”ERPは高い” ”ERP導入には莫大な費用がかかる”
ERPについて少しでも調べたことがあるなら、何となくそのようなイメージを持っている人も多いのではないだろうか。
たしかにERPの導入に必要な、サーバー等のハードウェア費用、ソフトウェアのライセンス費用、導入に係るサポート費用等を合わせると億単位の投資となることもザラである。
また、昨今ではIFSを含むクラウド型のERPを提供することで、企業規模や使用するユーザー数に合わせ費用を最適化できるようなサブスクリプションモデルの料金体系を持つERPも増えてきているが、依然としてある程度の出費が必要なことに変わりはない。
そこで今回の記事では、導入にかかる費用をいかに抑えるかについて、全2回に分けて解説していきたい。
なお具体的な金額については、導入規模やパッケージによって大きく異なるため、本稿での言及は避けさせてもらう。
導入費用の構成
はじめに、下の表を見ていただきたい。
ERPパッケージ導入にかかる費用を大まかに分類し、その構成比率を示したものである。
また、参考としてわかりやすいよう右欄に一例を記載した。
詳細 | 構成比 | 例 | |
ハードウェア費 | サーバー*・パソコン等 | 10~20% | 10% |
ライセンス費 | ソフトウェアライセンス | 15~25% | 20% |
導入サポート費 | 導入時のサポートやコンサルティング・ プロジェクト管理等 | 45~60% | 50% |
カスタマイズ費 | 追加機能の開発費 | 10~40% | 15% |
トレーニング費 | 社内ユーザーへの教育 | 5~10% | 5% |
合計 | 100% |
*クラウド型の場合はライセンス費に含まれる場合もある
上記のように、一般的にERPの導入に際してはハードウェアやライセンスといったシステムに関わる費用に対して、導入時のサポートやシステム開発といった費用が高くなることが多く、プロジェクト期間やカスタマイズの件数、他システムとのインターフェース数によっては、通常は1:2程度と言われるシステム費と導入・開発費の比率が、1:3や1:4以上となる場合もある。
以上のことから、今回はERP導入費用の中でも構成比が大きくなる傾向にある導入サポート費、カスタマイズ費にフォーカスし、これらの費用を抑えるためのポイントを紹介したい。
導入費用を抑えるための2つのキーワード
ここからは私の考えるERPの導入費用を抑えるためのポイントを以下のキーワードを元に解説していく。
- Fit率
- 教育
1.Fit率
一つ目のキーワードは”Fit率”だ。
ERP導入の検討を行うにあたって、どの企業もまず考えるが”どのERPを導入するか”である。
その際のポイントとしては、ライセンス費用はいくらか、導入事例はどのくらいあるか、国産か輸入のどちらにするか、ベンダーのサポート体制はどうか等多くあると思うが、何よりもまず重要なのは”機能が充実しているか”、そしてそれらが”自社の業務にマッチしているか”である。
企業がソフトウェアの選定に際し、ベンダーに対して提案の依頼をする際に用いられるドキュメントの一つにRFP(提案依頼書)があるが、弊社がお客様から提案を依頼される際にも、大抵の場合クライアント企業の業務要件に関する資料がこれに付随している。
この業務要件とERPパッケージの持つ標準的な機能を照らし合わせて、どの程度要望を満たすことができるかを示したものが前述の”Fit率”である。
弊社での経験から、このFit率は80%以上、最低でも70%以上であることが望ましく、単純に言えばこれを上回っていれば導入検討の候補に入れても差し支えないと言える。
このFit率が高ければ高いほど自社の要件を満たしており、導入後の使用イメージも現状の業務とのGapが少なく、必要なカスタマイズの数も減り、結果として導入費用も抑えられることになる。
しかしながら、ここで一つ考えてもらいたいことがある。
このFit率はあくまでも企業が、自社の現状の業務をそのまま継続した場合にERPパッケージがその要件を満たせるかを前提としており、新たなソフトウェアの導入によって仕事のやり方を変えることは考慮されていない。
ベストプラクティスへの抵抗
1970年代にERPが世界で初めてリリースされて以来、世界中の多くの企業で導入がされてきたが、その中でIFSをはじめとするグローバルなERPベンダーは多様な国の、多様な業種の企業の業務に対応すべく、研究開発を重ねながら展開を進めてきた。
以前よりERPの代名詞として、”ベストプラクティス”という言葉が使われることがあるが、これは多様な業務に対応するための最も効率的な方法の標準化を意味しており、ERPはこのベストプラクティスを提供し、ITを基盤とした業務改革を促すことを一つの価値としている。
もちろんそれぞれの国の商習慣や企業毎の業務フローには特徴があり、それらを無理矢理ベストプラクティスに合わせようとすることで、それまで積み上げてきた競争力やお客様からの信頼といった、企業のコアバリューを損なうリスクも存在する。
ところが、ERP導入時にしばしば直面する”ベストプラクティスへの抵抗”は、多くの場合そういったコアバリューに影響を及ぼすことのない業務領域においても発生しており、このことが業務改革や企業の変革をブロックしている。
(この点については、昨今のコロナ下の状況において、リモートワーク等の働き方改革が我々の思った以上に進んでいないことが一つの良い例である。)
上述したように業務要件とERP機能のFit率を高めることによって、カスタマイズやインターフェースの数を減らすことができ、それに伴うプロジェクト工数の削減やプロジェクト期間の短縮によって、全体的な導入費用を抑えることが可能となる。
Fit率の検証にあたっては、システムの機能のみに注目するのではなく、自社の常識を疑うことからはじめ、”現状の業務に変更できる部分はないか”、”ERPに合わせることで最適化できる業務はないか”といった視点を持つことが重要であり、そうすることで限りなく高めることができるだろう。
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次回の記事では2つ目のキーワードとなる”教育”について解説していく。
前回の記事ではERPの導入費用を抑えるためのキーワードの一つ目として、 業務要件とソフトウェアの機能要件の”Fit率”を…