商品を多く生産する製造業において、重要となるのが在庫管理の最適化です。
経営層は、ROA(総資産利益率)やキャッシュフローの観点から在庫を減らしたいと考えますが、現場では多めに在庫を持ちたいと考えます。
可能な限りムダな在庫をなくすために大切な取り組みが、在庫の適正化です。
この記事では、在庫の適正化とは何か・混同しがちな安全在庫と適正在庫の違い、適正在庫の計算方法を解説します。
適正在庫を維持できれば、過剰在庫や機会損失を防げるため、ぜひ参考にしてみてください。
在庫の適正化とは?
在庫の適正化とは、在庫を過剰でもなく過小でもない状態に維持することです。
製品を見込生産している企業の需要リードタイム(受注~納品までの時間)は、0~1日となります。
需要タイムリード内で生産できれば在庫は要りませんが、多くの製品は原材料の手配から完成まで2~3カ月ほどかかるため、製品リードタイム(原材料の調達から完成までの時間)は2~3カ月です。
ただし、ほとんどの製品が毎月供給されるため、供給リードタイム(供給と供給の間の時間)は1カ月となります。
提供リードタイムの間の需要に備えるのが在庫で、在庫の量を上手く調整し維持することが在庫の適正化です。
参考:コラム |「在庫適正化」の本気度を表す供給側の改善| ビジネスエンジニアリング株式会社
安全在庫=適正在庫ではない、それぞれの違いとは?
在庫管理でよく見る、適正在庫と安全在庫。
適正在庫と安全在庫は混同しがちですが、実際には意味が異なります。
適正在庫は欠品しない最小限の在庫で、安全在庫は欠品の発生を防ぐ最小限の在庫です。
それでは、適正在庫と安全在庫の違いを見ていきましょう。
適正在庫とは欠品しない最小限の在庫
適正在庫とは、欠品を出さない最小限の在庫数のことです。
在庫数は少なすぎると欠品して販売機会を損失する恐れがあり、欠品しなくても商品棚に商品が少ないと消費者の購買意欲が低下する可能性があります。
反対に在庫数が多すぎると管理コストがかかり、不良在庫や廃棄する在庫が発生。
在庫を資産として現金化せずにいると、黒字倒産する場合もあります。
企業がおこなう日常的な投資で最も割合が高いのが、在庫への投資です。
しかし、在庫に投資しすぎると現金が不足し、資金繰りが苦しくなります。
つまり、売上を上げつつ資金繰りを圧迫しないのが、適正在庫金額です。
安全在庫とは欠品の発生を防ぐ最小限の在庫
安全在庫とは、欠品の発生を防ぐ最低限の在庫数のことです。
需要は季節や流行、特売などによって変動するため、企業は柔軟に対応できるように在庫を確保することが重要になるでしょう。
安全在庫と適正在庫は言葉自体は似ているものの、実際には異なります。
2つの違いは、適正在庫は商品や製品を多すぎず少なすぎず、企業にとって最適な在庫数を維持することですが、安全在庫は欠品を防止することが目的です。
適正在庫を維持(在庫の適正化)する3つのメリット
在庫の適正化に向けて、適正在庫を維持するメリットは主に以下の3つです。
- 過剰在庫を防げる
- 機会損失を防げる
- キャッシュフローの適正化
上記の適正在庫維持メリットを、それぞれ見ていきましょう。
適正在庫のメリット1.過剰在庫を防げる
適正在庫を維持できている状態は、売れない在庫を持たずに済んでいることを意味します。
適正在庫を維持できていると、倉庫の管理費や人件費を最小限に抑え、廃棄処分にかかる費用も必要ありません。
必要な在庫数だけ管理すれば良いため、倉庫の空きにも余裕が生まれ、従業員が作業しやすい職場環境にできます。
適正在庫のメリット2.機会損失を防げる
適正在庫を維持できれば、欠品が生じず、顧客が欲しいタイミングに商品を販売できるため販売機会を逃しません。
その結果、顧客の信頼度が高まり、リピート注文や納期が早ければ競合との価格競争に巻き込まれずに済みます。
特に、工場のラインで使用する部品などは納期が非常に大切です。
工場のラインが止まると大きな損失を計上してしまうため、販売価格よりも納期が重要といえます。
自社が適正在庫を維持し、納期の短縮を実現できれば、競合と価格競争にならずに、企業残体の利益向上につながるでしょう。
適正在庫のメリット3.キャッシュフローの適正化
在庫は企業が将来の商機に対して投資した資産といえますが、売上として回収できなければ損失となります。
すると、自由に使用できる現金が減り、キャッシュフローも悪化。
一方、適正在庫を維持すると、売上にならない不良在庫を抱える可能性が低くなります。
よって、適正在庫を維持すると、キャッシュフローが健全な経営ができ、企業の長期的な運営が可能です。
在庫の適正化のポイントとは?適正在庫維持の3つの方法
次に、在庫の適正化のポイントを紹介します。
適正在庫は、在庫を多すぎず少なすぎずの量を保つことですが、多くの企業では、過剰在庫(在庫が多すぎる)が課題となっているでしょう。
適正在庫維持を言い換えると、無駄な在庫数を減らすことです。
ここでは、無駄な在庫数を減らす方法を3つ解説します。
在庫の適正化ポイント1.適切な発注点管理
発注点とは、その数量を切れば発注するとあらかじめ決めた在庫水準です。
適正在庫の数が決まっていない場合は、発注点が曖昧になっている場合があります。
適正在庫の数量が決まったら、それをもとに発注点を決め直しましょう。
そして、適正在庫を維持できるように、調達リードタイムや調達ロット、製造リードタイムや製造ロットを決めます。
「適正在庫の維持」というKGI(最終目標)を達成するために、各部門がKPI(中間目標)を立てると、ズレのない在庫量の管理が可能です。
在庫の適正化ポイント2.需要予測の精度を上げる
需要の予測が外れると、過剰在庫を抱えてしまう可能性が非常に高くなります。
過剰在庫を抱えないためには、過去の販売実績や顧客の動向、最新のトレンドなどを分析し、需要予測の精度を上げることが重要です。
ただし、市場は常に変化しているため、必ず当たるほど高い精度の需要予測はできません。
そのため、仮に予測が外れた場合に、迅速に生産調整ができるような業務フローに整えておくことが大切です。
需要予測の精度を上げつつ、迅速に対応できる環境を作っていれば、欠品や過剰在庫が発生しても被害を最小限に抑えられます。
需要と供給にズレが生じた際にアラートを出してくれるような需要調整システムを導入すると、早い段階で問題に気づけて対策できるため非常に効果的です。
在庫の適正化ポイント3.製造リードタイムの短縮
適正在庫数を維持するには、製造リードタイムの短縮が必要です。
製造リードタイムが長い分だけ顧客を待たせることになるため、できるだけ多くの在庫を持たざる得ない状態になってしまいます。
反対に、製造リートタイムを短くできれば、発注から出荷までの時間を短縮できるため、抱える在庫数の軽減が可能です。
製造リートタイム以外の、調達リードタイムや物流リードタイムは他社も関わるため、自社内での工夫だけでの短縮は難しくなります。
つまり、過剰在庫の発生防止に向けて初めは、自社でコントロールしやすい製造リートタイムの短縮から取り組みましょう。
適正在庫の計算方法(在庫の適正化)
適正在庫の基本的な考え方は、「安全在庫+サイクル在庫」です。
サイクル在庫とは、製品を発注してから次に発注するまでの期間に消費する在庫量の半分を意味します。
毎月1日に発注するなら、ひと月の半分である15日間に消費する在庫量がサイクル在庫です。
安全在庫は前述した通り、需要やリードタイムに変動があっても欠品にならない最低限の在庫量を指します。
安全在庫の需要予測も、サイクル在庫における次の発注までに消費される在庫量も、市場の状態やこれまでの経験に基づいた予測が必要です。
「在庫回転率」と「在庫回転期間」
自社が適正在庫数を維持できるか判断するために必要な数値が、「在庫回転率」と「在庫回転期間」で、以下のように求めます。
- 在庫回転率=年間売上高÷平均在庫高
- 在庫回転期間=棚卸資産合計÷年間売上高
在庫回転率とは、1年間に何回在庫が入れ替わったかを示す数値です。
平均在庫高が1,000万円で年間売上高が3,000万円の場合、在庫は年間で3回ほど入れ替わったことになります。
在庫回転期間とは、倉庫資産が完全に入れ替わるまでに要した年数のことです。
棚卸資産が2,000万円で、年間売上高が1,000万円の場合、在庫が入れ替わるまでに2年を要したことになります。
つまり、在庫回転率の数値が大きく、在庫回転期間の数値が小さいほど適正な在庫量です。
参考:適正在庫とは?その計算方法や適正在庫を維持するメリットについてお伝えします|ZAICOブログ-ZAICO
適正在庫金額を算出する「交差比率(交叉比率)」
交差比率とは、商品が効率的に販売できているかを確認するために用いられる指標で、以下の通りに求めます。
- 交差比率=在庫回転率×粗利益率
仮に在庫回転率が3、粗利益率が40%の場合、交差比率は120です。
在庫によって計算式は異なりますが、交差比率は高いほうが効率が良い商品といえます。
つまり、交差比率÷粗利益率から目標の在庫回転率を算出し、目標売上÷在庫回転率から適正在庫額の算出が可能です。
参考:適正在庫とは?その計算方法や適正在庫を維持するメリットについてお伝えします|ZAICOブログ-ZAICO
在庫の適正化によるコスト削減を!
この記事では、在庫の適正化とは何か・混同しがちな安全在庫と適正在庫の違い、適正在庫の計算方法を解説しました。
在庫の適正化とは、在庫を過剰でもなく過小でもない状態に維持することです。
適正在庫を維持できれば、過剰在庫だけでなく、顧客が求めるタイミングで商品を提供できるため機会損失も防げます。
さらに、不良在庫を抱えるリスクが軽減できるためキャッシュフローの適正化も可能です。
過剰在庫により資金繰りが苦しい経営層の方はぜひ、在庫の適正化を検討してみてください。