技術継承で直面する5つの課題とは?解決策と事例を解説

  • 2023年12月20日
  • 2024年2月27日
  • 製造業

近年の製造業では、技術継承という言葉をよく耳にするようになりました。

多くの製造業が技術継承に取り組むものの、思うような成果をあげられていない企業も多く見られます。

「何が原因なのか、どのように課題解決すべきか」と、お困りの方も多いでしょう。

本記事では、技術継承に取り組む製造業の事例を元に、直面する課題とその解決方法を紹介します。

後半では、製造業3社の技術継承に向けた取り組みも紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。

【基礎知識】製造業の技術継承の現状

技術継承とは、ベテラン従業員が持つスキル・知識を、後輩従業員へ引き継いでいく取り組みのことです。

就業者の高齢化が進む近年、技術継承の重要性が高まっています。

しかし実際は、多くの企業が重要性を理解しているものの、うまく実施できていないのが現状です。

ここでは、「独立行政法人 労働政策研究・研修機構」の資料を参照しつつ、技術継承の現状を詳しく紹介します。

製造業で高まる技術継承の重要性

近年の製造業では、就業者の高齢化が進んでいます。

多くのベテラン従業員が退職することで、それまで培われたものづくりの技術・技能が失われる恐れがあります。

本来、ベテラン従業員が持つ技術・技能は、後輩へと引き継いでいくべきです。

しかし、人手不足が深刻化した近年の製造業では、通常業務の遂行がやっとで技術継承にまで手が回りません。

結果、ベテラン従業員が培ってきた技術・技能が、後輩へと受け継がれないまま、退職により消失しているのです。

こうした背景を受け、多くの製造業が若手への技術継承に注力しています。

たとえば、作業工程を動画におさめてマニュアル化したり、ICTによって作業を数値化するなど取り組みは様々です。

ただ、ベテラン従業員の高齢化は今後ますます深刻化するため、迅速な技術継承の取り組みが求められています。

【業種別】技術継承の進捗状況

近年、製造業の技術継承は、取り組みの重要性が業界全体へと定着しています。

しかし、技術継承に取り組むほとんどの企業で、想定した成果をあげられていません。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構が、「技術継承をどの程度重要と考えるか」をアンケートしたところ以下の結果に。

重要 66.4%
やや重要 28.4%
それほど重要でない 2.8%
重要でない 0.5%

「重要」「やや重要」と回答した企業は、約9割を占めています。

一方で、「技術継承がうまくいっているか?」の質問に対しては、以下の結果になっています。

うまくいっている 5.2%
ややうまくいっている 39.8%
あまりうまくいっていない 47.1%
うまくいっていない 6.7%

約半数の製造業が「うまくいっていない」・「あまりうまくいっていない」と回答。

一体なぜ、これほどまでに技術継承を推進できないのでしょうか?

表引用:ものづくり産業における技能継承の現状と 課題に関する調査結果|独立行政法人 労働政策研究・研修機構

多くの製造業企業が抱える技術継承の課題と解決策

同調査によると、技術継承が進まない理由として、以下5つの課題があげられていました。

  • 若年人材を十分に確保できていない
  • OJTを計画的に実施できていない
  • 被支援者の技術習得意欲が低い
  • 指導者を確保できていない
  • 指導者と被指導者のコミュニケーションが不足

ここでは、上記の課題とその原因を紹介します。

参照:ものづくり産業における技能継承の現状と 課題に関する調査結果|独立行政法人 労働政策研究・研修機構

課題1.若年人材を十分に確保できていない

もっとも回答が多かったのは、受け継ぎ手となる若年人材(15~34歳)を十分に確保できていないことです。

近年は製造業のみならず、全産業で若年人材が減少しています。

国内の若年労働力人口は、2007年が2,035万人、2017年が1,711万人 、2040年には1,364万人にまで減少する見込みです。

従来よりも若年人材が減少していることで、採用競争が激化しています。

結果、若手の採用活動がうまくいかず、若年人材の不足に陥っているのです。

ただ、若年人材の減少は、今後さらに深刻化していきます。

そのため、待遇や職場環境、評価制度を見直すなど、若年人材の獲得・定着を促す取り組みが必要です。

課題2.OJTを計画的に実施でいていない

次に、OJTを計画的に実施できていないとの回答が多く見られました。

OJTとは、On the Job Training (オンザジョブトレーニング)の略で、ベテラン従業員が日常業務の中で、若手に知識や技能を指導する教育方法のことです。

マンツーマンでの指導が一般的で、マニュアルでは身に付かない実践的な技能の習得に適しています。

なお、OJTの失敗は、主に以下のパターンに分類されます。

  • 育成計画に現場の意見が反映されず、実際の業務とのギャップが生じている
  • 指導体制が整備されておらず、指導者によって成果にバラツキが生じる
  • OJTが形骸化し、一過性の指導で終わっている

上記の失敗に共通するのは、指導方法への理解と事前準備が不足していることです。

OJTは本来、実行前に育成計画を策定したり、指導者へのトレーニングなど多くの準備が必要です。

ただ実際には、このような準備をしないまま、ベテラン従業員へ指導を一任するケースが多く見られます。

OJTをうまく機能させ、技術を若手へ継承するには、指導体制の整備やベテラン従業員へのフォローが必須です。

すでにOJTを成功させている企業も多いため、先行事例を参考にすると良いでしょう。

課題3.被支援者の技術習得意欲が低い

企業が技術継承へ積極的な場合でも、被支援者の技術習得意欲が低いケースが多くみられます。

ベテラン従業員がたとえどんなに熱心に指導しても、受け手である若手従業員に意欲がなければ技術を継承できません。

また、指導者のモチベーション低下や若手従業員との関係悪化などの問題にもつながります。

若手従業員の意欲を高めるには、技術習得の評価制度を設けるのが効果的です。

技術習得は成果が見えづらいため、評価制度にて進捗状況を可視化することでモチベーションの向上につながります。

技術継承をスムーズに進めるためにも、体制の整備に注力しましょう。

課題4.指導者を確保できていない

先ほどとは打って変わり、指導者を確保できないことで、技術継承が進まない場合もあります。

特に多いのが、指導者の候補はいるものの、リソースの問題で育成に携われないケースです。

高い技術力を持つベテラン従業員は、貴重な人材です。

若手が対応できない業務をおこなったり、現場業務が円滑に進むよう働きかけたりと様々な負担を抱えています。

この状況下で若手への指導もするとなると、業務時間内では終わらず残業が常習化する傾向があります。

このように、社内の人員で技術指導者をまかなえない場合は、候補の範囲を広げるのが効果的です。

たとえば、勤務延長などにより高年齢従業員に継続して勤務してもらったり・すでに退職した従業員を再雇用して指導に携わってもらったりなどが良いでしょう。

通常業務の遂行ももちろん重要なため、経営層や管理者が働きかけて指導者を確保してい区ことが重要です。

課題5.指導者と被指導者のコミュニケーションが不足

5つ目にあがっていたのは、指導者と被指導者のコミュニケーション不足です。

ベテラン従業員が持つ技術・ノウハウを若手に継承するには、両者間でのコミュニケーションが不可欠です。

しかし、ベテラン従業員と若手従業員では、以下のような価値観の違いがあります。

  • ベテラン従業員:先輩の作業を見て覚える
  • 若手従業員:先輩が指導してくれて覚える

また、お互いが価値観の違いを認められないことで、コミュニケーション不足になる傾向があります。

ただ、コミュニケーション不足の解消は、一朝一夕で改善できるものではありません。

そのため、メンター制度やレクリエーションなど、会社の制度としてベテラン従業員と若手従業員の関係構築を目指すことが効果的です。

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技術継承成功のポイント3選

これまで紹介した課題を解決し、技術継承を成功させるためには、以下のポイントが大切です。

  • 技術継承・人材育成の仕組みを構築する
  • 人材採用・育成に十分な予算・リソースを投資
  • 徹底した見える化

現状、技術継承がうまく進んでいない場合は、ぜひ上記のポイントを取り入れてみてください。

ポイント1.技術継承・人材育成の仕組みを構築する

まず、もっとも重要なのは、技術継承・人材育成の仕組みを構築することです。

仕組みを構築することで、指導者による成果のバラつき防止や仕組みの改善スピード向上が期待できます。

具体的には、以下の手順で技術継承・人材育成の仕組みを構築します。

  1. 目指す人材モデルの構築
  2. 育成計画の策定
  3. 指導方式と・担当者を設定
  4. 技術指導と改善

なお、技術継承・人材育成の仕組みを構築する際は、中長期的な視点で設定するのが効果的です。

経済産業省のデータによると、「最低限必要な能力を指導する」よりも、「将来的に必要となる技能」や「今後の事業展開を見据えた技能習得」をする企業の方が、技術継承に成功しているためです。

経営層や管理者が中心となり、中長期的な視点で技術継承・人材育成の仕組みを構築しましょう。

参照:働き方の多様化に応じた能力開発等に向けた課題について|経済産業省

ポイント2.人材採用・育成に十分な予算・リソースを投資

2つ目のポイントは、人材採用・育成に十分な予算・リソースを投資することです。

近年、技術の受け継ぎ手となる若手人材は、採用競争が激化しています。

競争を勝ち抜き若手人材を確保するには、予算のみならず多くのリソースが必要です。

また、ベテラン従業員が育成にあたる技術継承では、通常業務と技術指導の並行が困難です。

最悪の場合、指導に多くの時間がかかり、残業が常習化する可能性があります。

したがって、通常業務とは別に人材育成の時間を確保し、技術継承を進めていきましょう。

ポイント3.徹底した見える化

3つ目のポイントは、ICTなどによる徹底した見える化です。

ベテラン従業員が持つ技術は、経験や勘といった暗黙知がほとんどです。

ただ、暗黙知は、多くの経験を経たベテラン従業員が保有する潜在的な知見なため、一般的なマニュアルには現れにくい傾向があります。

経験の少ない若手従業員へ暗黙知を継承するのは、困難を極めます。

そこで、ICTやマニュアル動画を活用し、ベテラン従業員の作業工程を可視化することが効果的です。

視覚的に技術を把握することで、従来のマニュアル・口頭指導に比べて技術の習得スピードが向上します。

また、作業工程や技術を形式化できれば、中長期的に使える人材育成の教材として活用できます。

技術継承に取り組んだ3つの事例

他の企業は、どのようにして技術継承へ取り組んでいるのでしょうか。

ここでは、独自の方法で技術継承を推進する以下3つの事例を紹介します。

  • 日本電鍍工業株式会社:ICT・固定カメラで暗黙知を可視化し、人材育成のスピードを向上
  • 小西化学工業株式会社:IoT技術で拠点間の地理的問題を解消
  • 川崎重工業株式会社西神工場:OB人材を再任用し、習熟別の研修を実施

上記企業が活用するソリューションや指導体制から、多くの学びがあるはずです。

技術継承の取り組み方でお困りの方は、ぜひ参考にしてみてください。

事例1.日本電鍍工業株式会社:暗黙知を可視化し人材の育成スピードを向上

日本電鍍工業株式会社は、金属部品へのめっき加工を手掛ける会社です。

同社は、加工ラインの天井にカメラを設置し、作業動作を映像で記録することで、品質改善や技術継承に活かしています。

映像をベテラン従業員と若手従業員で確認し、作業の違いから改善点やノウハウを収集しています。

また、映像のみでは伝わりづらい暗黙知には、生産管理システムを活用。

ベテラン従業員の勘や経験に頼っていためっき液の配合をデータ化し、若手従業員の早期育成に役立てています。

事例2.小西化学工業株式会社:IoTカメラで遠隔地からの技術指導を実現

小西化学工業株式会社は、化学繊維や染色体を研究開発する化学メーカーです。

同社の技術継承は、情報システム技術を活用している点が特徴です。

具体的には、和歌山本社工場と福井工場をIoT技術でつなぎ、遠隔でのOJTを実施しています。

ヘルメットにつけたカメラを活用して映像記録を残し、若手従業員への技能指導に活用しています。

また、両工場間をテレビ会議でつなぎ、社員研修による技能向上を推進しています。

事例3.川崎重工業株式会社 西神工場:OB人材による階層別研修の実施

川崎重工業株式会社は、船舶・鉄道車両・航空機などを製造する、大手の重工業メーカーです。

同社は、長年培ってきた技術を余すことなく継承のために、すでに退職しているOB人材を再任用し技術講師として迎えています。

また、従業員の技術習得意欲を高めるため、職級や年次に応じた研階層別研修制度を導入しています。

同社は、本来見えづらい技術習得の度合いを、階層別評価制度を活用して可視化しているのです。

これにより、従業員のモチベーション向上や技術指導の効率化を図っています。

課題を解決しベテラン従業員の技術を継承しよう

本記事では、技術継承に取り組む製造業の事例を元に、直面する課題とその解決方法を紹介しました。

技術継承がうまくいかない企業は、以下の課題につまずいています。

  • 若年人材を十分に確保できていない
  • OJTを計画的に実施できていない
  • 被支援者の技術習得意欲が低い
  • 指導者を確保できていない
  • 指導者と被指導者のコミュニケーションが不足

ただ、これらの課題は十分に対応・解決が可能です。

実際に、先行企業は独自の取り組みにて、若手への技術継承を着々と進めています。

今後、技術継承をお考えの企業や現状取り組みがうまくいっていない企業は、先行事例を参考にして取り組みを推進すると良いのではないでしょうか。

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