製造業の市場競争が激化する近年、企業の収益性を抜本的に見直すための管理会計が重要です。
しかし、「管理会計とは何か、どのように実施すれば良いのか?」とお悩みの方も多いでしょう。
本記事では、製造業における管理会計の概要と目的・進め方を解説します。
後半では、多くの製造業が直面する課題と対応策を紹介しているので、ぜひご覧ください。
製造業における管理会計とは?
製造業における管理会計とは、会社の経営戦略に合わせ、業務の効率化や収益性の向上を図るために利用される会計手法のことです。
具体的には、売上や原価、予算などのデータを分析し、業務の改善案やコスト削減などの経営戦略を策定するために利用します。
管理会計は財務諸表などと異なり、経営陣や管理職など社内向けに用いられるのが特徴です。
そのため、作成する指標に決まった形式はなく、各企業独自のやり方で作成します。
本章では、管理会計の導入目的と財務会計との違いを紹介します。
製造業が管理会計を導入する目的
製造業が管理会計を導入する一番の目的は、意思決定に必要な情報を集めるためです。
経営者が的確な意思決定をするためには、データに基づく正確な情報が必要です。
もちろん、財務諸表などを用いても良いですが、必ずしも意思決定に必要な情報を拾えているとは限りません。
たとえば、製品ごとの原価や部署ごとの予算達成率は、財務諸表のみで判断ができません。
そこで活用されるのが、意思決定のための会計である管理会計です。
管理会計では、目的に合わせて自社の収益性や製品情報、原価状況などさまざまな情報を独自に切り出し分析。
結果、正確なデータに基づいた意思決定が可能になり、将来の予測をもとに、戦略的な意思決定ができるようになります。
管理会計と財務会計の違い
管理会計と財務会計は、いずれも「会計」の文字がついていますが、目的や対象などが異なります。
双方の違いをまとめると、以下の通りです。
管理会計 |
財務会計 |
|
対象者 |
経営層や管理職 |
ステークホルダー(投資家・税務署など) |
目的 |
社内状況の把握 経営管理に活用 |
経営成績の外部報告 利害調節 |
実施の取り決め |
企業・担当者の任意で実施 |
会計基準に従い実施 |
書式 |
定めなし |
定めあり |
対象期間 |
任意の期間(週・月・年など) |
原則1年間 |
管理会計と財務会計の一番の違いは、実施目的です。
財務会計は、企業の財務状況や業績をステークホルダーに報告することが主目的。
たとえば、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書を作成し、投資家や税務署に開示します。
また、実施については会計基準で定められており、決まった形式をとる必要があります。
一方の管理会計は、社内状況の把握や意思決定に活用することが目的です。
会社独自の取り組みであるため、決まった形式がなく会社の任意で実行されます。
製造業における代表的な管理会計の軸
決まった形式のない管理会計ですが、製造業では主に以下3つの軸が設定されています。
- 経営分析
- 予算管理
- 原価管理
管理会計を導入する際は、自社が何を目指しているのかを明確にし、会計の軸を設定することが重要です。
それぞれ順に紹介します。
管理会計の軸1.経営分析
最も基本的な管理会計は、経営分析です。
経営分析とは、財務諸表や調査報告をはじめとする資料から企業の収益性や業績を分析し、将来的な経営判断に役立てることです。
管理会計における経営分析では、集めた情報をもとに会社の収益性や経営課題をあらゆる角度から測定し改善へとつなげます。
用いる指標はさまざまなですが、製造業では主に以下の分析区分を使います。
- 収益性の分析
- 安全性の分析
- 生産性の分析
- 債務償還の分析
- 損益分岐点の分析
- 効率性の分析
- 成長性の分析
管理会計の経営分析では、数値に基づく定量的なデータのみならず、従業員や取引先との関係性や市場環境などの定性的な情報を活用することが大切です。
自社の状況を正確かつ鮮明に把握するため、多角的な分析が望ましいです。
管理会計の軸2.予算管理
予算管理とは、企業や組織があらかじめ決めた予算に基づいて、収支の状況を把握・分析して最適化を目指すことです。
経費削減や収益の最大化を図り、企業の健全な経営を実現するための重要な業務です。
製造業で用いられる予算には、主に以下のものがあります。
- 損益予算
- 資金予算
- 資本予算
- 販売予算
- 製造予算
- 原価予算
- 経費予算
予算管理では、収支の実態をリアルタイムで管理できる体制が理想的です。
ただ、多くの製造業企業では、管理領域が広く実態と計測データとの間にタイムラグが生じるケースが多く見られます。(参照:わが国製造業における管理会計実践の実態と展望)
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管理会計の軸3.原価管理
原価管理とは、製品やサービスを提供するために必要な資源を適切に配分し、実際にかかった原価と照らし合わせて改善を図ることです。
製造業の原価は、売上の8割程度と大きな割合を占めており、会社の収益性を確保するためには原価率の最適化が欠かせません。
とりわけ管理会計における原価管理では、具体的な問題箇所の特定が必要なため、製品別や工場別など細かな区分で管理します。
製造業の原価管理について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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【製造業向け】管理会計の導入〜収益改善までの流れ
製造業が管理会計を導入する場合、どのような手順で進めれば良いのでしょうか。
基本的には、以下の手順に沿って管理会計の導入〜収益改善を実施します。
- 管理会計の導入目的を設定
- 目的に合わせ管理会計の区分を設定
- 資料を確認し問題点を模索
- 改善策を練り問題点を解消
管理会計の方法は、企業体制や経営方針によっても異なります。
現状、決まったプロセスが確立していない場合は、上記の手順をベースとし、独自の機能を追加すると良いでしょう。
手順1.管理会計の導入目的を設定
まずは、管理会計を導入する目的の設定です。
管理会計の目的が不明確では、収集・分析する情報量が膨大となり、多くの時間とコストがかかります。
そのため、以下のように何を目的とした管理会計なのかを設定することが大切です。
- 製品Aの収益性を図る
- 事業の予算管理をする
- 原価率を〇〇%削減
目標設定の段階である程度社内状況を把握できる場合は、具体的な数値を用いた目標設定がおすすめです。
ゴールを設定する方が、各プロセスですべきことが明確となり、スムーズに改善をとれるためです。
手順2.目的に合わせ管理会計の区分を決定
続いて、目的に合わせた管理会計の区分を設定します。
ここでいう区分とは、管理する対象物の粒度のこと。
たとえば、原価の削減を目標に据えた場合、以下の区分が挙げられます。
- 事業部門
- 工場別
- 工程別
- 製品別
- 顧客別
- 仕入れ先別
管理会計では、全社などの大きな区分を設定しないことが大切です。
区分が大きいと具体的な問題点を見つけづらく、改善行動につなげるのが難しいためです。
また、改善サイクル自体が肥大化してしまい、工数の増加や実行スピードの低下を招くため、なるべく細かな区分設定を心がけましょう。
手順3.資料を確認し問題点を模索
管理会計の区分を設定したら、資料を集めて問題点を模索します。
ここでは、経営層が求める情報を中心に定量データ・定性データの両方を集めて分析します。
管理する情報量が多い場合は、ITツールを活用するのがおすすめです。
膨大な量のデータをエクセルなどで管理すると、多くの時間がかかるためです。
現場の業務負担を考慮し、必要であればツールを活用すると良いでしょう。
手順4.改善策を練り問題点を解消
問題点が明確になったら、具体的な改善策を策定します。
ただ、製造業の業務や収支状況は、複数の要素が絡み合っているケースが多いため、改善により別の問題を誘発しないかに注意が必要です。
また1つの問題に対してもさまざまな改善方法があるため、自社の状況を考慮し適切な改善行動をとりましょう。
製造業が抱える管理会計導入時の課題
製造業企業が管理会計を導入すると、多くの場合で以下3つの課題に直面します。
- 会計データの信憑性を担保できない
- 会計データと経営実態にタイムラグが生じる
- 業務負担が増加し生産性が低下
上記の課題を未然に対処するためにも、ぜひ参考にしてみてください。
課題1.会計データの信憑性が低下
1つ目の課題は会計データの信憑性を担保できないことです。
エクセルやスプレッドシートによる情報管理では、データの収集や入力、関係者への共有が必要です。
その間、多くの人手作業が発生するため、入力ミスや記入漏れなどの人為的なミスが少なからず発生します。
また、仮に数値が誤っていたとしても、発見は困難でしょう。
意思決定のための管理会計データに誤りがあると、適切な意思決定が難しくなるため特に注意が必要です。
課題2.会計データと経営実態にタイムラグが発生
2つ目の課題は、会計データと経営実態にタイムラグが生じることです。
社内に散らばったデータを収集するには、かなりの時間を要します。
複数人で作業する場合でも、重複に注意する必要があるため確認に時間が必要です。
結果、データが完成した時点で経営実態とのタイムラグが生じ、誤った経営判断を誘発する可能性があります。
課題3.業務負担が増加し生産性が低下
3つ目の課題は、現場の業務負担が増加し生産性が低下することです。
会計管理は経営層や管理職によってはメリットの多い業務ですが、扱う情報量が多く、現場の負担になる点はデメリットです。
また、管理会計を初めて導入する場合は、形式が決まっておらず手探りで進めなければなりません。
本来、経営の最適化を目的とする業務でありながら、かえって業務を圧迫する恐れがある点に注意が必要です。
製造業の会計管理にはERPシステムがおすすめ
製造業の管理会計には、ERPシステムの利用がおすすめです。
ERPシステムとは、社内の各部門が管理するさまざまなデータを、単一データベースでまとめて管理するシステム。
基幹業務と呼ばれる、販売管理・在庫管理・生産管理・人材管理などをシステム上で連携します。
ERPシステムを導入することで、以下3つのメリットが期待できます。
- 人手業務の削減によりデータの信憑性を担保
- 経営実態とのタイムラグを解消
- 単純作業を削減し業務を効率化
本章では、製造業の管理会計にERPを活用するメリットを紹介します。
社内DXの基盤作りやレガシーシステムの刷新など、さまざまな理由からERPの導入に取り組む企業が増加しています。しかし、一般的なシステムよりも規模が大きいだけに、「どのように導入すれば失敗しないのか?」「導入にはどのくらいの期間・費用がかかる[…]
おすすめ1.人手業務の削減によりデータの信憑性を担保
ERPシステムを導入すると、社内のあらゆるデータが統合され、部門の垣根なく情報をやり取りできます。
たとえば、製品の在庫データを変更すると、その情報が営業部門や生産部門へ自動的に共有されリアルタイムで反映されるなどです。
これにより、業務間で重複していた入力作業や転記作業が不要となり、人手業務を削減できます。
また人手業務が減ることでミスを防止でき、会計データの信憑性を担保できます。
おすすめ2.経営実態とのタイムラグを解消
次に、ERPの導入により経営実態と会計データのタイムラグを解消できます。
従来、会計データを取りまとめるには、社内に散らばった情報を収集し、まとめ上げる必要があります。
管理データが複数のシステムにまたがっている場合は、収集作業だけでも多くの工数がかかるでしょう。
しかし、ERPシステムでは社内データが一元的に管理されているため、収集作業を短縮できます。
また、さまざまなセグメント機能・分析機能を搭載しているため、必要資料の迅速なアウトプットが可能です。
これにより、管理会計を実施する際、経営実態とのタイムラグを限りなく減らすことができ、適切な経営判断につながります。
おすすめ3.単純作業を削減し業務を効率化
ERPシステムによるデータの一元管理は、単純作業を削減し業務効率化につながります。
前述した管理会計データの収集や資料作成などは、ERPシステムの機能で自動化が可能です。
また、入力したデータがリアルタイムで共有されるため、日頃の入力作業や部門間での情報共有も削減できます。
たとえば、営業部門が案件を受注する場合、通常であれば各部門へ問い合わせ、日程の調節や在庫状況・資材調達の確認などが必要です。
ERPシステムの一元管理があれば、これらの確認内容を迅速に把握でき、業務効率化が可能に。
各管理業務でも、正確な情報に基づいて計画を策定できるため、現場の負担を軽減できるでしょう。
収益改善を目指す製造業の方へ
本記事では、製造業における管理会計の概要と目的、進め方を解説しました。
管理会計の実施は任意ですが、社内状況を可視化し問題を解決するためにも導入するのがおすすめです。
管理会計の実施には多くの作業工数がかかるため、ERPシステムによるデータ管理の体制を構築しておくと良いでしょう。
弊社チェンシージャパンは、製造業向けのERPシステム(IFSソリューション)の導入をサポートするグローバルカンパニーです。
以下の導入事例にて、経理業務の効率化を実現したお客様の声をご覧ください。