ネットゼロの意味とは?カーボンニュートラルとの違いと3つの取り組みを解説

  • 2023年6月27日
  • 2024年3月11日
  • DX・IT

SDGsや環境問題対策が進められる近年、「ネットゼロ」が注目されています。

ネット(英語:net=正味)ゼロとは、温室効果ガスの排出量を正味ゼロとする考え方のことです。

なかでも、生産活動とエネルギー消費が密接に関わる製造業にとって重要な取り組みです。

本記事では、ネットゼロの意味やカーボンニュートラルとの違い、国内企業による取り組み事例を解説します。

今後、環境問題への対策を進めようとお考えの方は、ぜひご覧ください。

ネットゼロの意味とは?

引用:日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」|経済産業省

ネットゼロ(net zero)とは、温室効果ガスの排出量を全体として差し引きゼロの状態にすること

単に、温室効果ガスの排出量を削減するのではなく、森林による吸収量や除去量を考慮し、合計で正味(ネット)ゼロを目指す点が特徴です。

2015年のパリ協定で合意された「世界的な平均気温上昇を1.5℃に抑える」をゴールとし、現在、世界120カ国がネットゼロ戦略を進めています。

日本が掲げる目標は、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ実現です。

また、中間目標として「2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比-26.0%(2005年度比-25.4%)にする」ことを掲げています。

なお、ネットゼロへの取り組みは政府にとどまらず、大企業を中心に中小企業へも浸透しています。

近年、法律や補助金の整備が進めら得ているため、今後さらにネットゼロが推進されていくでしょう。

参照:日本の排出削減目標|外務省

ネットゼロとカーボンニュートラルの違い

ネットゼロと類似した用語として、カーボンニュートラルがあります。

ネットゼロとカーボンニュートラルは、一般的に同義として扱われています

環境省が示したカーボンニュートラルの定義は、以下のとおりです。

温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します
政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。
「排出を全体としてゼロ」というのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」 を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。
引用:カーボンニュートラルとは|環境省

ネットゼロも、温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにすることを目指す考え方なので、同義と言えます。

実際、環境省の資料では、カーボンニュートラルとネットゼロが同義として扱われています。

ただし、これらの用語は比較的新しいということもあり、提唱者によって定義が異なる点に注意が必要です。

一部の企業では、カーボンニュートラルとネットゼロを区別して使用するケースもあるため、今後、SDGsに向けた情報収集をされる際は参照資料での定義を確認しておくと良いでしょう。

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カーボンニュートラルとネットゼロは、目指すCO2排出量が「実質的」なゼロなのか「計算上」でゼロなのかで違います。本記事で…

ネットゼロに向けた日本と海外政府の取り組み

2015年のパリ協定を皮切りに、世界各国でネットゼロへの取り組みが進められています。

製品の輸出入や海外資材調達が活発な製造業は、各国の政策による影響を受けやすいもの

ここでは、日本・EU・アメリカに厳選し、現在実施されているネットゼロ戦略を解説します。

取り組み1.日本が取り組む2つのネットゼロ戦略

日本の取り組みとしては、主に以下の2つが挙げられます。

  • ZEB(ネットゼロエネルギービル)・ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)
  • グリーン成長戦略

製造業企業にとって、新たなビジネスチャンスやイノベーションの創出につながる政策です。

また、ネットゼロ戦略を進めるうえでのヒントにもつながるため、ぜひご確認ください。

ZEB(ネットゼロエネルギービル)・ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)

日本政府が積極的に推し進めているのが、ZEB(ネットゼロエネルギービル)・ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)。

ZEBとは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、快適な室内環境を維持しつつ、エネルギー収支ゼロを目指した建物のことです。

また、エネルギー収支ゼロを目指した住宅が、ZEH(ネットゼロエナジーハウス)です。

パリ協定依頼、環境省を中心に、国内の建物のZEB・ZEH化が推進されています。

補助金制度の新設や技術情報の提供など、企業や国民がZEB・ZEHを導入するようさまざまな支援を実施しています

今後、太陽光発電システム・蓄電システム・空調機器などのZEB技術需要がさらに高まるでしょう。

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ZEBは、カーボンニュートラルを目指す製造業にとって大きな意義のある取り組みです。本記事では、ZEBの基礎知識や補助金の…

グリーン成長戦略

グリーン成長戦略とは、ネットゼロ(カーボンニュートラル)の実現に向けた産業政策のこと

経済産業省が発表した資料では、グリーン成長戦略を以下のように定義しています。

温暖化への対応を、経済成長の制約やコストとする時代は終わり、国際的にも、成長の機会と捉える時代に突入したのである。

従来の発想を転換し、積極的に対策を行うことが、産業構造や社会経済の変革をもたらし、次なる大きな成長につながっていく。

こうした「経済と環境の好循環」を作っていく産業政策が、グリーン成長戦略である。

引用:2050 年カーボンニュートラルに伴う グリーン成長戦略|経済産業省

グリーン成長戦略の根底にあるのは、経済と環境の好循環です

環境問題への対策が企業の負担になるのではなく、新たなイノベーションを引き起こし企業成長につながるという考え方です。

なかでも以下14分野では、成長戦略・実行計画が示されています。

引用:グリーン成長戦略(概要)|経済産業省

政府はグリーン成長戦略に基づき、イノベーションの創出に向けた企業の取り組みを全面的にバックアップしています。

引用:グリーン成長戦略(概要)|経済産業省

グリーン成長戦略の14分野は、ほとんどの製造業企業に関係します

政策の実施に伴い、事業に大きな影響が出る可能性が高いため、戦略内容の確認が必要です。

取り組み2.EUが推進するネットゼロ戦略「グリーン・ディール産業計画」

EUが取り組むネットゼロ戦略は、グリーンディール産業計画です。

具体的には、EU域内でのネットゼロ技術の製造と企業競争を強化し、エネルギーシステム(エネルギーの創出→加工→利用)をより安全で持続可能なものにする戦略です。

ネットゼロに向けた取り組みを産業政策として捉えている点で、日本のグリーン成長戦略に類似しています。

なお、2023年3月には、グリーンディール産業計画の一環として「ネットゼロ産業法」が発表されました。

これは、EU内での産業保護やネットゼロ技術への投資を活性化させるための法律です。

情報提供の充実化や、補助金・許認可手続きの簡素化を定めた法案で、今後さらにネットゼロ社会実現に向けた企業の取り組みが加速すると予測されています。

取り組み3.アメリカが取り組むネットゼロ戦略「The Federal Sustainability Plan」

アメリカが取り組むネットゼロ戦略は、「The Federal Sustainability Plan」です。

The Federal Sustainability Planでは、以下の達成目標が掲げられています。

①2030年までに100%カーボンフリー電力を実現
②2035年までに新規購入者のすべてをゼロエミッション化(排出ガスを出さない車)
③2045年までに連邦政府所有建造物すべてのZEB化を達成
④2050年までに連邦政府の全消費電力を炭素排出ゼロにする
⑤2050年までに連邦政府の調達による排出量をゼロにする

参照:Federal Sustainability Plan

アメリカは、長年日本との貿易が盛んな国です。

日本の輸出品は自動車や機械部品が多いことから、The Federal Sustainability Planは国内自動車メーカーに大きな影響を及ぼすことが予測できます。

【企業向け】ネットゼロ社会の実現に向けた4つの活動

企業は、ネットゼロ社会に向けどのような取り組みができるのでしょうか。

ここでは代表的な4つの活動を解説します。

  • 再生可能エネルギーへのシフト
  • 再生可能エネルギーを生み出す「創エネ」
  • 電力貯蔵技術による「蓄エネ」
  • エネルギー管理による「省エネ」

自社で取り入れられそうなものがないかチェックしてみてください

ネットゼロ活動1.再生可能エネルギーへのシフト

企業ができる代表的なネットゼロ活動は、再生可能エネルギーへのシフトです。

再生可能エネルギーとは、石油や天然ガスなどの有限資源ではなく、太陽光・風力・波力など自然界に常に存在するエネルギーのことです。

発電時に温室効果ガスが発生せず、国内での生産が可能なため、社会情勢や為替変動の影響を受けにくい点が特徴。

近年、再生可能エネルギーを中心に提供する電力事業者も登場してきたため、切り替えを検討してみてはいかがでしょうか。

ネットゼロ活動2.再生可能エネルギーを生み出す「創エネ」

2つ目の活動は、再生可能エネルギーを生み出す「創エネ」です。

創エネは、太陽光発電や風力発電の設備を導入し、自社で消費する電力を再生可能エネルギーで賄うことです。

創エネは温室効果ガスの排出量を削減できるほか、以下のメリットがあります。

  • 災害時のリスクヘッジ
  • 工場立地法の環境施設割合を増やせる
  • 電気代の高騰リスクを回避

ただ、発電設備の導入コストに不安を抱える方も多いでしょう。

近年では、一般財団法人環境イノベーション情報機構(EIC)や自治体が補助金制度を設けており、導入費の約2分の1を支援してもらえます。

なお、税制優遇も実施されているため、以前に比べ発電設備を導入しやすいのではないでしょうか。

補助金制度については、環境省や自治体の公式サイトに情報がまとめられています

ネットゼロ活動3.電力貯蔵技術による「蓄エネ」

3つ目の活動は、電力貯蔵技術による「蓄エネ」です。

蓄エネとは生成したエネルギーを蓄え、必要なタイミングで使用するための技術のこと。

一般的に、前述した創エネとセットで取り組みます

再生可能エネルギーは天候によって発電量にムラが生じるため、蓄エネで電力供給量を安定化させます。

また、災害時にエネルギー供給が遮断された場合でも、貯蔵した電気で企業活動を継続できる点が魅力。

電力貯蔵用の設備も、補助金制度が設けられているため、発電設備と合わせて検討すると良いでしょう。

ネットゼロ活動4.エネルギー管理による「省エネ」

4つ目はエネルギー管理による「省エネ」です。

エネルギー管理とは、工場や社内で消費するエネルギー量を測定し、削減施策を検討・実施することです。

エネルギー消費量の多い製造業では、工場エネルギー管理システム(FEMS)を活用した省エネが注目されています。

たとえば、どの作業工程でどれほどのエネルギーを消費したかを視覚的に把握します。

エネルギー消費量の多いボトルネックを特定し、改善行動を繰り返すことでエネルギー消費を削減できるでしょう。

日々のエネルギー消費量は人目での判断が難しいため、ソリューションの活用が効果的です。

ネットゼロを目指す企業の事例3選

一部の先行企業は、ネットゼロに取り組み成果をあげています

本章では、以下3社のネットゼロ事例を紹介します

  • 藤崎建設工業株式会社
  • 株式会社ニプロン
  • 株式会社北條製餡所

自社でのネットゼロに向けた取り組みを検討中の方は、ぜひ参考にしてみてください。

事例1.藤﨑建設工業株式会社:省エネ率107%を実現したZEB

藤崎建設工業株式会社は、ネットゼロ社会の実現に向け、ZEB・ZEHを建設する会社です。

同社は本社ビルに、以下のZEB技術を投入し、省エネ率107%(平成28年度)を達成しました。

  • 屋根・外壁断熱
  • 太陽追尾式ブラインド
  • 井水利用空調設備
  • LED照明器具(人感センサー)
  • 太陽光発電
  • 蓄電池

さらに、翌年の平成29年度には、年間省エネ率140%を達成

年間消費エネルギーが正味ゼロどころか、大幅マイナスとなるZEBを実現しました

現在は、これらの技術を活かし、ZEH事業や太陽光発電事業に取り組んでいます。

参照:報道発表資料|環境省

事例2.株式会社ニプロン:製造用ロボットの導入でCO2の排出を削減

株式会社ニプロンは、産業用機器や情報通信機器の電源を製造する電子機器メーカーです。

同社は、部品や商品を搬送するコンベアや自動走行ロボットを独自に設計し、工場に配備

業務の効率化や人手不足の解消に加え、2021年度のCO2排出量を、2013年度比23%の削減に成功しました。

現在は、再生可能エネルギー電力比率90%以上を目指す、新工場の建設を計画しています。

新工場では、太陽光パネルを設置する「創エネ」、エネルギー変換ロスの少ない蓄電池システムを導入する「蓄エネ」が取り入れられるようです。

参照:カーボンニュートラル実現に向けた関西企業等の取組事例|経済産業省

事例3.株式会社北條製餡所:EMSを活用したネットゼロ戦略

株式会社北條製餡所は、和菓子やあんを製造販売する食品メーカーです。

同社は、EMS(エネルギー管理システム)を活用した、エネルギー消費量削減に取り組んでいます。

これまで不定期に廃棄していた工場の温水をEMSで管理

自動でボイラーに給水することで、排熱を有効活用し、加熱エネルギーの削減に成功しました。

また、設備の省エネとして照明機器のLED化や空調設備の更新により、13.7%もの消費エネルギー削減を達成しています。

工場のエネルギー効率を高めたネットゼロ戦略です。

参照:カーボンニュートラル実現に向けた関西企業等の取組事例|経済産業省

ネットゼロの意味を正しく理解し実現を目指そう

ネットゼロとは、温室効果ガスの排出量を全体として差し引きゼロの状態にすることです。

ネットゼロに向けた取り組みは、環境問題への対策のみならず、企業の競争力強化にもつながります。

政府や自治体による補助金制度や情報提供も整備されているため、うまく活用しネットゼロに取り組んでみてください。

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