BPR(業務改革)とは、ビジネス・プロセス・リエンジニアリングの頭文字をとった言葉です。
近年、働き方改革や経営環境の変化によりBPRへの注目が高まっているものの、どう取り組むべきかと悩む方も多いでしょう。
本記事では、BPRの概要に触れながら、進め方を5つの手順に分類して解説します。
自社に合った業務改革の効果的な進め方を見つけていきましょう。
BPR(業務改革)とは?
BPRはBusiness Process Re-engineering(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の略で、業務改革を意味します。
企業が目標を達成するために実施する抜本的な組織改革を指し、組織構造や業務フロー、人事評価などを再設計する際に用いられます。
発祥は1990年代のアメリカで、業務改革だけでなく人材や評価制度、研究開発などの企業運営に関わるすべての事柄において、抜本的に見直し、統合や再構成を実施しました。
デジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進される昨今、業務の改善のみならず仕組みの抜本的な再設計が求められています。
より効率的かつ生産性が高い仕組みの構築を目指し、多くの企業がBPRに取り組んでいます。
業務改革と業務改善の違い
BPR(業務改革)と混同しがちな言葉に、業務改善があります。
業務改善とは、ビジネスプロセスの枠組みをそのままに、部分的な改善をすることです。
仮に、特定の部署に仕事が集中し、業務量のバランスが問題となっている場合を想定します。
この場合の業務改善とは、システムや人員リソースを見直し、従業員数の増加や業務を他の部署に割り当てることです。
つまり、改善の対象が業務プロセスの一部に限定しており、段階的に変更を加えることで問題を解決するのが、業務改善といえます。
一方のBPR(業務改革)は、業務プロセスそのものを抜本から作り替えて目的を達成するため、以下の棲み分けがなされます。
BPR(業務改革) | 業務改善 | |
対象範囲 | ビジネスプロセスの全域 | 業務プロセスの一部 |
実施ハードル | 高い | 低い |
実施効果 | 大きい | 小さい |
目的によっては、BPRではなく業務改善が最適なケースもあるでしょう。
自社が目指すものに合わせて、BPR・業務改善を使い分けることが大切です。
BPR(業務改革)が注目される背景
BPRが注目される背景には、1990年代の日本で起きたバブル崩壊後、各企業が経営に苦戦し改善を求めていた過去があります。
アメリカで誕生したBPRが日本で注目され始めたのは、バブル崩壊後です。
バブル崩壊後は、民間企業だけでなく、国や地方自治体でも積極的に組織改革が推進されるようになりました。
ただし、不景気に陥った日本と重なったことで、BPRはリストラの助長やそれに伴う混乱などを生むことに。
十分な知見やノウハウがない中で実践されたため、「BPRが進まない・想定した成果につながらない」という事態となったのです。
時が経ち、デジタル化やIT技術を駆使した組織改革が進められる近年、BPRが再び注目を集めています。
多くのソリューションが誕生したことで、従来よりも少ない負担でBPRを進めることが可能です。
また、大企業をはじめとする先行事例が蓄積しているため、従来よりもBPRを実現しやすいでしょう。
ビジネスにおけるBPR(業務改革)の進め方
BPRを進めるには、以下5つの手順が必要です。
- 検討
- 分析
- 設計
- 実行
- 評価
BPRは、事業部単位で責任者と事業メンバーが主体となって進めていきます。
企業全体的の改革が必要なため、展開する背景や推進する構想を経営層と擦り合わせることが重要です。
さらに、他業界など他社の成功・失敗事例を参考に構想を考えることも必要といえます。
【業務改革の進め方】手順1.検討
まずは、目的や目標設定を経営層が共有する必要があります。
人によって見えるゴールが異なる場合があるため、思考の擦り合わせは大切です。
対象業務の範囲もこの段階で設定し、明確に改善する範囲を決めます。
対象業務をしっかりと決めずに改革を進めても、BPRが思うように進まなかったり、抜本的な改革を実現できなかったりします。
より具体的なビジネスプロセスを想定しておくことで、BPRの成功率を格段に高められるでしょう。
【業務改革の進め方】手順2.分析
十分に検討できたら、次はビジネスプロセスを分析します。
分析は、ツールなどを実際に使用し、ビジネスプロセスを根本的から見直す作業です。
現段階でのプロセスの長所と短所を徹底的に洗い出し、次の手順で紹介する「設計」の材料にします。
使用する分析ツールは、ABC手法やBSC手法がおすすめです。
ABC手法は活動原価計算という方法を用いて、コストの観点からBPRの効果を測定し、BSC手法はコスト以外の要素も評価します。
【業務改革の進め方】手順3.設計
ビジネスプロセスの分析やBPRの効果を測定が終わると、次は設計をします。
分析では、ビジネスプロセスを徹底的に見直し、プロセス自体が影響を及ぼしている課題を洗い出しました。
分析によって見つけた課題をもとに、再設計するビジネスプロセスの方針を決定します。
BPRは、ビジネスプロセスの単純化を想定しているため、この段階で統一できていないプロセスを標準化します。
ツールで測定した効果データをもとに、高い効果を得られそうなものから優先的に再設計を実施。
顧客満足度や生産性、業務負担などを指標に定め、より大きな効果が得られるプロセスを設計します。
設計したビジネスプロセスは、社内全員で共有しましょう。
【業務改革の進め方】手順4.実行
検討・分析・設計はあくまで、BPRを始める準備段階です。
BPRを始める準備が整ったら、いよいよ実行フェーズに入ります。
BPRは抜本的かつ大規模な改革のため、目的の達成までに多くの時間がかかります。
そのため、定期的な軌道修正を忘れず、目的をしっかりと達成できているかを随時確認しましょう。
目標が現段階から遠い場合は、中間目標(マイルストーン)をいくつか設定し、短期的に効果検証ができる状態にします。
ビジネスプロセスの変革は、すぐに効果が出るような簡単なものではありません。
BPRを進める際には、社内全員での共有を怠らず、協力して目標を達成できる組織体制を構築することが重要です。
【業務改革の進め方】手順5.モニタリング・評価
最後に効果を測定するために、モニタリング・評価をします。
モニタリング・評価で測定するポイントは以下の3つです。
- 設計したビジネスプロセスは上手く機能しているか
- 問題が発生した場合、何が原因か
- 従来のビジネスプロセスに比べて、どのような効果があったか
モニタリング・評価をすれば、BPRのプロセスは終了です。
ビジネスのBPR(業務改革)を進める3つのポイント
次は、BPRを成功に導くために注意すべきポイントを3つ解説します。
ビジネスのBPR(業務改革)を進める際には、以下3つのポイントが重要です。
- 目的の明確
- 業務改革の必要性を部署のメンバーに共有する
- 経営層が現場の業務を理解する
上記3つのポイントを踏まえ、BPRの成功率を高めましょう。
【ビジネス業務改革】ポイント1.目的の明確化
BPRは、計画段階で目標やゴールを明確にしなければ成功できません。
会社全体でビジネスプロセスの改革に取り組む推進力を維持するには、目的を見失わないことが重要です。
たとえば、分析や検討をする段階では、無駄な業務の削減や作業負担の軽減、目標販売数などを明確にすると良いでしょう。
自社がどのような課題を抱え、何を実現したいのかをもとに、BPRの目的を設定してください。
【ビジネス業務改革】ポイント2.業務改革の必要性を部署のメンバーに共有する
BPRの必要性を各部署のメンバーで共有できれば、一人ひとりの仕事に対する意識やモチベーションを変えられる可能性があります。
メンバーのモチベーションが上がれば、部署内の業務がスムーズになり、結果的にBPRの成功率も高まるでしょう。
また、変更後の業務フローを各部署で共有しないと、部署内のメンバーが連携できなくなり、社内全体の業務効率が悪くなる恐れがあります。
業務の非効率化を防止しBPRの成功率を高めるためにも、情報共有を徹底することが大切です。
【ビジネス業務改革】ポイント3.経営層が現場の業務を理解する
BPRの実施には、経営層の現場理解が欠かせません。
BPRの担当者は、経営層や管理職など現場から離れた地位にある方が一般的です。
しかし、実際に現場業務を遂行し、業務課題に頭を悩ませるのは現場の従業員です。
経営層や管理職が現場の業務を十分に理解していない状態で改革を進めても、課題を収集しきれなかったり、かえって生産性が悪化したりする恐れがあります。
そのため、BPRの担当者は現場の従業員と積極的にコミュニケーションを取り、現在の業務状況を理解することが大切です。
ビジネスに必要なBPR(業務改革)の代表的な手法
次は、BPRを実施する際に用いる代表的なフレームワーク・手法を紹介します。
- フローチャートの作成
- ERP(経営管理システム)の導入
- MECE
- 7つの改善手法
上記4つのフレームワーク・手法を順にみていきましょう。
【業務改革を進める手法】1.フローチャートの作成
現状の問題点を洗い出すために、業務フローチャートの作成は非常に有効な手法です。
業務フローを見直す際には、以下のポイントに注目して問題点を洗い出します。
- 時間を要している一連の業務になかで、阻害している業務
- 他部署と業務が重複していないか
- 顧客から必要とされていない非付加価値的な要素
一部門の業務や事業だけでなく、全社規模で見直すことがBPRによる抜本的な改革といえます。
【業務改革を進める手法】2.ERP(経営管理システム)の導入
ERPとは基幹系情報システムのことで、経営層の意思決定をサポートするために利用します。
ERPは、販売・在庫管理・生産体制といった複数の部門に分かれる情報を集約し、フロー全体を統合的に管理できるシステムです。
EPRのような幅広い業務に対応できるシステムを導入すると、BPRを実施した後に日々の業務管理が簡単になります。
EPRを利用すれば、部門毎に管理していた情報を関連する一連のフローが可視化できるため、効率的な問題解決に有効です。
なお、EPRの詳しい特徴やソフトウェアの選び方について知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
ERPソフトの種類は多岐にわたるため、それぞれの種類と特徴を理解して選定する必要があります。この記事では、ERPソフトの…
BPR手法・フレームワーク3.MECE
MECE(ミーシー)とは、以下の頭文字をとったフレームワークです。
- Mutually:お互いに
- Exclusive:重複せず
- Collectively:全体的に
- Exhaustive:漏れがない
一般的には、「全体的に漏れがなく、お互いに重複しない」を意味するロジカルシンキングの基礎として活用されます。
トップダウンとボトムアップのいずれにも活用でき、それぞれ以下の特徴があります。
- トップダウン:問題を全体像で捉えるため、明確なゴールを達成しやすい
- ボトムアップ:細かな要素で問題を捉えるため、潜在的な課題解決に最適
MECEはロジカルシンキングの代表的な手法であり、汎用性の高いフレームワークです。
BPRのようなトップダウンかつ目的が明確な施策では、大きな効果が期待できるでしょう。
BPR手法・フレームワーク4.7つの改善手法
7つの改善手法とはその名のとおり、以下7つのパターンを用いて改善方法を模索する手法です。
- 仕事を変える
- モノを見直す
- ヒトを見直す
- フォーマットを見直す
- IT技術を活用する
- 管理体制を変える
- 組織全体を変える
BPRに上記7パターンの方向性を盛り込むことで、より効果的な改善方法を見つけやすくなります。
たとえば、新人教育に多くの時間・工数が掛かっているケースを思い浮かべてください。
改善方法を上記7パターンに当てはめて検討することで、従来よりも多くのアイデアが浮かぶのではないでしょうか。
7つの改善手法は、BPRにおいて最も重要な分析・再設計のフェーズに有効なフレームワークです。
ぜひ、実際のBPRで活用してみてください。
BPR(業務改革)の成功事例3選
近年のBPRは企業のみにとどまらず、自治体や行政機関でも実施されています。
すでに数多くの成功事例がありますが、本章では厳選した以下3つのケースを解説します。
- 静岡市:自治体による働き方のBPR
- LIXILグループ:グループ会社のデジタルBPR
- ブリジストン:高付加価値化に向けた開発BPR
いずれも、BPRの目的や実施フローが大きく異なる事例です。
BPRの進め方にお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
BPR成功事例1.自治体(静岡市)
静岡市は自治体でありながら、行政の生産性向上や働きがいを感じられる組織風土の実現を目的としたBPRを実施しています。
BPRの目的を達成するため、令和2年度の取り組みでは推進内容を以下4項目に分類しています。
- 業務の見直し・効率化
- 多様な働き方の実現
- 職場環境の改善
- 心身の健康増進・不安解消
上記4項目がさらに細分化され、業務効率に問題があった廃棄物リサイクル課、福祉指導課などで業務改善を実施したり、本庁、浜松総合庁舎でサテライトオフィスを運用したりなど、様々な取り組みを実施しました。
結果、廃棄物リサイクル課では、許可業務に係る書類審査の作業時間を年間30時間短縮。
また、静岡市本庁に設置したサテライトオフィスは、1ヶ月あたり 45.9回利用されるなど、着実な成果をあげています。
静岡市のBPRは現在も進行中であり、取り組み状況や効果などの情報を公開しています。
積極的にBPRへ取り組み、多くの情報を開示しているため、参考にできる部分が多いのではないでしょうか。
BPR成功事例2.LIXILグループ
LIXIL(リクシル)は、住宅設備の製造・販売を手がける大手企業です。
2010年頃から海外企業の買収に乗り出し、急速なグローバル化を推進しました。
しかし、急速に増加した海外子会社との経理業務に課題を抱え、デジタル技術を活用したBPRを実行しました。
2017年には本社直轄の組織を複数立ち上げ、世界9カ国27拠点の経理業務を3つのシェアードサービスセンターに集約。
シェアードサービスセンターではAIをはじめとするデジタル活用が活発であり、多くの課題を抱えていた経理業務の自動化に成功しています。
また、比較的管理が容易なロボティクス技術を導入したことで、組織におけるガバナンスの強化も実現しています。
参照:組織の簡素化、業務効率化、コーポレート・ガバナンス強化に向け、組織変革を加速|LIXIL
BPR成功事例3.ブリヂストン
ブリジストンは、世界シェアトップを誇る大手のタイヤメーカーです。
競合企業との激しい市場競争を繰り広げる中、製品の高付加価値化を目的とした開発BPRを実行しました。
従来の開発部門では、設計者がドキュメントの制作や資料作成などに追われ、本来取り組むべき開発業務に注力できていませんでした。
また、設計者ごとに技術・ノウハウが属人化し、チーム内での情報共有・標準化がなされていない状態だったようです。
そこで同社は、ドキュメントの制作や資料作成などの一部をアウトソーシングし、業務を15%ほど効率化。
本来注力すべきだった設計業務・開発業務への投入リソースを増加させ、品質の向上や生産性の向上を実現しています。
業務改革でビジネスプロセスを変える進め方を理解しよう
この記事では、BPRの概要にも触れつつ、進め方を5つの手順に分類して解説しました。
BPRは業務改革を意味しており、組織構造や業務フロー、人事評価などを再設計し、企業が目標を達成するために実施する抜本的な改革です。
近年、BPRの注目が高まる一方で、誤った方法で実践したために成果が得られず失敗に終わるケースもみられます。
BPRを成功させるには、組織全体で協力し、洗い出したフローを全員が共有することが非常に大切です。
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