インダストリー4.0構想を体現した、スマートファクトリー。
経済産業省から「スマートファクトリーロードマップ」が発表されるなど、近年の日本でも取り組みが推奨されています。
この記事では、経済産業省の情報をもとに、スマートファクトリーの取り組み方・先行事例を紹介します。
スマートファクトリー実現をご検討中の方は、ぜひ最後までご覧ください。
スマートファクトリーとは?
スマートファクトリーとは、デジタル技術・データの活用により、高い生産性・品質・付加価値を実現した工場のこと。
まさに、ドイツ政府が公表した「インダストリー4.0構想(第4次産業革命)」を体現する工場なのです。
従来の自動化・機械化と異なる点は、AIやIoTの活用により工場全体が最適化されること。
工場全体をネットワークで繋ぎ(IoT)、収集したデータを分析・現場へ反映(AI)、工場全体が最適化される仕組みがスマートファクトリーです。
なぜ、昨今の製造業においてスマートファクトリーの実現が求められているのでしょうか。
スマートファクトリーの実現が求められる理由
スマートファクトリーの実現が求められる背景には、製造業を取りまく外部環境の変化が関係しています。
経済産業省によると、製造業を取り巻く下記の外部環境は、今後大きく変化するようです。
- 技術(ex:AI・生産技術の革新など)
- 資源制約(ex:資源調達リスク・人材不足など)
- 政治・国際情勢(ex:競争環境のフラット化)
- 市場・ニーズ(ex:消費行動の変化・中所得層の拡大)
- ビジネスルール
AIや生産技術の革新など、製造業企業にとってプラスに働く変化がある一方で、人材不足や資材調達リスクなどマイナスに働く変化も予測されています。
経産省は、こうした外部環境の変化を受け、製造業が生き残るには下記の対応が必要だと述べています。
ものづくり企業は20〜30年後の未来に向けて、製造現場のデジタル化・ソフトウェア化への対応など7つの戦略課題に対応する必要がある。
- 社会のデジタル化・ソフトウェア化に伴う消費の高度化への対応
- デジタル技術による擦り合わせ・カイゼンのコモディティ化への対応
- 生産技術・材料技術のイノベーションの取り込み
- 製造現場のデジタル化・ソフトウェア化への対応
- 人材の質・量の不足への対応
- 資源制約・CO2フリーへの対応と成長市場の取り込み
- リスクマネジメントへの対応
太字で示した4つの課題について、「ものづくりのスマート化が対応⽅法の1つと⾔える」とも記述されています。
つまり、スマートファクトリーへの取り組みは、今後大きく変化する外部環境への対応策であり、なおかつ戦略課題を解決する糸口といえるでしょう。
経済産業省が示すスマートファクトリーロードマップの見方
経済産業省が発表した「スマートファクトリーロードマップ」では、スマート化の目的ごとに上記3つのレベルが設定されています。
このレベルとは、各目的におけるデータの活用度合いを示すもの。
つまり、スマートファクトリーの重要ポイントである「データ活用」の観点から推進度合いを計測する仕組みです。
各レベルの内容は、スマート化目的や取り組み企業によっても異なるため、実行に際しては、ロードマップを参考に自社なりの達成目標を定めてください。
スマートファクトリー6つの主目的
経済産業省が発表した「スマートファクトリーロードマップ」では、スマートファクトリーの主格となる下記6つの目的が提示されています。
- 品質の向上
- コストの削減
- 生産性の向上
- 製品化・量産化の期間短縮
- 人材不足・育成への対応
- 新たな付加価値の提供・提供価値の向上
また、上記の主目的はさらに細分化され、2〜4つの「スマート化の目的」が抽出されています。
この章では、経済産業省が示した6つの主目的と取組み内容の参考例を紹介します。
品質の向上
1つ目の主格である「品質の向上」は、下記3つの目的に細分化されています。
- 不良率の低減
- 品質の安定化・ばらつきの低減
- 設計品質の向上
たとえば、不良率の低減を目指す場合、IoTセンサーで人手業務をセンシリングし、作業内容を把握します。
収集したデータをもとに、ポカミスの発生箇所や発生率を分析し、その結果をもとに人材配置や人材育成をおこなうことで、人手による不良率を抑えられます。
コストの削減
2つ目の主格である「コストの削減」は、下記4つの目的に分類されます。
- 材料の使⽤量の削減
- 生産のためのリソースの削減
- 在庫の削減
- 設備の管理・状況把握の省力化
材料の使用量削減が目的の場合、過去の設計をデータベース上で管理します。
蓄積した過去の設計を分析し、材料や部品点数の削減につながる形状を洗い出し、設計モデルを作成します。
設計した改善モデルを実際に生産し、材料の削減率・工数の変化を調べ、従来型よりも秀でていればスマート化の成功です。
材料の使用量削減により、大幅なコストダウン・資源調達リスクの軽減が期待できます。
生産性の向上
3つ目の「生産性の向上」は、スマートファクトリーが目指す最重要項目。
下記3つの目的に分類されます。
- 設備・ヒトの稼働率の向上
- ヒトの作業の効率化、作業の削減・負担軽減
- 設備の故障に伴う稼動停⽌の削減
生産性の向上は、品質向上でも紹介したIoTの活用が効果的です。
IoTはモノのネットワークとも呼ばれ、搭載した機械の稼働率・部品状況などをリアルタイムに管理できます。
そのため、ヒト・モノの稼働率向上のみならず、設備の予知保全にも効果を発揮し、故障に伴う稼働停止を削減できます。
製品化・量産化の期間短縮
4つ目の「製品化・量産化の期間短縮」は、下記3つの目的に分類されています。
- 製品の開発・設計の自動化
- 仕様変更への対応の迅速化
- 生産ラインの設計・構築の短縮化
製品の開発・設計の⾃動化は、コスト削減の「材料の使用量削減」と同様の取組みが提示されています。
過去の設計をデータベース上で管理した過去の設計を分析し、より生産しやすい形状のモデルを作成。
モデルに従い、製品設計を自動化するというものです。
人材不足・育成への対応
5つ目の人材不足・人材育成は、下記2種類の目的に細分化されています。
- 多様な人材の活用
- 技能の継承
スマートファクトリーと聞くと、デジタル技術による生産性向上ばかりを想像しがちですが、企業の重要な経営資源である人材にも焦点を当てています。
たとえば、熟練技能者の判断力・調節力などの技能をデータとして切り出し、技能・ノウハウとして体系化するなど。
体系化した技能・ノウハウを、外国人労働者へ共有することで、人材不足・人材育成への対応が可能です。
新たな付加価値の提供・提供価値の向上
6つ目の「新たな付加価値の提供・提供価値の向上」は、下記4つの目的に分類されます。
- 多⽤なニーズへの対応⼒の向上
- 提供可能な加工技術の拡大
- 新たな製品・サービスの提供
- 製品の性能・機能の向上
多様なニーズへの対応力向上は、さらに2種類に分類されています。
1つ目の目的は、「高い生産性を保ちつつ、いかにして個別ニーズに対応した製品を製造する」というマス・カスタマイゼーションの実現です。
個別受注生産の企業が市場競争を生き残るには、生産性向上・QCDの最適化が不可欠。しかし、どのような課題があり、いかにして…
一方、2つ目の目的は、顧客に対するオンデマンドな製品提供の実現。
つまり、ERPシステムや基幹システムの情報を活用した、サプライチェーン全体の連携強化を推進します。
スマートファクトリー実現のための重要ポイント
スマートファクトリーの実現において最も重要なのは、「ゴールを見据えて小さな取り組みから始めること」。
ゴールが不明確なまま取り組めば、一部分にシステムを導入しただけの部分最適化に終わる恐れがあります。
また、はじめから大々的な取り組みを掲げては、実行難易度が高く、行動に移せず終わる可能性もあります。
したがって、ゴールの設定とそこから逆算した詳細な計画策定、段階的な推進が重要です。
デジタル化はあくまでも手段であり、ゴールではありません。
自社にとってのゴールを定め、PDCAを短いサイクルで繰り返し、段階的にスマート化を推進しましょう。
スマートファクトリーに向けた先行事例
スマートファクトリーに向け、すでに動き始めている先行企業は数多く存在します。
この章では、中でも代表的な3つの事例を紹介します。
- 株式会社フェニックスソリューション
- 株式会社デンソー
- 株式会社エクセディ
スマートファクトリーの実現を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
事例1.株式会社フェニックスソリューション
画像引用:株式会社フェニックスソリューション
株式会社フェニックスソリューションは、金属タグを中心とした産業用のRFID機器を製造する企業。
従来のRFIDタグには、金属干渉によって電波をうまく取得できないという欠点がありました。
この欠点を受け、金属に取り付けてもデータを取得できるRFIDタグを開発。
従来の棚卸では数量チェックを人手でおこなう必要がありましたが、金属対応のRFIDタグの誕生によりリーダーライターから瞬時に数量データを取得できます。
これにより、金型や金属製品の運搬・棚卸業務が飛躍的に効率化されます。
スマート化の中でも、「生産に必要なリソース削減」を実現した事例です。
事例2.株式会社デンソー
画像引用:株式会社デンソー
株式会社デンソーは自動車・金属製品を扱う企業。
取り組んだスマート化は、IoTを活用した設備・ヒトの稼働率向上です。
具体的には、下記3つ取り組みを行いました。
- 予知・予兆管理:ばらつき・異常の兆候を早期に捉え、工場稼働の停止を防ぐ
- 重点管理:データ分析により重要度の高い管理ポイントを算出、管理効率の飛躍的改善
- 全員オーナー:経営層から作業者までそれぞれに必要な情報を伝達し、生産性の改善
デンソーのスマート化では、ヒトを主体としIoTなどのデジタル技術はそのための手段と位置付けています。
これにより、デジタル技術を主体とする欧米企業と異なったスマート工場の実現を目指すとのことです。
事例3.株式会社エクセディ
画像引用:株式会社エクセディ
株式会社エクセディは自動車部品を提供する会社。
エクセディが取り組んだスマート化は、自社開発の生産管理システム・基幹業務システムの活用による設備の故障に伴う稼動停⽌の削減です。
生産管理システム「EXPRESS」を活用し、拠点別の品質関連情報を集中的に管理します。
管理データは各拠点から参照でき、⼯場の状況をリアルタイムに把握できます。
また、設備カルテにより、設備の故障原因の特定やメンテナンスの履歴を参照することで、予知・予防保全を実現しました。
システムの自社開発により、稼働停止を削減した中堅企業・大企業ならではの事例です。
まずは、スマートファクトリーのゴールを描こう
この記事では、経済産業省の情報をもとにスマートファクトリーの取り組み方を紹介しました。
スマートファクトリーへの取り組みは、未だ手探りの企業が多いようです。
しかし、実現後には大きな効果が期待できるため、「スマートファクトリーロードマップ」を参考に進めると良いでしょう。
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