人手不足が深刻化する近年の製造業では、人材管理のあり方が問われています。
なかでも、従業員の能力やスキルをデータ化し管理するタレントマネジメントに注目が集まっています。
本記事では、製造業が目指すべき人材管理について、タレントマネジメントの概要と進め方を交えて解説します。
製造業を取り巻く人材管理の現状
近年の製造業では、人材不足が深刻化しつつあります。
経済産業省の調査によると、94%もの企業で人材確保に課題があると回答。
3割強の企業においては、事業に人手不足の影響が出ていると回答しています。
多くの企業で人手不足が深刻化している昨今、迅速な課題解決が求められています。
なかでも注目されているのが、”採用面の強化や外国人労働者の受け入れ・ITソリューションによるデジタル化”です。
一部の先行企業では成果をあげており、今後更なる取り組みが期待されています。
こうした打開策を取り入れる上で重要なのが、人材管理の最適化です。
人材管理の最適化が重要な理由は、たとえ新たな人材を雇用したとしても、管理体制が不十分では離職につながりかねないため。
人手不足が深刻化しつつある昨今、 人材管理のあり方が問われています。
参照:第2節 人手不足が進む中での生産性向上の実現に向け、「現場力」を再構築する「経営力」の重要性|経済産業省
製造業で人手不足が深刻化する3つの理由
そもそも、なぜ製造業では人手不足が深刻化しているのでしょうか。
考えられる理由は、主に以下の3つです。
- 製造業に対する負のイメージ
- 日本人労働者の減少
- 世代交代の失敗
それぞれ順に紹介します。
理由1.製造業に対する負のイメージ
1つ目の理由は、製造業に対する負のイメージです。
なかでも代表的なのが、製造業の労働環境を表す「3K」という言葉。
- きつい
- 汚い
- 危険
3Kとは、製造業に対する負のイメージを指す言葉です。
このような用語が人々の間で浸透してしまうほど、業界のイメージが低下しているのです。
実際、求人募集をかけても、思うように応募を集められず人手不足を解消できないというケースも多いでしょう。
もちろん、すべての製造業が上記のイメージに当てはまるわけではありませんが、業界としてこのイメージが根付いている昨今、採用活動に向けた新たな取り組みが求められます。
理由2.日本人労働者の減少
2つ目の理由は、日本人労働者の減少です。
総務省統計局が発表したデータによると、2022年の労働力人口(15 歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は6902万人です。
2012年の6565万人と比較すると増加傾向にありますが、これは女性や高齢者層の働き手が増えたためです。
製造業に限定すれば、2002年の1202万人から2019年の1063万人まで減少傾向が続いています。
近年では、働き方改革やグローバル化の影響もあり、職業の多様化が進行中。
製造業への人材供給が少なく、結果的に人手不足を引き起こしているのです。
理由3.世代交代の失敗
3つ目の理由は、世代交代の失敗です。
たとえデジタル化・自動化が進んだとしても、製造業では長年積み上げてきたノウハウや知見が重要です。
熟練の従業員であれば、複数の製造工程を担当できますが、新人従業員ではそうはいきません。
また、本来であれば熟練従業員が新人の教育を担いますが、人手不足にある昨今では技術継承に割く時間・コストの余力がないのです。
結果、高い技術力と生産性を持ったベテラン従業員の育成が進まず、現場の労働力不足が解消されません。
近年の製造業は、「人手不足→新人教育が進まない→技術継承の失敗→労働力不足」という負のスパイラルに陥っていると言えます。
製造業が目指すべき人材管理【タレントマネジメント】
人手不足に陥っている製造業では、新たな取り組みとしてタレントマネジメントが注目されています。
タレントマネジメントとは、従業員ひとりひとりのスキルや能力をデータ化し、人事異動・人材育成・人材評価に生かすことで、業務の効率化や生産性の向上を目指す手法です。
製造業でタレントマネジメントが注目された背景には、熟練従業員の退職がありました。
高いスキルを持つ従業員が高齢化し、技術を継承できないまま退職するケースが頻発したのです。
残された従業員は、知識・経験不足のまま業務にあたるため、会社の競争力が低下していました。
そこで、熟練従業員が持つ高い技術力やスキルをデータ化し、若手の従業員に共有していくタレントマネジメントが注目されたのです。
近年では、企業のタレントマネジメントを支えるシステムも提供されており、人材管理を最適化しやすい環境が整いつつあります。
製造業がタレントマネジメント(人材管理)に取り組む3つのメリット
製造業が人材管理の一環としてタレントマネジメントに取り組むメリットは、以下の3つです。
- 人材育成の活性化で能力が向上
- 人事異動の精度向上
- 人材流動の促進
タレントマネジメントにより、人材管理を最適化するためにも、ぜひ参考にしてみてください。
メリット1.人材育成の活性化で能力向上
1つ目のメリットは、人材育成の活性化により従業員の能力が向上することです。
タレントマネジメントを行うことで、従業員は自身の能力や成長を把握できます。
自身が持つ能力を客観的に捉えられることで、より成長するためのポジションへ自ら身を置くことができ、能力の向上が可能です。
人材を管理する企業側としても、在籍する従業員のスキルやパフォーマンスをデータとして蓄積できます。
収集したデータは新人育成に活用できますし、PDCAを回すことで育成業務の効率化を図れます。
また、人材育成の活性化は、企業にとって将来的な人材確保につながるでしょう。
従業員が自己成長を実感することで、企業に定着しやすく、社内でのキャリアアップにつながります。
そのため、企業は将来的に優秀な人材を確保するための基盤を構築できるのです。
メリット2.人事異動の精度向上
2つ目のメリットは、人事異動の精度が向上することです。
従来の人事異動は、役職や年数などを基準に行われることが多く、従業員の能力や適性に合わない異動が多くありました。
しかし、タレントマネジメントでは、従業員の能力や適性を定量的に測定・管理するため、適材適所な人材配置が可能です。
従業員も、自身の要望が反映されやすく、働きがいのある環境で仕事に従事できるため、企業へのエンゲージメントが向上するでしょう。
従業員のエンゲージメント向上により、以下の効果が期待できます。
- 離職率の低下
- 定着率の向上
- 売上・利益の増加
- 新たな人材の確保
特に近年は、仕事のやりがいやワークライフバランスが重視されるようになりました。
従業員のエンゲージメントを高めるためにも、タレントマネジメントは効果的な手法と言えるでしょう。
メリット3.人材流動の促進
3つ目のメリットは、人材流動の促進です。
採用の人材流動と聞くとマイナスなイメージを抱きがちですが、優秀な人材を確保する上で重要な要素。
企業が雇用できる人材には限りがあるため、優秀な人材を確保するには人材流動を促進することが重要なのです。
前述のとおり、タレントマネジメンを実施すると、従業員の適材適所な配置を実現できます。
ただ、それぞれの能力や配置を見直していくと、自社に適していない人材を可視化できるはずです。
こうした人材に対して配置転換などの整理をすることで、新たな人員確保の余力を創出できます。
市場競争が激化し、従業員のスキルや経験が重要視される昨今において、人材流動の促進は大きな効果をもたらします。
製造業がタレントマネジメントを進める際の手順
タレントマネジメントは、どのような手順で導入すれば良いのでしょうか。
タレントマネジメントの基本的な進め方は、以下のとおりです。
- 人材管理の目的を明確化
- 人材管理が担う製造業タレントの範囲を設定
- 人材情報の収集と可視化
- 人材の再配置と育成
- 人材の評価体制を改善
- 施策のモニタリングと効果検証
会社規模にもよりますが、タレントマネジメント推進には多くの時間がかかります。
最短ルートで成果を上げるためにも、基本的な手順を把握しておくことが重要です。
手順1.人材管理の目的を明確化
まずおこなうのは、人材管理の目的を明確にすることです。
人材管理の目的次第で、タレントマネジメントの方向性が異なります。
たとえば、「製造現場の人材力の底上げ」が目的であれば、タレントマネジメントの対象は熟練従業員〜新人従業員までの全員です。
アプローチとしては、熟練従業員が持っている製造スキルやノウハウをデータ化し、人材育成に反映させるなどがあげられます。
対象範囲が広い分、実施には多くの時間やコストがかかり、長期的なプロジェクトとなるでしょう。
一方、次世代の管理者育成が目的であれば、対象となる従業員が絞られます。
すでに製造現場で活躍している人材を中心に、スキルや人望のある従業員を重点的に育成します。
このように、人材管理の目的に応じてタレントマネジメントの方向性や対象範囲が異なるため、自社の課題を踏まえ何に取り組むのかを明確にすることが大切です。
手順2.人材管理が担う製造業タレントの範囲を設定
続いて、人材管理が担うタレントの範囲を設定します。
ここでいうタレントとは、優先的にアプローチをかける人材のこと。
先の例で言えば、「製造現場における熟練従業員〜新人従業員までの全員」と「すでに活躍しているリーダー候補」です。
また、タレントの範囲が決まったら、人材の情報を管理するためのデータベース(タレントプール)を構築しましょう。
経歴や担当業務、能力やスキルなどの管理項目を設定しておくことで、人材管理の方針が変更になった場合でも柔軟に対応できます。
手順3.人材情報の収集と可視化
人材の管理項目が決まれば、いよいよ人材情報の収集をおこないます。
関係者へのヒアリングをもとに情報を収集しますが、情報の客観性には注意が必要です。
対象タレントのポジションや人間関係などによって、収集した情報に差異が生じやすいためです。
なかでも、能力や評価は人によって差が生じやすいため、定性的な評価シートを活用すると良いでしょう。
また、人材情報には個人情報も含まれるため、情報の取り扱いには十分に注意してください。
手順4.人材の再配置と育成
収集した情報をもとに、適切な部署へ人材を再配置します。
再配置後は、タレントが能力を発揮できるよう定期的に支援することが大切です。
また、コミュニケーションのなかから、新たな改善点・データとのズレを収集できるでしょう。
こうしたデータは関係部署で連携し、次回以降の施策に活かすことが重要です。
手順4.人材の評価体制を改善
タレントマネジメントでは、人材の評価体制を見直すことも大切です。
従来の評価体制が、目標とする人材管理の指標として使えない場合があるためです。
評価体制が古いままでは、タレントの能力・成果を正しく評価できず、モチベーションの低下やタレントマネジメントの失敗になりかねません。
目指すべき人材管理に適した評価体制へと改善を図りましょう。
手順5.施策のモニタリングと効果検証
タレントマネジメントは一過性の取り組みではありません。
人材の再配置や育成の最適化など、さまざまな施策がありますが、いずれも実施後に効果を検証することが大切です。
これにより、施策と効果のミスマッチを早期に発見でき、迅速な改善行動へとつなげられます。
最初に設定した人材管理の目的を達成するためにも、PDCAを回し続けましょう。
【製造業】人材管理を変革し人手不足を解消しよう
この記事では、製造業が目指すべき人材管理について解説しました。
深刻な人手不足の状態にある製造業では、人材管理の改革が求められています。
なかでも、従業員の能力やスキルなどをデータ化し人材配置や教育に活かすタレントマネジメントが注目されています。
既存従業員の能力アップや新規採用の成功を実現するためにも、人材管理の最適化を進めましょう。
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