近年、製造業のみならず、様々な業種で注目されるAI。
ただ、AIの具体的な活用イメージ・実際の導入効果を掴めていない方は、意外と多いのではないでしょうか。
この記事では、AIの導入効果・活用例を、事例を交えて紹介します。
【製造業】AI(人工知能)の基礎知識をおさらい
AI(人工知能)とは、人間の自然知能を、コンピューター上に再現するデジタル技術の総称です。
AIにはさまざまな技術が内包されており、代表的な技術として下記の2つがあげられます。
- 機械学習
- ディープラーニング
機械学習とは、大量のデータを反復学習することで、ある法則を見つけ出す技術のことです。
一般的なシステムのように、情報を丸ごと暗記するのではなく、ルールや規則性を見つけ出す点がポイントです。
質問を投げると内容に合った回答を出力する、チャットボットにも機械学習が使われています。
ディープラーニングとは、AIの判断能力を多層に重ね、学習能力を飛躍的に高める技術。
機械学習に内包される技術であり、画像認識や設備の異常探知など、より高度な判断が可能です。
つまり、AI・機械学習・ディープラーニングには、それぞれAI>機械学習>ディープラーニングという関係性があります。
AIは何ができる?製造業での活用例
AIの適用範囲は多岐にわたり、導入箇所や活用する技術によっても、実現できる業務が異なります。
突き詰めて考えると、AIができることは下記の4つに集約されます。
- 従来の設備・システムの機能を飛躍的に向上させる
- 画像や音声の認識・識別
- 異常検知・予知
- データをもとに予測
とりわけ製造業におけるAIの活用例は、下記の通りです。
- 設備の故障・部品消耗を予知
- 設備の異常動作を検知
- 製品の品質検査をAIが識別
- オペレーション予測
- AI技術を製品として提供(AIを搭載した家電など)
- 生産計画の自動策定
- 作業車両の接近アラート
- 危険エリアへの侵入検知
- 製造工程の省人化・無人化(産業用ロボット)
- 従業員の勤怠管理(AIカメラで識別)
- 作業員・顧客の動線分析や行動分析
- AIがコントロールする無人運搬ロボット
AIは今もなお進歩している技術であるため、今後は活用の幅がさらに広がっていくでしょう。
AI導入により期待できる3つの活用効果【製造業】
製造業がAIを導入した場合、主に下記3つの効果を期待できます。
- 人手不足の解消
- コストの削減
- 生産性の向上
上記3つのAI活用効果を、順に紹介します。
AI導入効果1.人手不足の解消
1つ目の導入効果は、製造業で深刻化しつつある人手不足の解消です。
先の活用例でもあげた産業用ロボットや品質検査の自動識別は、まさに人手不足の解消につながる事例です。
従来ヒトがおこなっていた作業を、AIが代行。
これにより、製造工程の省人化・無人化を実現できます。
また、AIは従来のソリューションと異なり、自己学習や事項に対する柔軟な対処が可能です。
つまりヒトの業務を、高いレベルで代行できるため、多くの製造業企業が抱える人手不足の解決が期待できます。
AI導入効果2.QCDの最適化
2つ目の導入効果は、製造業で欠かせないQCDの最適化です。
製造業企業がAIを導入した場合、QCD改善へ下記のアプローチが可能です。
- Qクオリティ:自動化によるヒューマンエラーの削減・品質合格ラインの底上げ
- Cコスト:省人化による人件費削減・高精度な需要予測や発注の効率化
- D納期:AIによる納期予測の策定と調節シナリオの提示・作業スピード向上による短納期化
通常、QCDの最適化には、膨大な時間と労力がかかります。
たとえ問題点を洗い出せたとしても、改善施策が現場へ浸透しなかったり、施策自体が誤っていたりと、失敗に終わるケースも多く見られます。
その点AIソリューションは機械であるため、導入効果が定量的であり、業務改善・業務改革で一定の成果を出しやすいのです。
AI導入効果3.生産性の向上
3つ目の導入効果は、生産性の向上です。
製造業の生産性を阻む要因の1つに、下記のロス(損失)があります。
- ヒューマンエラー
- 立ち上がりロス
- 不良ロス
- チョコ停・ドカ停ロス
※チョコ停とは数十分レベルでの生産停止、ドカ停とは長時間の生産停止のこと
ヒューマンエラーや立ち上がりロスは改善こそ可能ですが、ヒトが業務をおこなう以上完全に排除することはできません。
しかし、集中力やモチベーションに左右されないAIであれば、常に一定のパフォーマンスを保てるため、上記のロスを排除できます。
これにより、製造現場の稼働率や生産性を向上でき、高い競争力を維持できるはずです。
AIに着目した製造業DX5選
ここからは、AIに着目した製造業のDX事例を5つ紹介します。
- アイリスオーヤマ株式会社
- アウディ
- 株式会社ヌカべ
- 三木プーリ株式会社
- JFEスチール株式会社
上記の5社は、AIに対しそれぞれ異なったアプローチ・取り組みをしています。
今後、AI活用の推進を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
製造業DX1.アイリスオーヤマ株式会社
家具や家電を製造するアイリスオーヤマは、BtoB向けにAIカメラを提供しています。
AIカメラとは、人の顔を迅速かつ高精度に識別できるカメラのこと。
企業のマーケティングやセキュリティ対策などに活用されています。
製造業のAI活用と聞くと、生産工程や管理業務への導入をイメージしがちですが、自社製品へAI技術を導入するという選択も効果的ではないでしょうか。
最近ではAIカメラ以外にも、AI運搬ロボットやAI家電などさまざまな製品が登場しています。
製造業DX2.アウディ
アウディは、世界的にも有名なドイツの自動車メーカーです。
ディープラーニングを活用した品質検査システムをプレス工程へ導入し、省人化を達成しています。
具体的には、板金部品の細かな亀裂を検査用のAIカメラで検出し、自動的にマーキングを施すというものです。
アウディは、最高精度の品質検査を実現するべく、数百万枚にも及ぶテスト画像を用意し、数ヶ月間AIをトレーニングしました。
結果、板金部品の細かな亀裂さえも、AIが自動的に認識できるようになったとのこと。
今後は、自動車のドア・エンジンフード・フェンダーなど、適用範囲を広げていくようです。
製造業DX3.株式会社ヌカべ
株式会社ヌカべは、電子部品・自動車部品を扱う製造業企業です。
AI導入以前から製造工程の自動化に取り組んでおり、部分的な省人化を達成していました。
さらなる省人化やチョコ停の削減を達成するべく、ピッキングAIロボットを導入。
導入したピッキングAIロボットは、3次元認識とロボット制御により、表裏判定やワーク反転などの複雑な動作も可能。
加工ラインへの粗材投入を、完全自動化した事例です。
また、ピッキングAIロボットは、ピッキング以外の動作もティーチレスで実行できるため、導入期間の大幅削減につながっています。
製造業DX4.三木プーリ株式会社
三木プーリ株式会社は、電磁クラッチや電磁ブレーキなど、伝導機器・制御機器を製造する会社です。
2020年からAI活用を本格的にスタートしましたが、当時は社内にAIの知見・技術がなく手探りの状態でした。
AIのノウハウを蓄積し、AI人材を育成するため、ベンダー企業が開催するAI技術講習を受講しました。
技術講習を通し、AIで何ができるのかなど、抽象的だったAIへのイメージを具体化できたそうです。
今後は、学んだことを手がかりにさまざまな手法を試し、AI活用を促進するそうです。
製造業DX5.JFEスチール株式会社
日本大手の鉄鋼メーカーJFEスチール株式会社は、AIを活用した安全行動サポートシステムを導入しました。
危険エリアへの侵入を検知すると、警報を発するとともに、ラインを自動停止させるというものです。
照明が暗く、あらゆる装置が設置された製鉄所内でも人物を検知できるよう、ディープラーニングによってAIをトレーニング。
結果、実用レベルの人物検知を実現しました。
すでに、一部工場では実用に至っており、今後はさらなる機能の拡充と新技術の開発に努めるようです。
製造業のAI導入を阻む3つの要素と対応策
これからAIを導入しようと考えている場合には、下記3つの障害に注意が必要です。
- AI人材の不足
- AI活用の不透明性
- データ・インフラ基盤の構築
この章では、上記3要素の注意点と対応策を解説します。
AI人材の不足
1つ目の障害は、AI導入プロジェクトを推進できる人材の不足です。
中小企業庁の調査でも、全体の45%の企業が「技術・ノウハウを持った人材が不足している」と回答。
次いで、「活用イメージが湧かない」「新技術について理解していない」が多いことから、企業内にAIの知見を持つ人材が少ないことが伺えます。
AI人材不足を解決するには、先述の三木プーリ株式会社のように、外部機関を利用して社内にノウハウを形成することが重要です。
AI人材不足は今後さらに深刻化すると予測されるため、迅速な対応が求められます。
AI活用の不透明性
2つ目の障害は、AI活用の不透明性です。
AIは近年注目され始めた技術であり、多くの企業が活用先や導入方法を探っている状態です。
またAI人材が不足していることもあり、全体像を把握できず、プロジェクトを実行へ移せない企業が多くみられます。
AIの透明性を確保するには、先ほどと同様、AI人材や知見を社内に蓄積することが重要。
国内の先行企業のみならず、AI活用が活発な中国企業・アメリカ企業の事例を参考にすると良いでしょう。
データ・インフラ基盤の構築
3つ目の課題は、データ・インフラ基盤の構築です。
AIの性能を実用レベルにまで引き上げるには、膨大なデータとそれを支えるインフラ基盤が欠かせません。
しかし、多くの製造業企業は十分なIT投資をおこなっていないため、たとえAIを導入しても十分な効果が得られない恐れがあります。
対策としては、DX戦略、データ、インフラ基盤のそれぞれに優先順位を付け、段階的にIT化・デジタル化を進めることが効果的です。
AI活用は一朝一夕で達成できるものではないため、長期的な視点で取り組むことが成功への近道でしょう。
製造業担当者へ、AI導入に向けてインフラ基盤・DX戦略を構築しよう
AIは、製造業企業に大きな導入効果をもたらす技術。
しかし、導入・活用に至るには、計画的なDX戦略やAIを下支えするデータ・インフラ基盤が欠かせません。
AIを用いたDX推進を検討している方は、先行企業の事例やベンダー企業のセミナーなどの情報を参考に、DX戦略を策定・実行されてみてはいかがでしょうか。
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