近年、多様化するニーズへ対応すべく、従来のフィールドサービスを見直す動きが活発化しています。
具体的には、デジタル技術・ITシステムで現場の課題を解決しつつ、さらなる高付加価値化を目指すというもの。
実際、一部の先行企業はデジタル技術・ITシステムを導入し、フィールドサービスの最適化に成功しています。
この記事では、近年のフィールドサービスが直面する課題と最適化の方法を解説。
後半では、DXによるフィールドサービスの最適化事例も紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
フィールドサービスとは?
フィールドサービスとは、企業が顧客の元を訪れて製品に関するサポートサービスを提供することです。
主に高価格帯や月額制の製品が多い、製造業・IT業界で採用されています。
身近な例をあげると、プリンターの訪問サポートやWi-Fiのセットアップなどもフィールドサービスの1種です。
専門知識を持つ担当者が、現場で発生するトラブルを臨機応変に対処し、顧客の課題解決を目指します。
基本となる3つのフィールドサービス
フィールドサービスは、主に以下の3種類に集約されます。
-
設置:購入した製品やシステムを設置・セットアップするサービス
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点検:製品やシステムに異常がないかを確認するサービス
- 修理: 製品やシステムの異常・故障を修理するサービス
上記の3つは、製品の導入〜運用においてユーザーが特に負担を抱えやすいポイントです。
そのため、フィールドサービスにて顧客を支援することで、製品の購買につながったり、満足度が向上したりします。
また、長期的には、企業・顧客間の信頼関係や企業の収益向上につながりやすいため、多くの企業が実施しています。
フィールドサービスの重要性
フィールドサービスが製造業・IT業界で重要視される主な理由は、製品の費用対効果を間接的に向上できるためです。
基本的に、製品の費用対効果は「コストに対してどれほどの効果をもたらすのか」です。
費用対効果を高めるには、製品の機能・性能を向上させるか、コストを下げるのが定石です。
そんななか、フィールドサービスは新たな切り口として「製品のパフォーマンスを落とさず、長期的に安定稼働させる」ことを目的としています。
製品を点検・保守をすることで性能の低下を防ぎ、なおかつ故障やトラブルによる部品交換・買い替え(追加コスト)を回避させているのです。
フィールドサービスは「製品の価値を維持することで、費用対効果を間接的に向上させる」という大切な役割を担っています。
多様化するフィールドサービスの役割
従来のフィールドサービスは、製品の設置・点検・修理を基本としたサービスが一般的でした。
言い換えれば、「製品の性能維持」に重きが置かれていたのです。
しかし、近年のフィールドサービスは、「製品の性能維持」に加えて「顧客の課題解決」が重要視されつつあります。
たとえば、ITシステムの導入経験が少ない顧客に対し、現地に赴いて導入作業を支援したり、従業員への教育を実施したりするなどです。
製品の機能性が向上したことで、それを扱うためのスキル・ノウハウも高度なものとなりました。
結果、製品の導入〜運用時に顧客が抱える課題が増え、フィールドサービスに求められる役割が多様化していると考えられます。
今では、フィールドサービスをオプション機能として売り出すケースも多く、新たな収益の軸になりつつあります。
フィールドサービスが抱える3つの課題
年々重要度が高まるフィールドサービスですが、実は多くの企業が以下3つの課題に直面しています。
- 依頼への対応スピードが遅い
- 担当者に属人化しやすい
- フィールドサービスの人材が不足
本章では、上記の課題と解決に向けた方向性を紹介します。
課題1.依頼への対応スピードが遅い
フィールドサービスの問題1つ目は、依頼への対応スピードの遅さです。
問題となる理由は、依頼をこなせる作業員が限られている・部品の在庫が不足しているなど、さまざまな要因があります。
ただ、この問題の根底を見ると、担当者の業務管理がうまく機能していないケースがほとんど。
たとえば、「作業員の派遣先やスケジュールを把握できていないばっかりに、本来こなせたはずの依頼を後日に持ち越した」という経験、一度はあるのではないでしょうか。
顧客が抱えるトラブルには、時間の経過とともに被害が拡大するものも存在します。
作業員の稼働状況・リソースをデータベースで統合し、時間のロスを限りなく減らすなどの対応が必要です。
課題2.担当者に属人化しやすい
フィールドサービスの問題2つ目は、担当者に属人化しやすいことです。
顧客のもとで作業するフィールドサービスは、対応内容やノウハウが担当者に属人化しやすい傾向にあります。
もちろん、フィールドサービスの内容を記録している会社は多いものの、そのデータを活用できているケースはまれでしょう。
担当者の属人化が進むと、ほかの技術者が対応にあたれず、サービスの提供スピードが低下したり、ベテラン作業員が離職した際に対応できなかったりと多くの問題を誘発します。
フィールドサービスの属人化を解消するには、記録方法の統一やノウハウのデータベース化が効果的です。
単一のデータベース上で記録データを管理できれば、すべての技術者がいつでも必要情報へアクセスできるため、ノウハウやスキルを習得しやすくなります。
技術者全体の能力が向上すれば、さらなる顧客満足度にもつながるため、属人化の解消に向けて新たな枠組みを構築すると良いでしょう。
課題3.フィールドサービスの人材が不足
フィールドサービスの問題3つ目は、フィールドサービスの人材が不足していることです。
フィールドサービスの人材不足は、非常に深刻化しています。
フィールドサービスの担当者には、製品に関する専門的な知識・現場での臨機応変な対応力・顧客とのコミュニケーション能力など、高い能力が求められます。
そのため、新たに雇用しようにも、条件に合った人材が集まりづらいのです。
また、すでに人手不足が深刻化している場合は、依頼への対応にリソースが割かれ、人材育成に手が回らないケースも多いでしょう。
ただ、日本全体で高齢化・労働者不足が進行している昨今、新たな人材を獲得していくのは現実的ではありません。
今後は人材不足そのものを解消するのではなく、現状の人材で最大限の生産性を発揮する仕組みが求められます。
たとえば、ベテラン作業員が遠隔で指示を出したり、顧客が自らトラブルを解消できるよう積極的に情報提供をしたりなど。
人手不足は年々深刻化すると考えられるため、いち早く解決に向けた対策に取り組むことが重要です。
フィールドサービスの最適化にはデジタル技術・ITシステムが効果的
フィールドサービスを最適化するには、AIやIoTなどのデジタル技術・フィールドサービス業務全般を管理するITシステムの活用が効果的です。
その主な理由として、以下の4つがあげられます。
- フィールドサービスの受注業務を効率化できる
- AI・Iotにより予知保全を実現できる
- ARを活用し遠隔でフィールドサービスを提供できる
- 属人フィールドサービスの実績データを一元管理しノウハウを共有できる
本章では、現場で発生する課題とデジタル技術・ITシステムの導入効果を合わせて解説します。
理由1.フィールドサービスの受注業務を効率化できる
フィールドサービスの受注業務といえば、電話・メールで問い合わせを受け、エクセルやスプレッドシートなどの管理シートに記入するケースが多いでしょう。
しかし、この受注業務をフィールドサービスシステムで一元管理すれば、問い合わせ・入力業務・担当者割り当てを自動化できます。
たとえば、顧客があらかじめ用意されたフォーマットで問い合わせると、その情報が自社のデータベースに集約。
作業員のスキルレベル・稼働状況と紐付き、自動的に案件を割り振れる仕組みです。
ITシステムを活用すれば、従来よりも少ない人員で業務をこなせます。
また、フィールドサービスシステムでは、作業員のスケジュール管理やGPSによる位置情報管理も可能です。
作業員の業務負担を考慮しつつ案件を依頼できるため、時間のロスを削減できます。
理由2.フィールドサービスの実績データを一元管理しノウハウを共有できる
フィールドサービスシステムは業務の標準化にも効果的です。
依頼ごとに記録される実績データは、データベースで一元管理されます。
データベースにはすべての作業員がアクセスできるため、ベテラン作業員の実績データを閲覧し対応方法などを学習できます。
また、これまで紙で管理していたマニュアルを電子化できる点も魅力。
万が一派遣先で対応に困った場合でも、タブレット端末を使えば瞬時に求める情報へアクセスできます。
作業員一人一人の対応力を向上でき、フィールドサービスの品質向上につながるでしょう。
理由3.AI・Iotにより予知保全を実現できる
特に、製造業ではAI・IoTを活用した予知保全が注目されています。
予知保全とは、提供した製品の稼働状況を監視して不具合の兆候を察知し、未然に対策を講じることです。
予知保全は、従来の予防保全や事後保全よりも作業工数を抑えられるため、作業員の業務効率化が期待できます。
また、顧客としても製品のトラブルが発生する前に対処してもらえるため、パフォーマンスの低下を回避でき安定して製品を稼働できます。
ただ、予知保全をおこなうには、製品に稼働時間・温度・振動数などを検知するセンサーを搭載する必要があります。
導入に際しては設計や製造などすべての生産工程に関わるため、各部門に協力を仰ぎ慎重に進めましょう。
理由4.ARを活用し遠隔でフィールドサービスを提供できる
ARは拡張現実ともよばれ、専用のゴーグルやタブレット端末で撮影した映像に、デジタル情報を付加する技術のことです。
ARを活用すれば、現実には存在しない物体を映像をとおして投影できます。
この技術をフィールドサービスに転用すれば、離れた場所にいるベテラン作業員が現場の作業員に遠隔で指示を出せます。
電話やメールでの指示出しよりも状況を正確に把握できるうえに、ゴーグルタイプの端末であれば、両手を空けた状態で効率よく作業が可能。
現場の作業員が対応できずベテラン作業員を追加で派遣したり、誤った対応で二次被害を誘発したりするリスクを回避できるでしょう。
AR技術による遠隔作業支援システムは、前述したフィールドサービスシステムとあわせてパッケージになっているケースがほとんどです。
フィールドサービスシステムを選定する際に、遠隔作業支援システムも内包しているかをチェックしておきましょう。
フィールドサービスを最適化した製造業事例3選
冒頭でも紹介したとおり、一部の先行企業はフィールドサービスの最適化に成功しています。
- 富士通株式会社
- 株式会社みつわポンプ製作所
- 株式会社神戸製鋼所
ここでは、デジタル技術・ITシステムを活用しフィールドサービスを最適化した3つの事例を紹介します。
富士通株式会社:ARを活用し保守・点検の負担を軽減
富士通株式会社はクラウドシステムや電子機器を製造する日本大手のメーカーです。
同社はAR技術を保守・点検業務に転用し、業務負担の軽減に成功しました。
ARゴーグルを使用し、対象物に作業の手順や方法を重ね合わせて表示。
これにより、従来よりも正確かつ円滑に保守作業でき、作業員の負担を軽減できたようです。
また、ARゴーグルに過去の保守履歴も表示したことで、「誰が・いつ・何を・どのように変更したか」がわかり、引き継ぎ後の作業を円滑にしています。
特に有毒ガスが使用される製品は、申し送りが不十分なために事故が発生し作業員に危険が及ぶリスクもあります。
AR技術で前任者の作業履歴を示すのは、作業の効率化だけでなく安全性の確保にもつながっているようです。
ARを活用した保守・点検システムは、さまざまな企業が提供を開始しています。
現状の課題をもとに要件をまとめ、自社に適したソリューションを選定しましょう。
株式会社みつわポンプ製作所:AIを活用しポンプの故障予知を実現
株式会社みつわポンプ製作所は、工業用のポンプを製造する会社です。
同社はポンプにセンサーを取り付け、振動・音・温度・電流などの情報を収集。
AIで情報を分析し故障の前兆を掴む、予知保全を実現しています。
ただ、同社がAIの予知保全を実現するまではには、多くの課題がありました。
特に、既存データが少なく、AIの機械学習が進まなかったようです。
そこで、故障予知の検証範囲を絞り込み、社内に擬似環境を構築してデータの収集に努めました。
結果、構築したAIは故障前兆の正解率が9割にものぼり、今では新サービスとして提供を開始しています。
AIの故障予知と聞くと実現が難しそうにも思いますが、まずは範囲を絞り小さく初めていくことが成功の鍵を握るのではないでしょうか。
株式会社神戸製鋼所:システムを導入しフィールドサービスを一元管理
株式会社神戸鉄鋼所は、金属加工や産業機械を手掛ける大手の鉄鋼メーカーです。
同社は、機械事業部門にITシステムを導入し、フィールドサービスを含むアフターサービスを一元管理しました。
元々、保守・整備計画を立てる際には、過去の実績を確認し担当者のノウハウ頼りで作成していました。
さらに、部品の在庫情報が正確に管理されておらず、顧客の要望に対して対応が遅れるケースもあったようです。
こうした課題を解決するべく、Excelや紙による管理からITシステムによるデータ管理へ移行。
結果、整備計画を担当者だよりではなく、経過月数・稼働時間などの情報をもとに生成できるようになりました。
また、在庫データもリアルタイムで更新されるため、依頼への対応スピードも向上しています。
フィールドサービスを改善し顧客エンゲージメントを高めよう
この記事では、近年のフィールドサービスが直面する課題と最適化の方法を解説しました。
フィールドサービスの課題を解決し、より顧客満足度を向上させるには、デジタル技術やITシステムが効果的です。
自社にあったソリューションを導入し、フィールドサービスを最適化してみてはいかがでしょうか。
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