カーボンニュートラルとSDGsは、密接に関連した取り組みです。
カーボンニュートラルの目的はCO2をはじめとした温室効果ガスの排出をなくすことであり、SDGsには温室効果ガス削減を含めた目標を掲げているためです。
本記事では、カーボンニュートラルとSDGsが、どのように関連しているのかを解説します。
製造業が抱える課題や、カーボンニュートラル・SDGsに向けた取り組みの事例もあわせてご覧ください。
カーボンニュートラルとSDGsの関係性とは?
カーボンニュートラルは温室効果ガスの削減を目指す取り組みであり、SDGsは世界が抱える様々な課題解決に必要な総合的な目標です。
そのため「カーボンニュートラル=SDGs達成のために必要な取り組みのひとつ」と考えて良いでしょう。
本章では、カーボンニュートラルとSDGsの詳細な内容を解説します。
1.カーボンニュートラルは温室効果ガス排出ゼロを目指す取り組み
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡を通じて、実質的なゼロを目指す取り組みです。
カーボンニュートラルの実現には、省エネをはじめとした温室効果ガス削減に向けた取り組みのほか、植林・森林管理などによる温室効果ガス吸収量の向上に取り組みます。
2.SDGsは環境・差別・貧困・人権問題を解決する目標
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、2030年までに世界中の環境・差別・貧困・人権などに関する問題の解決を目指す目標です。
問題解決に向けた17の目標と169のターゲットから構成されており、2015年に開催された国連サミットの「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に全ての加盟国が同意したのをきっかけに広まりました。
日本では、2016年5月に「SDGs推進本部」が設置され、全省庁の具体的な施策を盛り込んだ「SDGsアクションプラン」を毎年策定。
SDGsの優れた取り組みをした企業を表彰する「ジャパンSDGsアワード」や、優れたSDGsの取り組みを提案した都市・地域を選定する「SDGs未来都市」などを実施しています。
カーボンニュートラルはSDGsの目標7と目標13に該当
カーボンニュートラルは、経済発展に役立つエネルギー確保を目指すSDGs目標7と、気候変動の抑止・対策が盛り込まれたSDGs目標13に関連しています。
しかし、SDGs目標の7と13を達成するには、具体的に何を目標とすると良いのでしょうか。
本章では、カーボンニュートラルと特に密接に関連するSDGsの目標である7と13を解説します。
SDGs目標7:エネルギーをみんなに。そしてクリーンに
現在使用しているエネルギーの大半は、化石燃料に頼っています。
しかし、化石燃料を用いたエネルギー創出は、CO2排出量が多いため環境に良いとは言えません。
そのためSDGs目標7では、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーに注目して、脱炭素(カーボンニュートラル)を目指しています。
SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を
SDGs目標13で目指しているのは、世界的に発生している気候変動に対する緩和策と適応策の2つです。
緩和策に必要なのは、エネルギーのクリーン化と省エネであり、前述したSDGs目標7と同様の目標実現を目指す必要があります。
適応策に必要なのは「レジリエンス(回復力・復元力)」を備えること。
災害発生後に、より迅速に経済活動を再開し、損失を最小限に抑える取り組みが必要です。
製造業がカーボンニュートラルで悩む理由
製造業がカーボンニュートラルで悩むのは、CO2排出基準設定が難しく、結果的に検証も困難になるためです。
先進国はCO2排出量の削減を中心に考えて取り組める一方で、開発途上国はインフラ整備のためにCO2排出量が増加するケースもあります。
生産工程で発生したCO2は、開発途上国の排出量として計算されるため「世界全体で計算するとCO2が増加している」という事態を招きかねません。
海外拠点を持つ企業は、拠点ごとのシームレスなCO2排出状況把握と、的確なCO2排出基準の策定に努めましょう。
カーボンニュートラル実現に必要な4つの取り組みとは?
本章では、経済産業省 資源エネルギー庁「「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?」をもとに、カーボンニュートラルの実現に必要な取り組みを解説します。
なお、本章で解説する4つの取り組みは、互いに関連性があります。
実際に取り組む際は、取組1.から順番に実施して、最終的に4つの取り組みが組み合うように計画しましょう。
取組1.節電でCO2排出量を減少「省エネルギー・エネルギー効率の向上」
省エネ・エネルギー効率向上は、カーボンニュートラルに向けた基礎となる取り組みです。
照明のLED化・トップランナー機器への変更などを実施して、建物のエネルギー消費量を抑制します。
取組2.電源の脱炭素化「CO2排出原単位の低減」
CO2排出原単位とは、電気1kWh使用あたりに発生するCO2排出量、または廃棄物1tあたりを焼却した際のCO2排出量です。
企業としては、再生可能エネルギーの使用や原子力発電の利用など、電源の非化石化を推進します。
しかし、製造業の現場では電源の非化石化が困難なケースもあるため、次章で解説する非電力部門の電化が必要となります。
取組3.エネルギー源の転換「非電力部門の電化」
非電力部門の電化は、使用するエネルギー源を電気に変更するところから始めます。
電気では必要な熱量に届かない場合、使用する燃料を水素・バイオマス燃料・合成燃料などに変更しましょう。
水素・バイオマス燃料・合成燃料でもCO2は発生しますが、CO2排出原単位を低減できるため、カーボンニュートラル・SDGsに有効です。
取組4.削減困難なCO2排出量の対策「ネガティブエミッション」
ネガティブエミッションは、脱炭素化ができない場合や非現実的なほどのコスト高となる場合の取り組みです。
削減が困難なCO2に対して、以下2つのCO2回収・貯蓄技術を活用して対策します。
- BECCS:バイオマス燃料使用時に排出されたCO2を回収して、地中に貯留する技術
- DACCS:大気中のCO2を直接回収して貯留する技術
CO2の回収・吸収量増加は、企業が間接的に関わる「カーボン・オフセット」という方法もあります。
カーボン・オフセットとは、植林・森林管理などを実施する団体に投資する仕組みのこと。
カーボン・オフセットの詳細や事例は、農林水産省 農林水産分野のJ-クレジット制度「カーボン・オフセット」をご覧ください。
カーボンニュートラル・SDGsに向けた5つの企業の取組事例とは?
カーボンニュートラル・SDGsは、自社の状況・状態に合わせて、できることから着実に取り組むのが大切です。
本章では、日本・アメリカ・ドイツ企業の5社が取り組んでいる内容を解説します。
自社でカーボンニュートラル・SDGsに取り組む際の見本として活用してみましょう。
事例1.【日本】製造・物流・リサイクルでCO2ゼロを目指す「トヨタ自動車株式会社」
トヨタ自動車株式会社は、素材や部品製造・車両製造・物流・走行・リサイクルと、自動車のライフサイクルを循環させてCO2排出ゼロを目指しています。
目標値は、2030年までにCO2排出量25%(2013年比)削減。
車が持つ「走行時のCO2排出」をはじめとしたマイナスの要因を限りなくゼロに近づけて、社会にプラスをもたらせるよう日々努力を重ねています。
事例2.【日本】事務所・作業所のCO2排出量ゼロが目標「株式会社竹中工務店」
株式会社竹中工務店は、自社のCO2削減に加えて、低炭素型のコンクリートやCO2吸収型コンクリートの開発を通してカーボンニュートラルを目指しています。
2030年までの目標は、自社で発生するCO2と自社の活動に関連するものの2種類があり、具体的な数値は以下の通りです。
- 自社の燃料・電力・熱の使用に伴う排出:46.2%削減
- 自社の活動に関連する他者の排出:27.5%
株式会社竹中工務店では、はじめにエネルギー使用量削減に取り組み、続いて低炭素エネルギー使用といったように段階的に取り組んでいるのが特徴。
バイオディーゼル燃料・水素燃料などの作業所利用を想定した試行も実施しています。
事例3.【日本】森林管理・効率化でCO2排出量削減「平和紙業株式会社」
平和紙業株式会社は、再生紙・非木材紙・間伐材紙など、環境に配慮した紙の販売を通じてCO2排出量削減を目指しています。
管理・計画など、様々な基準をクリアした森林にのみ認められる「森林認証制度」の啓発活動にも注力しているのも特徴。
平和紙業株式会社な、CO2削減とカーボン・オフセットの両面からカーボンニュートラルに向き合っています。
事例4.【アメリカ】太陽光発電で環境に向き合う「Patagonia(パタゴニア)」
パタゴニアの炭素排出原の95%はサプライチェーンで発生しており、CO2の完全な削減は非現実的です。
そのため、ソーラー・シェアリングを活用したカーボン・オフセットへの取り組みを開始。
パタゴニア日本支社は、総計600kW以上の発電を見込める新プロジェクトへも着手して、再生可能エネルギーの創出に挑んでいます。
事例5.【ドイツ】包括的なアプローチでCO2削減「DAIMLER TRUCK Asia(ダイムラートラックアジア)」
ダイムラーは、太陽光発電・バリューチェーン見直しなどを主軸として包括的な取り組みを展開しています。
特筆すべきは、再生可能エネルギーが平均電力需要の最大28%をカバーしていること。
上記画像のように、デッドスペースとなっていたテストコースの空き地に、1万枚を超える太陽光パネルを設置して有効活用しています。
SDGs・カーボンニュートラルに取り組む際の注意点
SDGs・カーボンニュートラルに取り組む際は、コスト管理に注意しましょう。
再生可能エネルギーの創出やCO2管理には、一定以上のコストが必要となるためです。
たとえば、CO2管理は、可視化に必要な新システムの導入・再生可能エネルギーを創出する機器の設置が必要です。
SDGs・カーボンニュートラルは、複数の分野で同時多発的にコストが発生しやすいため、コストの管理体制を構築してから取り組んでください。
SDGs・カーボンニュートラルでお悩みの方へ
本記事では、SDGsとカーボンニュートラルの関連性や、実現に必要な取り組みを解説しました。
製造業界では、脱炭素化に向けた動きが活発化している一方で、CO2排出量の可視化に課題を抱えるケースが多く見られます。
当メディアを運営するチェンシージャパン株式会社では、CO2の可視化・管理が可能機能が備わったERP「IFS Cloud」を提供しております。
SDGs・カーボンニュートラルの実現を目指す際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。