2015年のパリ協定をきっかけに、注目を集めたカーボンニュートラル。
実施に向け脱炭素化を進めようにも、どのように取り組めば良いかお悩みの方、多いのではないでしょうか。
本記事では、カーボンニュートラルの概要を踏まえながら、政府・企業の取り組み事例やメリットを紹介します。
カーボンニュートラルとは?
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と森林等による吸収量を均衡させること。
単に、温室効果ガスの排出量を削減するのではなく、森林等による吸収量を加味して、企業・地域等の枠で見た場合の排出量を実質ゼロの状態にすることです。
そのためカーボンニュートラルは、CO2やメタンなどの排出量削減と植林・森林保護による吸収量増加の2面性を持っています。
以下は、2015年のパリ協定で採択された世界共通の長期目標です。
世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて
2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(2℃目標)今世紀後半に
温室効果ガスの 人為的な発生源による排出量と
吸収源による除去量との間の 均衡を 達成すること
上記の長期目標を実現するため、120カ国以上の国と地域が2050年のカーボンニュートラル実現を掲げています。
カーボンニュートラルが注目されている理由
近年メディアでも度々取り上げられるカーボンニュートラルですが、なぜこれほどまでに注目されているのでしょうか。
主な要因は、以下の2つがあげられます。
- 環境問題への対応
- 【企業向け】社会的な信用の獲得
2つ目の理由は、企業にとってのメリットにもつながります。
脱炭素化の推進を検討中の方は、ぜひご確認ください。
理由1.環境問題への対応
カーボンニュートラルが注目される一番の要因は、環境問題への対応です。
環境省の資料によれば、世界の平均気温が工業化以前(1850年〜1900年)と比べ1.1℃上昇したとのこと。
なかでも、工業化が進んだ1980~99年以降の上昇率が高いため、対策を講じなければ今後さらに温暖化が進むと考えられます。
仮に、世界平均気温が工業化以前と比べ2℃近く上昇すると、低緯度地域での穀物生産量低下や世界で数億人規模の水不足に陥ると推定されています。
我々がこれまでの生活を維持し安全に暮らすためには、カーボンニュートラルの実現が必要なのです。
【企業向け】社会的な信用の獲得
近年、政府の政策やメディアでの報道もあり、我々国民の環境問題に対するリテラシーが向上しています。
こうした背景もあり、一部の消費者は、商品を選ぶ際に品質・価格のほかに環境への配慮を意識する傾向が高まっています。
また以前に比べ、脱炭素化や環境問題対策を取り上げるメディアが増えてきているでしょう。
積極的にカーボンニュートラルへ向けて取り組む企業は、メディアで取り上げてもらえる可能性が高いです。
したがって、カーボンニュートラルへの取り組みは、メディアへの露出により会社・ブランドの認知度向上や信頼性の向上につながりやすいのです。
カーボンニュートラル達成に向けた日本政府の取り組み
カーボンニュートラルの実現に向け、日本政府や地方自治体が連携しさまざまな取り組みをおこなっています。
ここでは、環境省が提供する「脱炭素ポータル」の情報を元に、以下4つの取り組みを紹介します。
- グリーン成長戦略
- 地球温暖化対策推進法の改正
- ゼロカーボンシティの実現
- ゼロカーボン・ドライブの推進
政府や地方自治体の取り組みは、法律や補助金など会社の事業や我々の生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。
環境省・経済産業省のポートタルを確認し、取り組み内容を把握しておくことが大切です。
取り組み1.グリーン成長戦略
グリーン成長戦略とは、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、環境問題対策に関連した企業の取り組みを支援する政策です。
具体的には、以下5つの軸に政策を総動員し、国内から脱炭素イノベーションを創出します。
- 予算:政府が企業への環境投資に踏み込むべく、2兆円の基金を設立
- 税制:カーボンニュートラル関連への投資・企業活動・研究の税制支援
- 金融:民間投資を呼び込むための仕組み(法制度・ファンドetc.)を構築
- 規制改革・標準化:イノベーションを創出するための規制緩和・市場への関与
- 国際連携:新興国など海外市場を獲得し競争力を強化・M&Aによる海外資本の取り込み
また、グリーン成長戦略には、国民生活の支援も含まれています。
そのため、本戦略で重点的に支援される産業には、エネルギー関連産業や製造業のみならず、生活への関わりが深い食品産業・農林水産業・建築業等も含まれます。
近年では、法改正や脱炭素設備への補助金制度の施行など、グリーン成長戦略が着実と進められています。
従来の仕組みが大きく変革されているため、継続的に政府の動向に注目しておくと良いでしょう。
取り組み2.地球温暖化対策推進法の改正
地球温暖化対策推進法は、国内で地球温暖化対策を円滑に進めるために、1998年に公布された法律です。
カーボンニュートラルが注目される前から施行されていましたが、2015年のパリ協定をきっかけに法律が改正されています。
特に大きな変化があったのは、令和3年改正です。
主に、以下3つの改正が行われました。
- 2050年カーボンニュートラルが基本理念として法律に明記
- 地方自治体・公共団体に対し、カーボンニュートラルの実現に向けた目標の設定を求める
- 企業の温室効果ガス排出量情報をオープンデータ化
なかでも、1つ目の「カーボンニュートラルが基本理念として法律に明記」は、企業や国民にも関連する内容です。
条文には、以下の記載があるためです。
(基本理念)第二条の二我が国における二千五十年までの脱炭素社会(人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出量と吸収作用の保全及び強化により吸収される温室効果ガスの吸収量との間の均衡が保たれた社会をいう。第三十六条の二において同じ。)の実現を旨として、国民並びに国、地方公共団体、事業者及び民間の団体等の密接な連携の下に行われなければならない。
(事業者の責務)第五条事業者は、その事業活動に関し、温室効果ガスの排出の量の削減等のための措置(他の者の温室効果ガスの排出の量の削減等に寄与するための措置を含む。)を講ずるように努めるとともに、国及び地方公共団体が実施する温室効果ガスの排出の量の削減等のための施策に協力しなければならない。
(国民の責務)第六条 国民は、その日常生活に関し、温室効果ガスの排出の量の削減等のための措置を講ずるように努めるとともに、国及び地方公共団体が実施する温室効果ガスの排出の量の削減等のための施策に協力しなければならない。
まとめると、「企業・国民もカーボンニュートラルの関係者であり、国・地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない」というもの。
カーボンニュートラルを法律に定めることで、政策・施策の継続性を示し、地球温暖化対策やイノベーション創出を図っています。
取り組み3.ゼロカーボンシティの実現
ゼロカーボンシティとは、2050年までに二酸化炭素排出量の実質ゼロを目指すと表明した自治体のこと。
前述した「地球温暖化対策推進法の改正」に伴い、ゼロカーボンシティを目指す自治体が増加しています。
また、自治体としても環境省から以下の支援が受けられるため、脱炭素化に向けた施策を講じやすいのです。
- 自治体の気候変動対策や温室効果ガス排出量等の現状把握(見える化)支援
- ゼロカーボンシティの実現に向けたシナリオ等検討支援
- ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の合意形成等の支援
2021年8月時点で、全国444の自治体がゼロカーボンシティとして表明しました。
すでに一部の自治体では、ゼロカーボンシティのための取り組みを開始しています。
たとえば、埼玉県所沢市は、地域の新電力会社として「株式会社株式会社ところざわ未来電気」を設立。
この電力会社は、地域内で発電した再生可能エネルギーを主電力としています。
すでに供給が開始されており、電気エネルギーの脱炭素化につなげています。
取り組み4.ゼロカーボン・ドライブの推進
ゼロカーボン・ドライブは、再生可能エネルギーで発電した電力を使い、走行時のCO2排出量がゼロのドライブです。
環境省が主体となって取り組んでおり、主に以下の施策を実施しています。
- 個人・中小企業等に対し電気自動車・ハイブリッド車・燃料電池自動車の購入補助を実施
- 全国12の国立公園・国民公園で電気自動車等の駐車料無料キャンペーン
特に、1つ目の購入補助金は一定の成果を収めており、国内の電自動車等の普及率は増加傾向にあります。
日本は2035年以降、ガソリン車の新車販売が禁止されるため、電気自動車の普及率は着実に高まると推測できます。
企業がカーボンニュートラルに取り組む5つのメリット
企業がカーボンニュートラルに取り組んだ場合、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
環境省が発表した「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」によると、経営・事業に関連する以下5つのメリットが期待できるようです。
- 競合に対する優位性の構築
- 光熱費・燃料費の低減
- 自社の知名度・認知度の向上
- 従業員のモチベーション向上と人材獲得力の強化
- 資金調達時の優位性を獲得
本章では、「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」を参照しつつ、上記のメリットを紹介します。
メリット1.競合に対する優位性の構築
1つ目のメリットは、競合に対する優位性の構築です。
サプライチェーンを抱える大手の企業は、こぞって2050年カーボンニュートラルを表明しています。
取り組みの一環として、自社のみならずサプライヤーに対してもCO2排出量の削減を求めています。
つまり、脱炭素化を行なっていない企業は、サプライチェーンから孤立する恐れがあるのです。
こうした動きは今後さらに活発化すると予測されるため、いち早く脱炭素化を進めた場合、取引先の候補として選定されやすくなるでしょう。
メリット2.光熱費・燃料費の低減
2つ目のメリットは、光熱費・燃料費の低減です。
カーボンニュートラルに向けた主な取り組みは、以下のものがあげられます。
- 省エネ設備の導入
- 業務効率化によるエネルギー効率の向上
- 再生可能エネルギーを活用した自社発電
省エネ設備の導入や業務効率化は、いずれも事業におけるエネルギー効率を高める取り組みです。
実現できれば、従来よりも消費エネルギーを大幅に削減できるため、コスト削減につながります。
また、太陽光・風力などの再生可能エネルギーを活用して自社で発電する場合、経済状況や情勢による電気代高騰リスクを回避できます。
結果、光熱費・燃料費の低減を実現できるでしょう。
メリット3.自社の知名度・認知度の向上
3つ目のメリットは自社の知名度・認知度の向上です。
先行的に脱炭素化を進めている企業は、各省庁の資料やテレビ・インターネット等のメディアで取り上げられます。
これにより、会社・ブランド・脱炭素関連商品の認知につながり、業績に良い影響をもたらすでしょう。
現状、中小企業でのカーボンニュートラルへの取り組み事例は少ない傾向にあります。
競合よりも早く取り組み、一定の成果を上げることで、優位性を構築できるのではないでしょうか。
メリット4.従業員のモチベーション向上と人材獲得力の強化
4つ目のメリットは、従業員のモチベーション向上や人材獲得力の強化です。
脱炭素化に取り組む企業は、環境問題に関心の高い人材から共感・評価されます。
自身が働く会社が、環境問題に対して積極的に取り組んでいるとなれば、従業員のモチベーションにつながるでしょう。
また、求職者の一部では、就職先の条件に社会課題への取り組みを掲げる人も存在します。
カーボンニュートラルの実現に向けて行動を起こすことで、こうした求職者を獲得しやすくなります。
メリット5.資金調達時の優位性を獲得
5つ目のメリットは、資金調達時の優位性を獲得できることです。
税制・金融は、政府が進めるグリーン成長戦略のかなめです。
すでに一部の銀行・金融機関では、温室効果ガスの排出量削減量を貸出金利に反映するサステナビ リティ・リンク・ローンが進められています。
脱炭素化で一定の成果を上げている場合は、金利が優遇され、好条件で資金を調達できます。
また、脱炭素関連の補助金制度・税制優遇制度も設けられているため、自社の取り組みを政府や自治体から支援してもらえるでしょう。
企業によるカーボンニュートラルへの取り組み事例5選
ここでは、いち早くカーボンニュートラルに向けて取り組みを開始した以下5つの企業の事例を紹介します。
- トヨタ自動車株式会社
- 三菱重工業株式会社
- 住友化学株式会社
- イオン株式会社
カーボンニュートラルに向けた脱炭素化を検討中の方は、ぜひご覧ください。
事例1.トヨタ自動車株式会社:製造業
「トヨタ自動車株式会社」は、2050年までの環境問題対策を「トヨタ環境チャレンジ2050」とし、さまざまな取り組みを進めています。
なかでも、自動車をつくる・運ぶ・使う・廃棄というライフサイクルにおいて、CO2排出量をゼロにする取り組みが印象的です。
2035年までには、世界中の工場でCO2排出量を実質ゼロにするべく、サプライヤーとの調節をおこなっています。
また日本での、2035年以降ガソリン車販売の禁止を受け、電気自動車やハイブリッド車の開発・製造に尽力しています。
事例2.三菱重工業株式会社:製造業
「三菱重工株式会社」は、2040年までのカーボンニュートラル実現を掲げる「MISSION NET ZERO」を発表しました。
MISSION NET ZEROでは、バリューチェーン全体のCO2排出量を実質ゼロにすることを目標としています。
同社は、CO2排出量を削減するだけでなく、排出されたCO2を回収・貯蓄し企業活動に利用する「CCUS」に取り組んでいます。
三菱重工グループのCO2回収設備やCO2残留サイトは、欧州を中心に導入が進んでいる状態です。
今後はCCUS技術を活用し、グループ内の脱炭素化も進めていくでしょう。
事例3.住友化学株式会社:製造業
「住友化学株式会社」は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた「グランドデザイン」を策定しました。
主に、脱炭素化に向けたソリューションの提供や新製品の開発強化を実施しています。
たとえば、CCUS技術を応用した、農業資材を使用した土壌炭素貯留技術の開発などです。
排出された温室効果ガスを有用活用することで、カーボンニュートラルの実現を目指しています。
事例4.イオン株式会社:小売業
「イオン株式会社」はカーボンニュートラルの実現に向け「イオン脱炭素ビジョン」を策定。
本ビジョンでは、以下3つの視点で、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする取り組みを進めています。
- 店舗
- 商品・物流
- お客さまとともに
たとえば、脱炭素型ライフスタイルを支援するため、脱炭素型住宅(ZEH)の新築・リフォームや再生可能エネルギーを活用した店舗の脱炭素化をおこなっています。
今後はさらにファイナンス事業・建築事業を軸に、脱炭素型ライフスタイルをサポートするようです。
先行事例を参考にカーボンニュートラルへ取り組もう
本記事では、カーボンニュートラルの概要を踏まえながら、政府・企業の取り組み事例やメリットを紹介しました。
現状、大手企業の取り組みが多いものの、今後は中小企業も脱炭素化に向けた取り組みが求められるでしょう。
また、カーボンニュートラルへの取り組みは、優位性の構築やコスト削減など企業にとってのメリットも期待できます。
先行事例を参考にし、ぜひカーボンニュートラルへ取り組んでみてください。
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IFS Cloudは基幹業務の一元管理はもちろん、CO2排出量の管理・分析にも対応しています。
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