ネット・ゼロ・エネルギー・ビルは、CO2排出量の削減・管理に適しているため、製造業界で注目を集めています。
ネットゼロエネルギービル化には、大幅な省エネとエネルギー創出が不可欠であり、結果的にCO2削減につながるのです。
本記事では、ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの基礎知識や必要な理由を解説します。
補助金や注意点もあわせてご覧ください。
ネット・ゼロ・エネルギー・ビルとはエネルギー収支ゼロの建物
ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB:net Zero Energy building)とは、省エネや再生可能エネルギーの活用で、1次エネルギーを実質的にゼロにした建物です。
ビル内で使用するエネルギーは、気密性・断熱性の向上に加えてLEDをはじめとした省エネ機器を活用して徹底的に削減。
消費したエネルギーは、太陽光発電・風力発電などの再生可能エネルギーで創出する仕組みです。
ただしZEBは、エネルギー消費が完全にゼロにはならない点に注意。
ZEBは、消費エネルギーと同等のエネルギーを創出し、正味(英語で:net)ゼロエネルギーを目指す取り組みです。
ネット・ゼロ・エネルギー・ビルが必要な2つの理由とは?
ZEBが必要な理由は、温室効果ガスの減少とレジリエンス確保の2点です。
経済産業省が発表した「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業 調査発表会 2022」には、ZEBは温室効果ガスの減少にあることや、レジリエンス確保につながることが記載されています。
本章では、ZEBが温室効果ガスとレジリエンス確保に、どのように貢献するのかを解説します。
理由1.カーボンニュートラルにネット・ゼロ・エネルギー・ビルが有効
ZEBは、消費エネルギーを最小限まで抑えている、カーボンニュートラルにつながる取り組みです。
カーボンニュートラルとネットゼロは、目指すCO2排出量が「実質的」なゼロなのか「計算上」でゼロなのかで違います。本記事で…
2021年4月の米国主催気候サミットでは、2023年度までに温室効果ガスの46%減少を目指す内容の発言があり、製造業界が変革する必要性が高まりを見せています。
たとえば工場をZEB化した場合は、温室効果ガスの減少に貢献した実績の獲得に加えて、エネルギー消費量削減による光熱費の減少が見込めるでしょう。
つまりZEBは、カーボンニュートラルと製造業が抱える原価率の高さという2つの課題を解決可能。
ZEBは、Society5.0で提唱される未来を実現するためにも、必要な取り組みです。
インダストリー5.0は、人と機械の協働によって、より効率的な生産活動と様々な課題解決を目指しています。しかし、インダスト…
理由2.ネット・ゼロ・エネルギー・ビルがレジリエンス確保につながる
災害発生時は、復興までの期間短縮が大きなポイントです。
建物が早い段階で使用できれば、一時的な避難所として活用できるほか経済的な損失を最小限に抑えることができます。
ZEBに、太陽光パネルと蓄電池を設置した場合で考えてみましょう。
ZEBでは、太陽光で発電して蓄電池に貯めた電力を使用できるため、本来の機能を早期に回復できます。
さらに、気密性と断熱性が高い建材を使用した場合は、最低限の冷暖房で快適に過ごせます。
ZEBは、突発的に発生したリスクや困難から立ち直る強靭さ・回復力(レジリエンス)を確保できる取り組みです。
SDGsにも貢献できる、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)
外務省のパンフレット「持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取組」によると、SDGs(Sustainable Development Goals)とは、誰一人取り残さない持続可能でよりよい社会の実現を目指した世界共通の目標です。
具体的には、貧困や飢餓などの対策・エネルギーや資源の有効活用・環境問題の解決などに関する17の目標が掲げられています。
ZEBは、SDGsで掲げられた目標のうちエネルギーや資源の有効活用や環境問題の解決につながる取り組み。
再生可能エネルギーの使用がエネルギーの有効活用に該当し、建物の省エネ化が環境問題の解決につながります。
再生可能エネルギーの創出に必要なコストは、省エネ化で浮いた経費でまかなえるため、ZEBは持続可能性もあると言えるでしょう。
以上のように、ZEBはSDGsと深い関わりのある取り組みです。
補助金を適用可能な4種類のネット・ゼロ・エネルギー・ビルとは?
補助金が適用となるZEBは、以下の4種類です。
- 消費エネルギーを50%削減「ZEB Ready」
- 省エネ+創エネでエネルギー消費25%以下に削減「Nearly ZEB」
- 1次エネルギー収支ゼロの「ZEB」
- 延べ床面積が10,000㎡以上の建物が対象「ZEB Oriented」
製造業界にとっては、ZEB Ready・Neary ZEB・ZEBは本社をはじめとした建築物が対象となり、ZEB Orientedは製造工場が対象となります。
1.消費エネルギーを50%削減「ZEB Ready」
ZEB Readyは、国が定めた消費エネルギーの50%以上を削減した建物です。
再生可能エネルギーでのエネルギー創出は含まれておらず、徹底的に省エネされたビルとイメージするとわかりやすいでしょう。
照明のLED化や断熱性の高い複層ガラスの導入をはじめ、壁面の断熱・気密性を高める工事などを行って、省エネを図ります。
2.省エネ+創エネでエネルギー消費25%以下に削減「Nearly ZEB」
Neary ZEBは、国が定めたエネルギー消費量の50%以上を省エネで削減し、かつ25%以上を再生可能エネルギーで創出する建物です。
ZEB Readyと同様に省エネ化を図るのに加えて、太陽光発電や蓄電池を活用してエネルギーを創出します。
なお、再生可能エネルギーの創出量の対象は敷地内に限定されます。
太陽光発電や風力発電を設置する際は、対象の建築物がある敷地内であることを確認しておくと安心です。
3.1次エネルギー収支ゼロの「ZEB」
ZEBは、年間の1次エネルギーの消費量が正味でゼロまたはマイナスの建物です。
消費したエネルギーと同等もしくは、それ以上にエネルギーを創出して、基準となるエネルギー消費量から100%以上の削減に成功する必要があります。
ZEBは経費削減・資産価値の向上などのメリットがある反面、多大なコストが必要となるのも事実です。
段階的なZEB化に取り組むといった方法を検討し、コストを分散させると負担の軽減につながることも。
段階的な導入事例は、環境省 ZEB PORTALのコラム「工事を段階的に進めることで営業しながらZEB化改修」をご覧ください。
4.製造工場が該当「ZEB Oriented」
ZEB Orientedとは、延べ面積が10,000㎡以上で、一定以上のエネルギー消費量削減に成功した建物です。
削減するエネルギー消費量は、下記のように建物の種類で異なります。
- 40%以上削減:事務所・学校・工場など
- 30%以上削減:ホテル・病院・百貨店・飲食店・集会所など
製造業の工場は40%の削減が必要なため、省エネの基本である照明のLED化をはじめとした対策から取り組んでみましょう。
ネット・ゼロ・エネルギー・ビルに適用できる2つの補助金とは?
ZEBに適用できる補助金は、下記の2種類です。
どちらの補助金も令和5年度の一次公募は、令和5年6月5日(月)で終了しており、二次公募は令和5年7月31(月)~令和5年8月28日(月)を予定しています。
補助金の申請は、本章で解説する補助金対象設備・建築物の種類を確認しつつ、最新情報を都度調査いただき検討することをおすすめします。
なお、詳しい資料は、環境省 ZEB PORTAL「補助制度一覧」よりダウンロードできます。
補助金1.公共施設・民間施設が対象「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金 建築物等の脱炭素化・レジリエンス強化促進事業」
二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金 建築物等の脱炭素化・レジリエンス強化促進事業は、目的や対象によって以下4つの事業に分かれます。
- レジリエンス強化型ZEB実証事業:公共施設・民間建築物が対象。補助金額上限は5憶円(延床面積2,000㎡未満は3憶円)で、ZEB化に寄与する設備(空調・換気・給湯・BEMS設備など)が対象。
- ZEB実現に向けた先進的省エネルギー建築物実証事業:公共施設・民間建築物が対象。補助金額上限は5憶円(延床面積2,000㎡未満は3憶円)で、ZEB化に寄与する設備(空調・換気・給湯・BEMS設備など)が対象。
- 民間建築物等における省CO2改修支援事業:民間建築物が対象。補助金額上限は5,000万円、ZEB化に寄与する設備(空調・換気・給湯・BEMS設備など)が対象。
- テナントビルの省CO2改修支援事業:公共施設・民間建築物が対象。補助金額上限は4,000万円、空調・換気・給湯・BEMS設備などが対象。
詳しくは一般社団法人 環境共創イニシアチブの「令和5年度 ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)実証事業 公募情報」をご覧ください。
補助金2.民間建築物のみが対象「住宅・建築物需給一体型等省エネルギー投資促進事業」
住宅・建築物需給一体型等省エネルギー投資促進事業の概要は、以下の通りです。
- 対象施設:民間建築物
- 対象者:民間団体(新築:延床面積10,000㎡以上、既築:延床面積2,000㎡以上)
- 対象設備:ZEB実現に寄与する設備(空調・換気・照明・給湯・BEMS装置等)
- 補助金額上限:補助対象経費の2/3(上限5憶円/年、複数年度事業は事業全体で10憶円)
事業内容の詳細は、経済産業省 資源エネルギー庁の令和5年度「住宅・建築物需給一体型等省エネルギー投資促進事業費」に係る補助事業者(執行団体)の公募についてをご覧ください。
ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの3つの注意点とは?
ZEBを目指す上では、補助金は必ず受け取れる訳ではない・ZEB達成後に全量売電した場合は創エネ分にカウントされない、といった点に注意が必要です。
消費エネルギーを適正に管理するには、見える化を図る必要もあるでしょう。
本章では、ZEBに取り組む中での注意点を解説します。
注意点1.ZEB・Neary ZEBの発電分は全量売電できない
発電した電力を全量売電した場合は、創エネ分がZEBの評価にカウントされません。
ZEB・Neary ZEBが達成できなくなるため、全量売電しないように注意しましょう。
注意点2.ネットゼロエネルギービル関連の補助金は受け取れない場合がある
補助金は、国の予算内で「提案が望ましい」と判断された順に採択されます。
補助執行機関の募集要項に沿った内容でも、100%の保証はない点に気を付けてください。
注意点3.建物のエネルギー消費見える化が必要
ZEBの効果を実証するには、エネルギー消費や省エネ効果などの見える化を図る必要があります。
見える化ができない場合は、分析が不十分になるためPDCAサイクルを適正に回せなくなる可能性があるためです。
エネルギー消費の見える化には、ERPをはじめとしたシステムの導入が有効。
ネット・ゼロ・エネルギー・ビル化は、エネルギー消費を管理するシステムもあわせて検討しましょう。
ネット・ゼロ・エネルギー・ビルがカーボンニュートラルに貢献
本記事では、ZEBの基礎知識・必要性・補助金を解説しました。
製造業は、環境保護と高い生産性の両立を求められる中で、たくさんの課題を抱えています。
課題の中でも、エネルギー消費の見える化をはじめとした、カーボンニュートラルに向けた取り組みに注力する企業も多いのではないでしょうか。
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詳しくは資料に掲載しておりますので、興味のある方はぜひご覧ください。