ChatGPTのリリースを皮切りに、最近ではAI技術が身近なものになりつつあります。この傾向はビジネスにおいても顕著であり、多くの企業がAI導入を推進しています。
しかし、AIは適用範囲が広く、なおかつ比較的新しい技術のため、どのように導入すれば良いかお悩みの方も多いでしょう。
本記事では、経済産業省の「AI導入ガイドブック」をもとに、AI導入プロセスや各工程での要点を解説します。
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AI導入の基礎知識・心構え
AIの導入プロセスを紹介する前に、必ず押さえておくべき2つの心構えを解説します。
- AI導入を成功させるには「小さく・素早く」
- AI導入では自社の状況に適した推進体制が肝心
上記は、プロジェクトの成功を左右するだけでなく、失敗時のリスク軽減にもつながります。順に紹介しますので、ぜひご確認ください。
AI導入を成功させるには「小さく・素早く」
経済産業省の「AI導入ガイドブック」でも解説されていますが、AI導入では、「小さく・素早く」プロジェクトを推進することが重要です。さらに言えば、一過性の取り組みで終わるのではなく、継続的・段階的にプロジェクトを育てる必要があります。
AIは比較的新しい技術ということもあり、多くの企業が手探りで導入を進めています。導入効果やリスクを把握しきれない現状では、身近な業務範囲から小さくAI導入を進めるのが賢明です。
将来、本格的にAI導入を進めるためにも、今のうちから素早くプロジェクトをこなし、多くのAI導入経験を得ておく必要があります。すでに一部の先行企業はAIの実証実験・本格実装に着手しています。
他の製造業とのデジタル競争で勝つためにも、「小さく・素早く」を意識してプロジェクトに取り組みましょう。
AI導入では自社の状況に適した推進体制が肝心
次に重要なのが、自社の状況に合ったプロジェクトの体制を構築することです。AI導入プロジェクトの体制は、大きく以下の3つに分けられます。
- 社内の担当者
- 社内の担当者+社内のAI人材
- 社内の担当者+外部のAIベンダー
①・②は、AI導入プロジェクトの設計〜AIモデルの構築、実装までを社内で完結する体制です。内製化のため、迅速にプロジェクトを推進できたり、ノウハウを蓄積できたりする点がメリットですが、専門知識を持つ人材が必須です。
③は、プロジェクトの設計や検証結果への業務観点からのフィードバックを社内で担い、AIモデルの構築や検証・実装の実行を外部へ委託する体制です。コストはかかりますが、AIに精通した人材が不在の場合でもプロジェクトを安定して推進できます。
ただし、よくある失敗として、AIベンダーへ任せっきりになるケースがあります。このケースでは、AIに関する知見を社内に吸収できず、次回以降もAIベンダーへ依存する形になります。
したがって、社内担当者が積極的に関与し、AIへの理解度を高めていくことが重要です。このように、体制ごとにメリット・デメリットがあるため、自社の状況や予算を考慮して適切な体制でAI導入に臨みましょう。
【工程別】AI導入のプロセス
ここでは、経済産業省の「AI導入ガイドブック」をもとに、AI導入のプロセスを紹介します。AI導入プロセスは、以下3つの工程で構成されています。
- AI導入プロジェクトの設計
- AIモデルの構築と検証
- AIモデルの実務導入・運用
上記3工程は、さらに9つのステップへ細分化されます。本章では、工程ごとに各ステップの要点を解説します。
工程1.AI導入プロジェクトの設計
まず行うのは、AI導入プロジェクトの設計です。この工程では、主に以下4つの作業を進めます。
- AI導入のゴール設定
- AIの学習用データを整理
- AIの導入イメージを検討
- AI導入の予算を検討
それぞれ順に紹介します。
1.AI導入のゴール設定
最初に取り組むのが、AI導入のゴール設定です。現状の業務を細分化し、どのような課題があるのか、AIによる解決が可能かを基準に目標を設定しましょう。
たとえば、需要予測の場合、現状の業務プロセスを洗い出し、誰が・どのタイミングで・どのように実施しているのかや、具体的な工数を定量的に算出します。この現状をベースに、AIモデルへ求める精度や実現可能性を模索します。
2.AIの学習用データを整理
次に、AIモデルを構築するために必要な学習用データを収集します。
初めは、手元にあるデータを整理します。また、普段担当者が意思決定をする際の判断軸や閲覧している情報もデータとしてまとめます。
これらのデータはAIモデルの精度に大きく関わるため、できるだけ多くの情報を集めましょう。現状手元にないデータは、収集方法を検討して実行します。
なお、データ収集は一過性で終わるわけではありません。AIの精度向上や対象範囲を広げる際にもデータが必要なため、継続的に収集する仕組みを構築することが大切です。
3.AIの導入イメージを検討
ここでは当初の目標を一歩掘り下げ、実務においてどのタイミングでAIを活用するのか、分析・予測してほしい対象期間や情報の粒度を設定します。
たとえば、12〜2月の季節品の売上点数をAIに予測させ、人手で売上計画を策定するなどです。実務での用途を明確にできれば、AIモデルの構築・検証がスムーズに進みやすくなります。
4.AI導入の予算を検討
プロジェクト設計の最終段階では、AI導入の予算を検討します。ここで決める内容は、主に以下の3つです。
- 初期費用(AIモデル構築費用+AIベンダー費用等)
- AIモデルの構築・検証スケジュール
- 自社人件費
外部のAIベンダーに委託する場合は、相手方の支援のもと予算を編成します。一方、自社で内製化する場合は、関係者のスケジュールや人件費、AI構築ツールのコストなどを細かく洗い出します。
予算設定が甘いと最終的に費用対効果が合わなくなるため、できるだけ細かい計画を立てましょう。
工程2.AIモデルの構築と検証
次の工程では、AIモデルを構築して検証を繰り返します。また、次の工程である実装に向けた準備も含め、以下3つの作業を実施します。
- AIモデルを構築し検証を繰り返す
- 業務プロセスを整理しAIの適用可否を検討
- AIの実装計画を策定
本工程から、AIに関する専門的な知識が必要なため、AIベンダーが本格的にプロジェクトへ関与します。ここでは、AIベンダーに作業を委託する場合の要点を紹介します。
5.AIモデルを構築し検証を繰り返す
以下の手順で、AIモデルを構築・検証し最適化していきます。
- 用意したデータを利用可能な形式へ変換
- 初期AIモデルを構築
- AIモデルを仮稼働させ精度を検証
- 影響を与えたデータ項目やパラメータを調節
- 検証を繰り返し、精度の高いAIモデルを選定
一見すると、多くの作業をAIベンダーが担いそうですが、すべてを任せっきりにするのは危険です。
AIベンダーはあくまでもAIに関する専門家です。自社の業務や要件を100%理解しているわけではないため、社内担当者が積極的に関与する必要があります。
たとえば、検証段階で精度が低い場合は、担当者のこれまでの経験を元に、どのデータが影響したのか?の仮説を立てていくなどです。この他、最終的なAIモデルの選定も社内の担当者が担うことが大切です。
6.業務プロセスを整理しAIの適用可否を検討
次に、プロジェクト設計で検討した「AIの導入イメージ」をより深掘りします。現状の業務プロセスとAIモデルの予測精度を照らし合わせ、どの業務プロセスに導入するのか、また従業員はどこに配置するのかを決定します。
基本的に、AIの予測精度は100%ではないため、AIによる予測・分析の後工程に従業員の業務を配置するケースが多く見られます。自社で構築したAIモデルの用途や現状の業務プロセスを考慮し、適切なプロセスへと業務改善をしましょう。
7.AIの実装計画を策定
本格導入に向けた詳細な計画を策定していきます。具体的には、本格導入の日程やその方法などを取り決めます。
いきなり既存業務とAIを置き換えると、その他の業務にも影響する恐れがあるため、まずは既存業務とAIモデルを並行して稼働させるのがおすすめです。AIモデルの効果を検証できるうえに、万が一トラブルが発生した際のリスクヘッジになります。
なお、本格導入の計画策定では、これまでに発生したコストやAI導入によって生まれる価値を計算し、投資効果を試算することが重要です。この段階で費用対効果が合わない場合は、プロジェクトの中断やチームの再編を検討します。
本格稼働後の手戻りは、より多くのコストがかかるため、この段階でプロジェクトの継続可否を判断しましょう。
工程3.AIモデルの実務導入・運用
最後の工程では、AIモデルを実際に導入して運用を開始します。ここでの作業は以下の2つです。
- AIモデルの実装・現場への浸透
- AIモデルの精度を検証し改善
運用が開始されてからも定期的に効果を検証し改善を図ります。各要点の詳細をみていきましょう。
8.AIモデルの実装・現場への浸透
AIモデルを実装する際には、経営者やプロジェクトリーダーが中心となり、従業員へプロジェクトの必要性や業務への影響を説明しましょう。これは、従来の業務プロセスが変化することで、不安に感じる従業員も存在するためです。また、丁寧に説明することでAIへの興味関心が高まりやすく、次回以降の取り組みを進めやすくなる可能性があります。
なお、AIモデルの対象範囲が広い場合は、本格稼働を複数の段階に分けて実施するのが効果的です。一度に広い業務範囲で稼働させると、現場の混乱につながる恐れがあります。
したがって、既存システムとの連携も最小限にとどめ、段階的に本格稼働の範囲を広げると良いでしょう。
9.AIモデルの精度を検証し改善
本格稼働後は、定期的にAIモデルの予測精度を確認しましょう。AIは学習データを元に予測・分析をするため、外部環境の変化によって予測精度が変化するケースがあります。
予測精度の低下が見られた場合は、再度データ学習を実施します。また、継続的にデータ収集を続けている場合は、新たに蓄積されたデータを学習させることで精度の向上が期待できます。
もちろん、費用対効果は重要ですが、必要に応じてAIモデルの精度向上を目指しましょう。
AI導入で失敗しないための2つのポイント
最後に、AI導入での失敗を避けるためのポイントを2つ紹介します。
- プロジェクトのゴールを設定する
- AIへの理解度を深め続ける
初めから100%成功させるのは困難ですが、失敗の確率を減らしたり、リスクを軽減したりすることは可能です。近く、AI導入を進めようとお考えの方は、ぜひ上記のポイントを実践してみてください。
ポイント1.プロジェクトのゴールを設定する
すべてのプロジェクトに共通しますが、はじめにゴールを明確にすることが重要です。特に初めてAIを導入する場合は、明確なゴールが萎えければ途中でプロジェクトの方向性を見失う恐れがあります。
また、構築したAIモデルの精度が低かったり、投資コストを回収できなかったりするため、プロジェクトの目標は必ず明確にしておきましょう。
ポイント2.AIへの理解度を深め続ける
AI導入で失敗するよくある原因として、AIへの理解不足が挙げられます。AIで具体的に何ができるのか、またどの程度のコストがかかるのかを理解しないままプロジェクトを進め、結果的に期待した費用対効果を得られないなどです。
もちろんAIは非常に優れた技術ではありますが、効果的な活用方法を理解しなければ成果は得られません。したがってAIの導入をお考えの方は、同業種での先行企業の事例などを参考にし、AIへの理解度を深め続けることが大切です。
正しいプロセスでAI導入を進めよう
この記事では、AI導入のプロセスを紹介しました。改めて、プロジェクトの発足〜運用までの流れは以下の通りです。
- AI導入プロジェクトの設計
- AIモデルの構築と検証
- AIモデルの実務導入・運用
AI導入と聞くと、非常に難易度の高いプロジェクトにも思いますが、要点を押さえて進めていけばそれほど難しくありません。初めてAI導入に挑戦しようとお考えの方は、ぜひ「小さく・素早く」を意識してプロジェクトを推進してみてください。
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