近年、製造業界でも話題にあがるサービタイゼーション。
どのような言葉なのか・なぜ注目されているのかと、疑問をお持ちの方も多いでしょう。
本記事では、サービタイゼーションの意味・製造業で注目されている理由を解説します。
製造業のサービタイゼーションとは?
サービタイゼーションとは、製品自体(モノ)で価値を提供するのではなく、製品を介して得られるサービス(コト)により価値を提供するビジネスモデルのことです。
サービタイゼーションの根底には、「製品自体に対する価値ではなく、顧客が製品から得られる恩恵」つまり、ベネフィットの考え方が存在します。
サービタイゼーションの代表例は、SONYのPS4が挙げられます。
SONYは、従来のゲーム機本体とゲームソフトを販売するのみならず、特定のゲームタイトルが遊び放題・オンラインプレイなどの特典を含む有料サービスPlayStaiton Plusで収益を上げています。
この事例におけるPS4は、サービスを提供するための媒体。
真の価値は、ゲームタイトルが遊び放題・オンラインプレイなどの恩恵を提供するPlayStaiton Plus(コト)なのです。
この他にも、継続収入を目的としたリカーリングやサブスクリプションも、サービタイゼーションに含まれるビジネスモデルなのです。
サービタイゼーションに欠かせないデジタル技術
製造業企業がサービタイゼーションを成功させるには、製品を販売した後も顧客とつながり、ニーズを汲み取る仕組みが重要。
この仕組みを実現するために欠かせないデジタル技術が、下記の3つです。
- IoT
- ビックデータ
- AI
製造業企業は自社の製品にIoTセンサーを取り付け、製品販売後の利用状況や周辺状況などのデータを収集。
ビックデータとしてAIで分析することで、顧客ニーズの抽出が可能です。
たとえば産業用機器を提供する企業の場合、収集したデータをもとに、機器のトラブルを予兆し、事前にメンテナンスを実施するなどが考えられます。
顧客としても、産業用機器が故障すると業務に支障をきたす恐れがあるため、事前にトラブルを回避できる製品に価値を感じるでしょう。
サービタイゼーションを成功させるには、製品提供後のデータ収集が不可欠であり、これを可能とするのが先ほどあげた3つのデジタル技術なのです。
なぜ製造業でサービタイゼーションが求められているのか?
サービタイゼーションは、なぜ製造業で求められているのでしょうか。
さまざまな理由がありますが、大きく下記の2つに集約されます。
- 消費傾向の移り変わり
- インダストリー4.0に浸透
それでは、上記2つの内容を詳しくみていきましょう。
理由1.消費傾向の移り変わり
かつてはモノが少なかったこともあり、人々は製品の機能に価値を見い出していました。
言い換えると、物理的モノを買えば、自分が求める恩恵を享受できたのです。
例えば洗濯を自動化してくれる洗濯機、情報伝達を聴覚から視覚へと変えたテレビなどが挙げられます。
しかし、製品が人々の手に行き渡ると次第にモノへの興味が薄れ、製品+αへと価値基準が移り変わったのです。
消費傾向の移り変わりを語る上で欠かせないのが、4Kテレビ。
従来のテレビよりも画質を飛躍的に向上させた4Kテレビですが、家電メーカーが想定するほど売れなかったのです。
背景には、「テレビの画質をそこまで求めていない」などの消費者心理があるのではないでしょうか。
顧客の消費動向が製品自体へ興味から、+αで提供されるサービスに移り変わったことで、製造業でのサービタイゼーション実現が求められています。
理由2.インダストリー4.0の浸透
ドイツ政府が提唱したインダストリー4.0とは、デジタル技術・データ活用により生産性の向上・顧客ニーズに適した新たな価値の創造を実現するためのプロジェクト。
また、インダストリー4.0の考えを具現化した工場のことを、スマートファクトリーといいます。
近年、インダストリー4.0とスマートファクトリーは製造現場に着々と浸透しつつあり、製造業におけるデジタル技術・データの重要性は今後さらに高まるでしょう。
また、デジタル技術の活用は生産ラインにとどまらず、製品を提供した後のアフターマーケット情報を取得する取り組みにも活かされています。
収集したアフターマーケット情報は製品改良・サービスの創造に活用され、結果的にサービタイゼーション推進に繋がっているのです。
インダストリー4.0とスマートファクトリーがもたらしたデジタル技術・データ活用により、サービタイゼーションの重要度が高まっています。
サービタイゼーションによって得られるメリット
製造業企業のサービタイゼーション実施には、下記3つのメリットがあります。
- 競合他社との差別化
- 顧客との長期的な信頼関係の構築
- 生産性の向上やコスト削減
サービタイゼーションへのシフトを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
メリット1.競合他社との差別化
1つ目のメリットはサービタイゼーションにより競合との差別化につながること。
製造業企業の差別化と聞くと、価格・製品機能・デザインなどを思い浮かべるかもしれません。
しかし、いずれも製品における差別化要因であり、質の高い商品がありふれた昨今において有効な要因とはいえないでしょう。
その点、現在サービタイゼーションを推進している企業は、サービスを付加する段階で既に他社との差別化が実現。
さらに、多くの企業がサービタイゼーションを推進した場合でも、無形の価値であるサービスは適用範囲が広く、同製品でも異なった価値が付加されることで競合との差別化を図れます。
つまり製造業のサービタイゼーション推進は、今ある差別化の選択肢を大幅に増やしてくれる切り札ともいえる取り組みなのです。
メリット2.顧客との継続的な信頼関係の構築
従来の製品を製造・販売するビジネスモデルでは、顧客との関係が一過性で終わるのが一般的でした。
しかし、サービタイゼーションでは、サブスクリプション・リカーリングでのサービス提供が一般的。
したがって、製品の提供後もサービスの提供により顧客との関係を継続できます。
これにより、安定的な売上の確保や製品・サービスに関する継続的なデータ収集が実現。
リピーターの創出は企業が利益を最大化するために欠かせないことですし、製品・サービスのデータは商品開発・品質改良などに活かせるでしょう。
もちろん顧客との継続的な関係を構築するには、単にサービスを提供するのではなく、品質向上などの経営努力も求められます。
ただこれらを考慮しても、安定的な売上確保・継続的なデータ収集が実現できるのは、サービタイゼーションの大きなメリットといえます。
メリット3.生産性の向上やコスト削減
先述のとおり、サービタイゼーションの実施には、デジタル技術の導入が欠かせません。
デジタル技術の導入は顧客との継続的な関係構築に繋がる一方で、現場における業務負担の軽減にもつながります。
たとえばAIやビックデータを活用すると、データの自動分析が可能となり、人手業務を大幅に削減できるでしょう。
このように、サービタイゼーションの推進に付随し、生産性の向上・コスト削減などのメリットを受けられます。
国内企業のサービタイゼーション成功事例
日本国内を見渡すと、いち早くサービタイゼーションに取り組み、すでに成果を出している企業があります。
具体的には、下記の3つの事例です。
- ロールス・ロイス|「Power by The Hour」
- クボタ|農業クラウドシステム「KSAS」
- ダイキン|「Daikin Global Platform」
製品にどのようなサービスを付加し、新たなビジネスモデルを構築しているのか、上記3つの事例をもとに解説します。
事例1.ロールス・ロイス|「Power by The Hour」
1つ目の事例は、自動車メーカーとしても有名なロールスロイスの「Power by The Hour」。
ロールスロイスは、自動車産業以外に航空機向けエンジンの提供もおこなっています。
Power by The Hourとは、エンジン出力と移動時間に応じて、利用料を請求するビジネスモデル。
エンジンに搭載したIoTセンサーから稼働状況を取得する仕組みです。
従来はエンジンを販売する会社でしたが、現在では推進力と利用時間を提供するサービタイゼーションの成功事例です。
事例2.クボタ|農業クラウドシステム「KSAS」
2つ目事例は、農業機器メーカーのクボタが提供する「KSAS」です。
KSASとは、既存の製品である農業機器と最先端技術のICTを融合させたクラウドサービス。
農業機器に取り付けたGPSを使い、圃場(ほじょう)管理や農地ごとの耕作計画策定をサポートします。
また、IoTを活用したセンサーでは、作物の食味・収量を計測しスマートフォンやPCへ送信します。
従来のクボタは、トラクタやコンバインなどの農業機器を提供する会社でしたが、今では営農サポートサービスを提供するサービタイゼーションの模範的企業です。
事例3.ダイキン|Daikin Global Platform
3つ目の事例は、空調設備メーカーのダイキンが提供する「Daikin Global Platform」です。
Daikin Global Platformとは、世界中の空調機をインターネットに接続するloTプラットフォームのこと。
販売した空調設備の稼働状況を一元管理し、故障点検や遠隔点検のサービスを提供しています。
IoT・AI を活用した空調ソリューション事業を推進しており、従来の機器の販売から空調ソリューションを提供するビジネスモデルへと変革しています。
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国内企業が抱えるサービタイゼーションへの課題と解決策
多くの国内企業が抱えるサービタイゼーションへの課題は、下記の3つです。
- 既存サービスによる新規サービス浸透への阻害
- サービス事業の開始に伴うシステム・組織環境の整備
- 新規サービスの構築に必要な経営資源の不足
それぞれの課題と解決策を見ていきましょう。
課題1.既存サービスによる新規サービス浸透への阻害
1つ目の課題は、既存サービスによる新規サービスの阻害です。
昨今サービスの重要性に注目が集まっていますが、それ以前から製造業ではサービスを提供していました。
しかし、従来から存在するサービスは製品販売に付帯しており、無料で提供されているケースが一般的。
例えば、1年間返金保証や修理代金の減額サービスなどです。
すでに無料でサービスを提供している以上、新規サービスの有償化・価格設定は大きな障害となるでしょう。
また、海外では「サービス=有料」の考えが一般的ですが、日本は「サービス=無料」の考えが根付いています。
したがって、サービタイゼーションへシフトするには、既存サービスとは別物と捉え、なおかつ顧客にサービスの価値を理解してもらう必要があります。
サービタイゼーションの本質は、製品を介して得られるベネフィットの提供。
従来のような、製品販売を促進するためのサービスではないため、提供側もそのことを十分に理解し、ビジネスモデルを構築するようにしましょう。
課題2.サービス事業の開始に伴うシステム・組織環境の整備
2つ目の課題は、サービス事業の開始に伴うシステム・組織環境の整備。
サービタイゼーションを推進するには、デジタル技術やシステムの導入・サービス事業の収益化に向けた組織の一新が必要です。
しかし、システム・デジタル技術への導入にはコストがかかり、組織の一新には時間・手間がかかるため大きな障害といえます。
ただ、サービタイゼーションへのシフトは短期間で実現するものではありません。
少しずつサービスを付加し段階を経て推進するため、まずは自社の製品・組織体系を客観的に見つめ直し、到達可能な目標設定から始めると良いでしょう。
課題3.新規サービスの構築に必要な経営資源の不足
3つ目の課題は、新規サービスの構築に必要な経営資源の不足。
経営資源に限りのある中小企業では、特にこの課題が顕著に表れるでしょう。
もちろん、社内の限られた資源を活用してサービタイゼーションを推進するのが理想的ですが、現実的には困難なはずです。
その場合には、自社に不足する資源を異業種・異分野の企業と補完し合い、連携してサービタイゼーションを推進するのも一つの手。
実際、サービス提供・機器開発・ソフトウェア開発を3社で連携し、コインランドリーのスマート化を実現した事例もあります。(参照:商業・サービス競争力強化連携支援事業 成果事例2018|中小企業庁)
不足した経営資源を補うには、社内のみならず社外へ目を向けてみるのも良いのではないでしょうか。
サービタイゼーションへの移行をご検討中の方へ
サービタイゼーションは、製品を介して得られる恩恵をサービスとして提供するビジネスモデル。
製造業のサービタイゼーション推進には、それを下支えするためのシステム・デジタル技術が欠かせません。
当メディアを運営するチェンシージャパン株式会社は、製造業向けERPシステムIFS Cloudを提供しています。
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