地球温暖化が深刻化する昨今、国際的な長期目標としてカーボンニュートラルが注目されています。
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を抑え、森林等による吸収量と均衡させた状態のことです。
本記事では、カーボンニュートラルの意味や関連用語を踏まえつつ、政府・企業の取り組みと直面する課題を紹介します。
【わかりやすく解説】カーボンニュートラルの意味とは?
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量が実質ゼロになった状態のことです。
省エネ設備や自然由来の発電方法への切り替えなどにより、生活・企業活動による温室効果ガスの排出量を削減。
植林や森林保護により、温室効果ガスの吸収量を高め、排出量・吸収量が差し引きゼロになる状態を目指します。
ここではカーボンニュートラルの基礎概要として、2050年カーボンニュートラルと関連用語を紹介します。
政府が掲げた「2050年カーボンニュートラル」とは?
環境問題に関する情報を集めていると、「2050年カーボンニュートラル」という単語をよく目にするでしょう。
これは2021年4月に菅元総理が表明した、カーボンニュートラルの実現に向けた目標のことです。
以下が、当時表明された内容です。
2050年にカーボンニュートラルを実現。
2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに50%の高みに向け挑戦を続ける
参照:地球温暖化対策計画(令和3年10月22日閣議決定)|環境省
2015年のパリ協定で取り決められた「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、かつ1.5℃に抑える努力をする」という世界共通目標の実現に向け、日本以外にも154カ国が2050年のカーボンニュートラル実現を表明しています。
なお、達成期限は国ごとに異なり、近年急速に経済が成長している中国やインドネシアなどの新興国は、2060年の実現を表明しています。
カーボンニュートラルの関連用語5つを解説
カーボンニュートラルには、意味や名称が類似した関連用語が存在します。
代表的な用語とその意味を表にまとめました。
用語 |
意味 |
ゼロカーボン |
温室効果ガスの排出量と森林等による吸収量を均衡させ、温室効果ガス排出量実質ゼロとすること。 |
ネットゼロ |
温室効果ガスの排出量から森林等による吸収量を差し引いて「正味(英:ネット)ゼロ」にすること。 |
カーボンオフセット |
活動でどうしても削減できない温室効果ガス分を、排出量削減活動への投資で相殺する取り組みのこと。 |
カーボンネガティブ |
温室効果ガスの排出量が森林等による吸収量よりも少ない状態のこと。 |
カーボンフットプリント |
材料調達から廃棄・リサイクルまでのライフサイクルで排出される温室効果ガスをCO2に換算し、商品等に表示する仕組み。 |
上記のうち、太字で示した「ゼロカーボン」と「ネットゼロ」は、カーボンニュートラルと同じ意味です。
実際、環境省や経済産業省の資料でも、同義として扱われています。
ほかの用語はカーボンニュートラルと意味こそ異なりますが、同資料内で度々見かける用語です。
いずれも用語自体が似ているため、意味を混同しないよう注意しましょう。
なお、これらの用語は明確な定義がされていないため、提唱者によって意味合いやニュアンスが異なる可能性があります。
今後、環境問題対策の情報を集める際は、各資料での用語の定義を確認しておくと安心です。
カーボンニュートラルの必要性
近年、カーボンニュートラルはなぜこれほどまでに注目されているのでしょうか。
その理由は、温室効果ガスによる地球温暖化や気象災害のリスクを減らし、我々の日々の生活を守るためです。
環境省の資料によると、2020年時点で世界の平均気温は1850年〜1900年の工業化以前と比べて1.1℃上昇したとのこと。
1℃と聞くとそれほど影響がないようにも思いますが、仮に世界の平均気温が1℃後半に達した場合、数億人規模の水不足を引き起こすと推定されています。
また、国際政府間組織のIPCCは、温室効果ガスの排出量別に今後の気温変動シナリオを示しました。
今後、温室効果ガスの排出量を削減できなかった場合、2100年に世界の平均気温が+5℃に達するとしています。
気温の上昇は生態系の破壊や水資源の枯渇、食糧不足につながり、我々の生活を脅かしかねません。
刻一刻と迫りつつある温暖化への対策として、世界各国がカーボンニュートラルへの取り組みを表明しています。
カーボンニュートラルの実現に向けた日本政府の動き
日本では、カーボンニュートラルの実現に向けて各省庁や地方自治体がさまざまな取り組みをおこなっています。
なかでも、政策を総動員して推進されているのが、グリーン成長戦略です。
グリーン成長戦略とは、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、環境問題対策と経済成長の両立を図るための産業政策です。
具体的には、産業構造の転換や投資によるイノベーション創出を促し、国際競争力を向上させる目的があります。
2021年6月に発表されて以来、各省庁・地方自治体が連携し、あらゆる政策を実施しています。
本戦略で重点的に支援するのは、今後成長が期待されている以下14分野です。
なお企業への投資を後押しするため、複数分野を横断する以下5つの支援方針が定められています。
- 予算:政府が企業への環境投資に踏み込むべく、2兆円の基金を設立
- 税制:カーボンニュートラル関連への投資・企業活動・研究の税制支援
- 金融:民間投資を呼び込むための仕組み(法制度・ファンドetc.)を構築
- 規制改革・標準化:イノベーションを創出するための規制緩和・市場への関与
- 国際連携:新興国など海外市場を獲得し競争力を強化・M&Aによる海外資本の取り込み
今後はさらに、法改正や枠組みの転換が進められると考えられます。
製造業やエネルギー業は、本戦略の影響を受けやすいため、政策内容や市場・自社への影響に注目することが大切です。
カーボンニュートラルへ向けた企業の4つの取り組み
近年では、政府のみならず企業でもカーボンニュートラルに向けた取り組みが実施されています。
主な取り組み内容は以下の4つです。
- 省エネ設備の導入・切り替え
- 再生可能エネルギーへの移行
- カーボンオフセットの推進
- オフィス・工場のZEB化
カーボンニュートラルへ向けた取り組みを検討中の方は、自社で取り入れられそうなものがないかチェックしてみてください。
取り組み1.省エネ設備の導入・切り替え
省エネ設備の導入・切り替えは、自社のエネルギー効率を高め、温室効果ガスの排出量やコスト削減につながります。
たとえば、照明器具1つをとっても、蛍光灯や白熱電球からLED照明に変更すると、消費電力を20〜30%削減できると言われています。
消費電力を削減できれば、その分発電に必要な温室効果ガスを削減できるため、カーボンニュートラル実現につながります。
また、製造業はエネルギー消費量の多い産業です。
空調機器やボイラー、製造設備を省エネ性能の高いものへ移行することで、温室効果ガスの排出量を大幅に削減できるでしょう。
企業の省エネ設備導入は、資源エネルギー庁や地方自治体が行う補助金制度の対象です。
設備導入には多くのコストが発生するため、補助金制度や税制優遇制度を利用すると良いでしょう。
取り組み2.再生可能エネルギーへの移行
再生可能エネルギーとは、太陽光・風力など地球上に存在する持続可能なエネルギーのこと。
石油や天然ガスとは違い、再生可能エネルギーでの電力発電は温室効果ガスの排出量を限りなく0に近く抑えられます。
そのため自社で利用するエネルギーを再生可能エネルギーに移行することで、脱炭素化につながります。
また近年は、再生可能エネルギーを提供する電力会社も多く存在します。
必ずしもすべての電力を自社で発電する必要はなく、一部の電力を自社で発電し不足分を電力会社から供給してもらうという選択も可能です。
取り組み3.カーボンオフセットの推進
事業の性質上、温室効果ガス排出量の削減が難しい製造業などでは、カーボンオフセットが注目されています。
カーボンオフセットとは、可能な限り温室効果ガスの削減に努めたうえで、削減が難しい分を外部の削減量(クレジット)購入や環境保護などへの投資で埋め合わせる取り組みです。
具体的には、温室効果ガスを削減できる自治体・企業がクレジットというCO2削減の実績を示す情報を発行します。
CO2削減の難しい企業は、削減実績の購入や資金面での支援により、社会全体のカーボンニュートラルを目指す仕組みです。
以前より取り組みが進められており、カーボンオフセットを利用する、クレジットの発行企業・利用企業ともに年々増加傾向にあります。
ただ問題点として、CO2削減をせずにクレジット購入で埋め合わせる、見せかけの脱炭素化が懸念されています。
環境省はすでに対策を進めており、今後はクレジット購入に審査や条件が設定される恐れもあるため、カーボンオフセットを利用する際は詳細を確認することが大切です。
取り組み4.オフィス・工場のZEB化
ZEBは、ネットゼロエネルギービル(net Zero Energie Bill)の頭文字をとった用語で、快適な室内環境を実現しつつ、再生可能エネルギーの利用や省エネにより、年間の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする建物のことです。
近年、商業施設や工場、オフィスのZEB化に取り組む企業が増加しています。
ただ、上記のようにZEBの実現には多くの設備・システムが必要です。
当然、導入には多額のコストが発生するため、長期的なプロジェクトとして段階的に取り組むケースが一般的です。
企業がカーボンニュートラルに取り組む5つのメリット
カーボンニュートラルに向けた脱炭素経営は、温暖化対策のみならず、ビジネス上のメリットも生み出します。
環境省が発表した「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」によると、特に身近なメリットとして以下5つが期待できるようです。
- 競合に対する優位性の構築
- 光熱費・燃料費の低減
- 自社の知名度・認知度の向上
- 従業員のモチベーション向上と人材獲得力の強化
- 資金調達時の優位性を獲得
本章では、同ハンドブックの情報をもとに、カーボンニュートラルの推進で期待できるメリットを紹介します。
メリット1.競合に対する優位性の構築
各国が環境問題に取り組んでいることもあり、近年の大手企業・グローバル企業はカーボンニュートラルの潮流に敏感です。
自社での脱炭素化を進めるだけでなく、サプライヤーに対しても排出量削減を求める傾向が高まっています。
2021年6月、トヨタ自動車株式会社は直接取引のある主要部品メーカーに対し、二酸化炭素排出量の前年度比率3%削減を求めました。
また同年の11月には、本田技研工業株式会社も、CO2排出量を2019年度比で毎年4%ずつ削減し、2050年に実質ゼロにするようサプライヤーへ要請しています。
いずれも、取引条件にCO2の削減を定めていませんが、将来的には脱炭素経営がサプライヤーの選別につながるでしょう。
言い換えれば、カーボンニュートラルに取り組んだ企業がサプライチェーンに残りやすく、競合に対する優位性の構築につながると言えます。
メリット2.光熱費・燃料費の低減
カーボンニュートラルの一環として、設備の更新や入れ替え、業務プロセスの見直しを行うことで、光熱費・燃料費の低減が期待できます。
特に、設備が老朽化している企業や、エネルギー消費量の多い企業は、エネルギー効率の見直しによりコストを大幅に削減できるでしょう。
また、消費電力の一部または全部を再生可能エネルギーへ切り替えることで、経済状況や情勢による価格高騰リスクの低減につながります。
メリット3.自社の知名度・認知度の向上
年々、環境問題への関心が高まっていることもあり、カーボンニュートラルへ積極に取り組む企業や先駆的な成果を上げた企業は、さまざまなメディアで取り上げられるようになりました。
これにより、いち早く脱炭素経営に着手した企業は、会社やブランド、商品の知名度・認知度向上を達成しています。
また、消費者側のニーズにも変化があり、商品を選ぶ際に環境へ配慮したものを選択している人が増加しています。
今後もこうした消費者のニーズは高まると考えられるため、自社の知名度やブランドイメージを向上させるためにもカーボンニュートラルは重要な取り組みと言えるでしょう。
なお、現状は中小企業によるカーボンニュートラルへの取組事例が少ないため、いち早く着手することで、高い優位性を構築できるのではないでしょうか。
メリット4.従業員のモチベーション向上と人材獲得力の強化
前述のとおり、環境問題への関心が高まっていることで、脱炭素経営へ積極的に取り組む企業は従業員の共感・信頼を獲得しやすくなっています。
また、脱炭素経営に取り組む会社は、気候変動問題などの環境問題に関心の高い人材から共感・評価され、意欲を持った人材が集まりやすいでしょう。
近年は、就職先の条件に社会課題の解決を上げる人も増加しており、エシカル就活といった言葉を耳にするほど。
カーボンニュートラルに向けた取り組みは、金銭的なメリットだけでなく、社員のモチベーション向上や人材獲得を通じた、 企業活動の持続可能性の向上をもたらすでしょう。
メリット5.資金調達時の優位性を獲得
政府が行うグリーン成長戦略の影響もあり、企業の脱炭素化に向けた取り組みが融資先の選定基準に組み込まれつつあります。
たとえば、滋賀銀行や中国銀行でも実施が始まったサステナビ リティ・リンク・ローンがあげられます。
サステナビ リティ・リンク・ローンは、温室効果ガスの排出量削減や再生可能エネルギ ーの生産など、脱炭素化に向けた目標の達成状況に応じて貸出金利が変動する仕組みです。
脱炭素化で一定の成果を上げている場合は、金利が優遇されるため資金調達時の優位性につながります。
カーボンニュートラルの3つの問題点と対応策
世界的に注目されているカーボンニュートラルですが、企業が取り組む場合には以下の3つが問題視されています。
- 設備の導入に多額のコストがかかる
- 再生可能エネルギーの発電コストが高い
- CO2排出量の検証が難しい
本章では、カーボンニュートラルの問題点とそれぞれの対応策を紹介します。
問題点1.設備の導入に多額のコストがかかる
1つ目の問題は、設備の導入に多額のコストがかかることです。
企業の脱炭素化には、発電設備やエネルギー管理システム、省エネ設備などが必要です。
産業用の太陽光発電パネルをとっても、設置のみで数百万円〜数千万円ほどかかると言われています。
補助金や税制優遇制度があるとはいえ、これらのコストを捻出するのは容易なことではないでしょう。
そこで重要なのが、脱炭素化を長期的な経営戦略で捉えることです。
コスト自体の削減には限界がありますが、戦略的に取り組むことで温室効果ガスの削減量や金銭的な成果につながりやすくなります。
したがって脱炭素化を推進するには、現状の温室効果ガスの排出量や削減方法、既存設備の状況などを加味して、どのような方針で脱炭素化を目指すのかを取り決め、段階的かつ戦略的に推進することが大切です。
問題点2.再生可能エネルギーの発電コストが高い
脱炭素化の一端を担うとして注目される再生可能エネルギーですが、現状、発電コストの高さが懸念されています。
電源 石炭火力 LNG火力 原子力 石油火力 陸上風力 洋上風力 太陽光(事業用) 太陽光(住宅) 発電コスト(円/kWh) 12.5 10.7 11.5~ 26.7 19.8 30 12.9 17.7 稼働年数 40年 40年 40年 40年 25年 25年 25年 25年
上記は、2020年時の実測値をもとに算出されたデータです。
原子力・火力発電と比較すると、再生可能エネルギーを活用した太陽光・風力発電などのコストは軒並み高い傾向にあります。
また、設備の稼働年数を考慮すると、石油製資源による発電の方が効率的な状態です。
対策として、自社発電が難しい場合は、再生可能エネルギーを使用する電力会社へ切り替えるという選択も効果的です。
直接的ではないにしろ、発電時の温室効果ガス排出量を抑えられ、社会全体のカーボンニュートラル推進につながります。
問題点3.CO2排出量の検証が難しい
3つ目の課題は、CO2排出量の検証が難しい点です。
日本では、一定以上のCO2排出量がある事業者を対象に排出量の報告・公開を義務化しています。
また、サプライチェーンがCO2排出量の削減を目指している場合は、取引先から排出量の開示を求められることもあるでしょう。
しかし、企業が自身の経済活動で、どれほどのCO2を排出しているのかを算出するのは容易なことではありません。
算出方法の決定や実際の計算などには専門的な知識が必要ですし、通常業務と並行してデータを収集・管理するため業務負担の増加が懸念されます。
こうした課題を解決する方法として注目されているのが、基幹業務やCO2排出量を一元的に管理するERPシステムです。
ERPシステムを使えば、基幹業務の支援や業務効率化はもちろん、生産活動で排出されるCO2量をリアルタイムで集計・管理できます。
業務負担を抑えつつ、脱炭素化に向けた正確なデータ管理を実現できるでしょう。
カーボンニュートラルの実現に向け、できることから始めよう
本記事では、カーボンニュートラルの意味や政府・企業の取り組みと直面する課題を紹介しました。
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量が実質ゼロになった状態のことです。
脱炭素化に向けた取り組みでは、多くの課題が立ちはだかります。
まずは長期的な観点から目標を設定し、自社ができることから取り組むと良いでしょう。
当メディアを運営するチェンシージャパン株式会社では、CO2排出量の可視化・管理が可能なERPシステム「IFS Cloud」を提供しております。
カーボンニュートラルの実現に向け脱炭素化を検討されている方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。