環境問題に関連する用語として、ゼロエミッションが注目されています。
ゼロエミッションとは、排出される廃棄物(エミッション)を再利用・減らすことで、排出量をゼロにする考え方のこと。
多くの課題に直面しながらも、政府主導のもと様々な自治体・企業で実施されているのが現状です。
本記事では、ゼロエミッションの意味や課題、政府・企業による取り組み事例を解説します。
【基礎知識】ゼロエミッションとは?
ゼロエミッションとは、資源循環型社会の実現により廃棄物(エミッション)の排出量をゼロにする考え方です。
身近なもので言うと、木材を加工した際に出る端材を割り箸や製紙用チップに活用するケースがあげられます。
リサイクルと同義にも思いますが、ゼロエミッションの目的は再利用ではなく、廃棄物をゼロにすることです。
そのため、事業の性質上多くの産業廃棄物が発生する、製造業・農業などで取り組みが活発化しています。
なお、脱炭素化が注目される近年では、排出されるCO2を廃棄物として捉える傾向にあります。
ゼロエミッションは今や、CO2排出量を正味ゼロにする「ネットゼロ」と並ぶ重要な取り組みと言えるでしょう。
SDGsや環境問題対策が進められる近年、「ネットゼロ」が注目されています。 ネット(英語:net=正味)ゼロとは、温室効果ガスの排出量を正味ゼロとする考え方のことです。 なかでも、生産活動とエネルギー消費が密接に関わる製造業にとって重要[…]
ゼロエミッションが注目される理由
ゼロエミッションが注目される理由は、廃棄物の削減が環境問題の対策につながるためです。
廃棄物の排出量は、高度経済成長期から2000年代にかけ大幅に増加しました。
近年は減少傾向にあるものの、家庭から出る一般廃棄物の排出量は、年間で約4,095万トン(令和3年時)。
産業廃棄物にいたっては、3億8596万トン(令和元年)もの排出量があります。
これらを処分するには、焼却したり埋め立てたりする必要があるため、温室効果ガスの発生や土壌汚染が問題となっていました。
なお、すでに地球温暖化が進行していることもあり、従来の「廃棄物を減らす」ではなく「ゼロにする」というゼロエミッションが注目されています。
参照▼
一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度)について|環境省
産業廃棄物の排出及び処理状況等(令和元年度実績)について|環境省
ゼロエミッションとカーボンニュートラルの違い
ゼロエミッションに関連する用語として、カーボンニュートラルがあげられます。
両者の違いは、対象物と目的の2つです。
対象 | 目的 | |
ゼロエミッション |
CO2を含めた廃棄物全般 |
排出量の完全ゼロ |
カーボンニュートラル | 温室効果ガス | 排出量の実質ゼロ |
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡されることです。
設備の高効率化による省エネや、再生可能エネルギーでの創エネなどで温室効果ガスの排出量を削減。
なおかつ、森林保護などで吸収量の増加を促し、社会全体で見た場合の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする取り組みです。
一方、ゼロエミッションは、資源循環型社会の実現によりCO2を含めた廃棄物の排出量を0にする取り組みです。
ゼロエミッションは、CO2だけでなく産業廃棄物・一般廃棄物も内包しています。
なお、カーボンニュートラルは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるのに対し、ゼロエミッションは吸収量を考慮せず、「一切排出しない」ことを目指している点が大きな違いです。
CO2のゼロエミッションが難しい理由と今後の課題
ゼロエミッションはさまざまな自治体・企業で取り組まれており、すでに成果を残している事例も見られます。
しかし、CO2のゼロエミッションに限っては、以下の理由から実現が難しいと言われています。
- エネルギー資源を化石燃料に依存している
- 発電設備の導入に必要な土地が不足
- 再生可能エネルギーの発電コストが高い
ここでは、日本が抱える上記の課題を紹介します。
課題1.化石燃料への依存度が高い
日本は、化石燃料への依存度が高いことで、CO2排出量の削減が思うように進んでいません。
日本の化石燃料依存度は、2021年度で83.2%。
高度経済成長期(1973年)と比較すると、約10ポイント減少したものの依然として高い状態です。
また、以下は発電時に発生するCO2を、エネルギー資源別にまとめたものです。
LNG(天然ガス)・石油などの化石燃料は、燃焼時に大量のCO2を排出します。
そのため、エネルギー資源を非化石燃料へ移行しなければ、CO2のゼロエミッションは実現できません。
対策として、近年は太陽光発電の導入が急速に進められていますが、次に解説する土地不足・コストが新たな問題となっています。
課題2.発電設備の導入に土地が不足
化石燃料の代替として注目される太陽光発電は、原子力や火力発電に比べ発電効率が非常に悪い状態です。
原子力や火力発電と同等の電力を生み出すには、より大きな発電設備が必要です。
ただ、日本は平地が少なく山間部が多いため、整地が不要な(設備を導入しやすい)土地が限られています。
この問題を受け、政府は荒廃農地の利用やZEH(ネットゼロエネルギーハウス)を推奨しています。
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課題3.再生可能エネルギーの発電コストが高い
CO2のゼロエミッションが阻害される一番の要因は、再生可能エネルギーの発電コストが高いこと。
技術の成長・政府の支援制度により、年々発電コストは減少していますが、欧州などの先進国に比べると高い状態です。
非住宅向け太陽光発電設備の場合、日本は欧州に比べて2倍ほどのコストがかかります。
ただ近年は、政府や各省庁が、補助金制度の施行や投資推進を積極的におこなっているため、将来的にはコストが下がると予測されています。
ゼロエミッション実現に向けた政府・自治体の取り組み4選
政府や地方自治体は、ゼロエミッションの実現に向けて、どのような取り組みを進めているのでしょうか。
大きな注目を集めている取り組みは、主に以下の4つがあげられます。
- エコタウン事業
- ゼロエミ・チャレンジ
- ゼロエミッション東京戦略
- 地域脱炭素ロードマップ
政府や地方自治体の取り組みは、企業の活動に大きな影響を及ぼします。
うまく活用することで、自社の競争力向上にもつながるため、政府や地方自治体の取り組みを定期的に確認しておくと良いでしょう。
取り組み1.エコタウン事業
エコタウン事業とは、ゼロエミッションを基本構想に位置付け、地域復興による環境調和型のまちづくりを目指す制度。
各自治体がエコタウンプランを作成し、経済産業省・環境省の共同認証を受けた場合に財政支援を受けられる仕組みです。
なかでも、鉄鋼業や自動車産業などが盛んな愛知県は、エコタウン事業にて大きな成果をあげています。
愛知県の「あいちエコタウンプラン」は、2004年に承認。
その後「あいち資源循 環推進センター」を設立し、地域の循環型ビジネスを支援しています。
施設整備によって地域の廃棄物循環が促進されたことで、産業廃棄物の再生利用率は2004年の60.2%から2014年の70.4%にまで上昇しました。
エコタウン事業は現在もさまざまな自治体で進められており、国内のゼロエミッション実現に大きく貢献しています。
取り組み2.ゼロエミ・チャレンジ
ゼロエミチャレンジとは、脱炭素化社会に向け、企業のイノベーションを支援するための取り組みです。
先ほどのエコタウン事業とは異なり、CO2排出量の削減を主軸にしている点が特徴です。
2021年10月5日には、イノベーションの取組に挑戦する企業をリストアップし、投資家や金融機関が集まる「環境イノベーション・ファイナンス研究会」にて公表。
CO2のゼロエミッション化に挑戦する企業への投資・融資を促進させました。
今後も優良プロジェクトの表彰・情報開示により、投資家の企業情報へのアクセスを向上させていくようです。
取り組み3.ゼロエミッション東京戦略
ゼロエミッション東京戦略とは、2050年までにCO2排出量実質ゼロを実現するための戦略です。
脱炭素化の実現に向けたビジョン・取組・ロードマップを盛り込み、2019年5月に策定されました。
本戦略では、東京都の特性を踏まえたうえで6分野14政策に体系化し、ゴールやロードマップを明示しています。
ゼロエミッション東京戦略の体系 分野 政策 エネルギーセクター ①再生可能エネルギーの基幹エネルギー化
②水素エネルギーの普及拡大都市インフラセクター(建築物編) ③ゼロエミッションビルの拡大 都市インフラセクター(運輸編) ④ゼロエミッションビークルの普及促進 <※> 資源・産業セクター ⑤3Rの推進
⑥プラスチック対策 <※>
⑦食品ロス対策
⑧フロン対策気候変動適応セクター ⑨適応策の強化 <※> 共感と協働
-エンゲージメント&インクルージョン-⑩多様な主体と連携したムーブメントと社会システムの変革
⑪区市町村との連携強化
⑫都庁の率先行動
⑬世界諸都市等との連携強化
⑭サステナブルファイナンスの推進
上記分野に関係する企業と連携しながら、2030年のカーボンハーフ・2050年のカーボンニュートラル実現を目指しています。
参照:ゼロエミッション東京戦略2020 Update & Report
取り組み4.地域脱炭素ロードマップ
地域脱炭素ロードマップとは、「地域課題の解決」・「地域創生」・「脱炭素社会」に向けた取り組みを体系化した政府発行のロードマップです。
ロードマップでは、2030年までに集中しておこなう以下8つの重要対策を示しています。
- 屋根置きなど自家消費型の太陽光発電
- 地域共生・地域ひえき型再エネの立地
- 公共施設等における再エネ電気調達と更新時の ZEB 化誘導
- 住宅・建築物の省エネ性能等の向上
- ゼロカーボン・ドライブ
- 資源循環の高度化を通じた循環経済への移行
- コンパクト・プラス・ネットワーク等による脱炭素型まちづくり
- 食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立
上記8つの重要対策は、各省庁や自治体へと反映され実行基盤が構築されています。
取り組みの一環として、補助金制度や税制優遇制度も実行されているため、ゼロエミッション活動に取り組む企業は関連省庁の情報を確認すると良いでしょう。
製造業企業によるゼロエミッションの事例3選
廃棄物問題と密接に関わる製造業では、大企業を中心に、多くの企業でゼロエミッションの取り組みが進められています。
本章では、いち早くゼロエミッションに取り組み、一定の成果をあげている以下3社の事例を紹介します。
- トヨタ自動車株式会社
- オムロン株式会社
- 株式会社デンソー
上記の3社は、それぞれ独自の戦略でゼロエミッションへ取り組んでいます。
自社でのゼロエミッション化を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
事例1.トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は、日本を代表する自動車メーカーです。
同社は、「トヨタ環境チャレンジ2050」と表して、環境問題に対するさまざまな取り組みを実施しています。
近年特に注目を集めているのが、ゼロエミッション車の開発です。
ゼロエミッション車とは、電気自動車や燃料電池自動車など走行時にCO2を排出しない自動車のこと。
同社は、2025年にガソリン車の販売を終了すると発表しており、ゼロエミッション車の本格的な開発に着手しています。
国や地方自治体も、ゼロエミッション車普及に向けての補助や融資を充実させているため、今後自動車のゼロエミッション化が加速していくでしょう。
事例2.オムロン株式会社
オムロン株式会社は、ヘルスケア機器や制御機器を製造する電子機器メーカーです。
同社は、国内12拠点・海外9拠点からなる全グローバル生産拠点にて、ゼロエミッションに取り組んでいます。
たとえば、設計の見直しによる消費資源の最小化や、リユース・リサイクルの拡大による再資源化を推進しています。
すでに、グローバル生産拠点全体でゼロエミッションを実現しており、再資源化率が以下のように改善しました。
- 国内拠点:2017年以降98%以上を維持
- 海外拠点:2017年の77%から2021年の94%へ向上
今後は、生産工程で発生する有害廃棄物の排出量に的を絞り、さらなる削減に努めるようです。
事例3.株式会社デンソー
株式会社デンソーは、自動車部品を扱う製造業企業です。
同社が取り組んだゼロエミッションは、独自システム(cmms)を活用したVOCの削減です。
VOCとは塗料や接着剤に含まれる200種類以上の化学物質の総称であり、スモッグやPM2.5の原因とされています。
同社は、製品に使用するすべての化学物質をシステムで一元管理し、代替技術の開発や排出量の削減に努めました。
結果、2021年には政府目標(30%削減)を上回る52%の削減(対2000年度比)に成功しています。
ほかにも、フロン類・汚水・包装材などさまざまな廃棄物のゼロエミッション化を推進しています。
デジタル技術を活用しゼロエミッションを実現しよう
事業の性質上、廃棄物の排出量が多い製造業では、「DX×ゼロエミッション」が注目されています。
前述した株式会社デンソーのように管理システムを活用し、業務のみならず廃棄物やCO2も管理し削減していく取り組みです。
環境問題が深刻化しつつあるため、今後は「環境問題への対策」と「企業成長」の両立が求められるのではないでしょうか。
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