原価管理は、企業の成長に欠かせない重要な業務です。
ただ、業種によって重視すべき原価や管理方法が異なるため「どのように管理すれば良いかわからない」とお悩みの方も多いでしょう。
本記事では、原価管理の基本概要、管理の方法・課題と対策を解説します。
Excel管理により発生する課題についても解決策とともに紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
原価管理とは?
原価管理とは、利益の最大化を目的に、商品・サービスの原価を算出し問題点を改善する手法のこと。
主に製造業で取り入れられている業務であり、生産業務全体をコントロールする「生産管理」に内包されます。
原価管理の具体的な定義は企業によっても異なりますが、1962年の大蔵省(現:財務省)は下記のように示しています。
出典:原価計算基準|大蔵省
要約すると、下記4つの業務を総じて原価管理と呼びます。
- 原価の標準(基準)を設定
- 標準原価と実際原価の比較
- 差異の原因を分析
- 原価率を改善
原価管理は、利益の最大化やコスト削減、ひいては企業の持続的な成長に欠かせない業務です。
本章では原価管理の概要として、原価の種類と原価計算との違いを解説します。
原価の種類
原価にはさまざまな種類がありますが、主に下記の2種類に分類されます。
- 製造原価:商品・サービスの製造にかかった原価
- 売上原価:売れた商品・サービスにかかった原価
一見、同義にも思える2つですが、対象とする範囲が異なります。
製造原価はその名の通り、商品の製造にかかったすべてのコストを指します。
たとえば、原材料や消耗品などの「材料費」や従業員の雇用にかかる「労務費」が含まれます。
対する売上原価は、売れた商品・サービスにかかったコストのことです。
広告宣伝費や販売手数料などの販管費は、売上原価にのみ含まれます。
また、製造原価とは異なり、売れ残った商品のコストを含まない点が特徴です。
製造原価における直接費用と間接費用の違い
製造原価は用途に応じて、直接費用と間接費用に分類されます。
- 直接費用:特定商品の製造に使われたことが明確な原価
- 間接費用:特定商品の製造に使われたことが不明確な原価
さらに、代表的な製造原価である材料費・労務費・製造経費の3つは、それぞれ直接費用・間接費用に分類できます。
直接費用 | 間接費用 |
直接材料費:製品の製造にかかった原材料費など | 間接材料費:工具や製造現場での消耗品など |
直接労務費:製品の製造に携わった従業員の賃金など | 間接労務費:管理者・技術者など製造に直接関与しない従業員の給与など |
直接経費:特定の製品の製造に使われる設備コストなど | 間接経費:光熱費や減価償却費など |
上記の分類は、原価管理における基礎知識ですので、十分に理解しておきましょう。
原価管理と原価計算の違い
原価管理と混同しがちな用語に、原価計算があります。
原価計算とは、商品・サービスにかかる原価を、目的に応じて計算する業務のことです。
対して、原価管理は下記4つの業務の総称です。
- 原価の標準(基準)を設定
- 標準原価と実測原価の比較
- 差異の原因を分析
- 原価率を改善
上から2つ目の「標準原価と実際原価の比較」では、実際にかかった原価を計算する必要があるため、原価計算は原価管理に内包される業務といえます。
原価管理の3つの目的と重要性
- 利益の最大化
- 損失の最小化
- 将来的な経営判断の材料
本章では上記3つの目的を順に紹介します。
目的1.利益の最大化(利益管理)
原価管理の一番の目的は、自社の利益を最大化することです。
原価には材料費以外にも、製造にかかる人件費(労務費)や光熱費などの費用が含まれます。
売上に対し、原価の割合が高い場合は会社の利益が小さくなり、反対に原価の割合が小さければ利益は大きくなります。
つまり、適切な原価管理でムダな費用を削減できれば、会社の利益を拡大できるのです。
近年、さまざまな市場でグローバル化が進み、国内外の競合企業とマーケットシェアを奪い合わなければなりません。
こうした市場環境で自社が成長し続けるためには、原価管理による利益の最大化も重要です。
目的2.損失の最小化(リスク管理)
原価管理の2つ目の目的は、損失の最小化です。
原価は常に一定で推移するのではなく、社会情勢や気候などの外部要因によっても変動します。
仮に仕入れ価格が高騰すると、製造原価が上昇するため、販売価格をコントロールしなければ会社の損失になりかねません。
半導体不足が続く近年、スマートフォンや自動車の価格が高騰しているのは、まさに企業が損失の最小化に向け、販売価格をコントロールしたためです。
このように、原価の変動リスクを適切に対処し、損失を最小限に抑えることも原価管理に求められる重要な役割なのです。
目的3.将来的な経営判断の材料(経営管理)
原価管理の3つ目の目的は、将来的な経営判断の材料を集めることです。
日々の原価データを蓄積・分析していくことで、事業の長期的な収益を計算できます。
言い換えると、原価管理を通じて、経営層が描く長期的なビジョンや事業の方向性を、定量的な数字で指し示せるということ。
適切な経営判断を下すためにも、原価管理によるデータ収集・分析が重要です。
このように、原価管理にはさまざまな目的が存在しますが、抜本的には「利益確保と企業成長の実現」が主目的です。
基本的な原価管理の方法4ステップ
先述した大蔵省(現:財務省)の定義によると、基本的な原価管理手順は下記です。
- 標準原価の設定
- 原価計算
- 差異分析
- 改善行動
本章では、各工程の要点を紹介します。
原価管理ステップ1.標準原価の設定
まずすることは、標準原価の設定です。
標準原価は、商品の開発・製造時の目安となる原価のことです。
標準原価はあくまでも目標値なので、場合によっては実測値と大きくかけ離れる可能性もあります。
ただし、のちに実測値との差異分析にも用いるため、できる限り現実的かつ合理的な数値を設定することが大切です。
過去の製造・調達データや市場動向などを考慮し、設定すると良いでしょう。
原価管理ステップ2.原価計算
商品・サービスの製造・提供段階に入ると、材料費や労務費、製造経費を洗い出して原価を計算します。
ここで重要なのが、製造に関わった要素を漏れなく原価に含めることです。
仮に、計算に含めなければならない要素が抜け落ちた場合、算出される原価が実際に発生したコストとかけ離れてしまうためです。
あらかじめ原価計算に必要な項目を洗い出し、正確に算出しましょう。
また原価の計算方法は、目的に合わせて使い分けることが重要です。
代表的な計算方法は次の2つが挙げられます。
- 個別原価計算
- 総合原価計算
原価計算の種類や用途を詳しく知りたい方は、【製造業向け】原価計算の種類・用途と5つの目的を解説をご覧ください。
個別原価計算
個別原価計算とは、製品のロットや受注ごとに原価を計算する方法です。
主に、製品ごとに原価が異なる個別受注生産で用いられます。
個別原価計算は、製品のロットや受注ごとに原価を計算するため、プロジェクトの損益を瞬時に把握できる点が魅力です。
また、算出したデータは、今後同様の案件を受注した場合の原価見積もりにも活用できます。
しかし、製品のロットや受注ごとに原価を計算するため、多くの時間と手間がかかる点はデメリットです。
総合原価計算
総合原価計算は、同一の製造ラインで大量生産をする場合に用いられる手法です。
一定期間における総製造原価を総生産量で割り、特定の製品あたりの原価を算出します。
また、個別原価計算とは異なり、製造原価を直接費用と間接費用に区別しない点が特徴です。
個別原価計算よりも数値の正確性は劣りますが、少ない工数で算出できる点が魅力です。
原価管理ステップ3.差異分析
原価計算で、商品の製造・提供にかかった費用を算出できたら、最初に設定した標準原価と比較し、差異分析を実施します。
具体的には、下記4つのポイントを明らかにしましょう。
- どの原価項目で差異が生じたのか?
- どの程度の差異が生じたのか?
- 差異の発生原因は何か?
- どのように改善すれば良いのか?
また、原価項目ごとに、分析の対象が異なる点に注意が必要です。
たとえば、材料費を比較する場合、価格や仕入れ数に加え、仕入れ先や社会情勢などの社外要因も分析の対象です。
一方、労務費の場合は、従業員の作業時間や行動、業務プロセスなど社内要因を分析します。
差異分析には多くの時間・労力がかかるため、億劫になりがちです。
しかし、問題点を見つけ、改善行動につなげるためにも、さまざまな要素を多角的に分析してください。
原価管理ステップ4.改善行動
最後に、差異分析で明らかになったムダや課題を改善します。
たとえば労務費に問題がある場合、下記の改善行動が考えられます。
- 業務プロセス改善による生産性の向上
- AI技術・ロボット技術の導入で製造工程を自動化
- 人材育成で従業員一人一人のスキルを向上
また原価を改善する際には、生産性や品質、取引先との関係性など、ほかの部分で新たな課題が生じないかに配慮する必要があります。
生産性ばかりを追求し、品質の低下や不良率の向上が起きては本末転倒です。
そのため原価を改善する場合は、問題点のみならず関連要素も考慮し、慎重に進めると良いでしょう。
関連記事:事例から見る製造業改善の成功の秘訣、失敗例と4つのポイントも解説
原価管理に活用できるExcelテンプレート3選
Excelで効率的に原価を管理するなら、下記3つのテンプレートがおすすめです。
中でも、1つ目の「活動ベースのコスト管理」は、Microsoft社が提供するテンプレートです。
活動ベースのコスト管理表は、直接費・間接費・管理費の3項目でコストを測るシンプルな仕様です。
また、テンプレート下部には円グラフが挿入されているので、製品ごとの原価を直感的に把握できます。
テンプレートは無料でダウンロードできるため、気になる方はぜひご活用ください。
関連記事:原価管理のエクセルテンプレートを紹介!属人化を防ぐ方法も解説
Excelでは限界!?直面する原価管理の課題
Excelなどの表計算ソフトで、原価管理をしている企業も多いでしょう。
多くのビジネスパーソンが使い慣れたソフトであり、すでに導入・運用している企業が多いため、追加コストがかからない点が魅力です。
しかし、Excelを使った原価管理には、下記3つの課題があります。
- 計算式が複雑化し管理業務が属人的になる
- 更新に時間・手間がかかる
- データの一元管理が困難
本章では、上記3つの課題を紹介します。
課題1.計算式が複雑化し管理業務が属人的になる
1つ目の課題は、原価の計算式が複雑化し、管理業務が属人化することです。
Excelを使った原価計算では、さまざまな関数・数式を用いて目的の原価を算出します。
ただ、原価には多くの要素が含まれるため、計算式が複雑化しやすく、一定の知見が求められるケースもあります。
また、入力に手間がかかることで、情報の更新を避けたり、一部の知見がある人に任せたりと、業務が属人化する恐れがあるのです。
属人化した業務は担当者への負担が大きく、他の従業員への継承も困難です。
結果的に、ずさんな原価管理となり、改善行動につながらない可能性があります。
課題2.更新に時間・手間がかかる
2つ目の課題は、更新に時間・手間がかかることです。
Excelでは複数人で同時に編集できないため、更新作業を一人でしなくてはなりません。
多品種を扱う企業の場合、管理項目が多く、膨大な時間と手間がかかるでしょう。
また、編集時には、データの誤入力や数式を壊してしまうリスクがある点も注意が必要です。
課題3.データの一元管理が困難
3つ目の課題は、データの一元管理が困難なことです。
Excelでは、複数人で同時編集ができないため、担当者が個々のデータファイルで原価管理をするケースが一般的。
原価管理データが個人のパソコンやサーバー上に点在してしまい、一元的な管理が難しいでしょう。
また、データが点在することで、二重入力の発生や管理工数の増加などの問題が生じます。
Excelで原価管理をした場合、ムダを省くどころか、かえってムダを生んでしまう可能性があるのです。
ERPシステムで原価管理を効率化
原価管理では、複雑な計算が求められる上に、他部門の情報を収集しなければならず、業務負担が大きくなりがちです。
そこでおすすめなのが、社内のヒト・モノ・カネを一元的に管理するERPシステムです。
本章では、ERPシステムの概要と原価管理に役立つ機能を紹介します。
関連記事:中小企業にクラウド型ERPが必要な理由とは?選び方ポイントと注意点
ERPシステムとは?
ERPはEnterprise Resource Planningの略で、企業資源計画を指します。
具体的には、ヒト・カネ・モノなどの経営資源を一元管理し、部門横断的に活用することで利益の最大化を実現するというもの。
ERPシステムは、この企業資源計画を支えるためのシステムです。
多くの企業では、販売管理・在庫管理・生産管理などの基幹業務を、それぞれ独立したシステムで管理しています。
ERPシステムは、これら独立したシステムを連携させ、一つの大きな情報ネットワークを形成します。
これにより、他部門の情報をリアルタイムに取得できたり、部門横断的な業務形態を構築できたりするのです。
ERPシステムの機能・魅力
一体なぜ、原価管理にERPシステムが役立つのでしょうか。
理由はいたってシンプルで、ERPシステムを使えば、原価管理に必要なヒト・カネ・モノの流れを瞬時に把握できるためです。
原価管理ではお金の流ればかりが注目されがちですが、実際には材料・商品(モノ)、労務(ヒト)の流れも重要です。
ERPのデータベースには、あらゆる部門が入力したヒト・カネ・モノのデータが丸ごと集約されています。
つまりデータベースにアクセスするだけで、瞬時に必要データを収集できるのです。
これにより、原価管理が飛躍的に効率化され、自社の原価状況をリアルタイムに管理でき、ボトルネックの早期発見・改善が可能になります。
システムを使い効率的かつ正確な原価管理を目指そう
原価管理は、利益の最大化やコスト削減、ひいては企業の持続的な成長に欠かせない重要な業務です。
ただし、管理内容が複雑なうえに、業務負担が大きいため、Excelでの管理には限界があります。
効率的かつ正確な原価管理をするためには、ERPシステムの利用がおすすめです。
当メディアを運営するチェンシージャパン株式会社は、製造業向けERP「IFS cloud」を提供しています。
製造業のデジタル化支援にも注力しており、過去のウェビナー情報やホワイトペーパーを公開しております。
中小企業による原価管理のDX事例も発信しておりますので、気になる方はぜひご閲覧ください。