表(BOM)の整備
標準化が可能な部位が定まれば、製品モジュールと部品表の整備に移行します。
製品の土台となるフレームや重要度の低い部位を共通化することで、量産効果を実現しつつ、カスタマイズによる顧客仕様への対応を実現できます。
ただし、マスカスタマイゼーションの本質は、多彩なデザインを確保することではなく、あくまでも顧客ニーズを満たした製品を効率的に生産すること。
したがって、生産性の側面と前章で述べた顧客要求の側面、双方を実現できる柔軟性の高い標準化を目指すことが大切です。
Step3.実際原価を把握し原価率の改善
個別受注生産の課題には、原価管理の脆弱さがありました。
この課題を脱却するためには、材料費や労務費、投入工数の実績把握などを正確に押し測れる管理体制が不可欠。
製造業の原価管理は煩雑なケースが多く、人手で管理するには限界があるため、ERPシステムの整備やIot機器を活用したトレース管理を検討するとよいでしょう。
これらを活用して正確な実際原価を把握・可視化し、改善サイクルを回す取り組みが重要です。
Step4.営業の情報武装
マスカスタマイゼーションの仕上げは、営業の情報武装化です。
顧客が発信する個別要求を自社の生産可能範囲にとどめるには、営業プロセスの改善は不可欠。
営業プロセスは統制が取りにくく、各営業マンに属人化しているケースがほとんどです。
そのため、自社の標準仕様や生産可能範囲、過去の実績情報などを営業部門に共有し、顧客満足と生産性を確保したモノづくりを両立させることが大切です。
また、営業段階で得られた情報を生産工程へ共有することで、リードタイムの短縮や業務効率化につながります。
個別受注生産のマスカスタマイゼーション化に必要な3つの要素
- 製造工程の可視化
- ナレッジの蓄積
- リアルタイムな情報共有
それぞれ順に解説します。
要素1.生産工程の可視化
個別受注生産のマスカスタマイゼーション化に欠かせない要素の1つが、生産工程の可視化。
生産工程の全プロセスを可視化することで、急な仕様変更やトラブルが生じた際でも、工程変更や部品手配など各部門が適切に対処できます。
これにより、従来の個別受注生産で生じていた納期の遅れや原価率の低下などのリスクを最小限にとどめ、生産工程の最適化を実現できます。
要素2.ナレッジの蓄積
2つ目の要素は、ナレッジの蓄積。
設計図・部品表・変更履歴など、過去案件のナレッジを蓄積することで、新たな案件に活用できる可能性があります。
たとえば、営業部門に共有して仕様決定のスムーズ化を実現したり、熟練設計士の設計データを人材育成に活用し、従業員の技能向上を実現したりなどです。
ただし、ナレッジの蓄積において重要なことは、必要なタイミングで必要な情報を取り出せるということ。
単に情報を蓄積するのではなく誰でも必要な時に活用できるよう、管理仕様の統一を徹底しましょう。
要素3.リアルタイムな情報共有
3つ目の要素はリアルタイムな情報共有です。
マスカスタマイゼーションは大量生産と受注生産の要素を含むため、需要予測・顧客仕様に応じて臨機応変に生産体制を変化させることが求められます。
生産体制を変化させるにはリアルタイムな情報共有が必要であり、営業・設計・調達・製造などの自社部門に加え、仕入れ先・ステークホルダーなどの外部機関との円滑なコミュニケーションが欠かせません。
これを実現するには、全基幹業務を包括するERPシステムの導入が適しています。
ERPシステムは、各基幹業務のデータを即座にデータベースへ反映し、どの部門からでもリアルタイムに確認できるためです。
リアルタイムな情報共有を実現することで、生産体制を臨機応変に変化でき、なおかつ確認工数の削減や伝達漏れによる生産性の低下を防止でき、業務効率の向上を実現できるでしょう。
個別受注生産の最適化をご検討中の方へ
個別受注生産の課題は、下記の3つです。
- 既存の生産管理システムが業務に適応できていない
- 製品の完成が納期に間に合わない
- 原価管理が疎かとなり原価率低下への対処が遅れる
これらの課題解決に向け、マスカスタマイゼーションが注目されています。
ただ、マスカスタマイゼーションの実現にはデータ共有・活用が不可欠なため、生産工程やフロントオフィス業務を包括するERPシステムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
当メディアを運営するチェンシージャパン株式会社は、システムカスタマイズの相談から構築・導入までを一貫してサポートします。
導入後の体験談を事例としてお配りしておりますので、ぜひ下記よりご覧ください。