目標達成への代表的なアプローチとして、「バックキャスト」「フォーキャスト」が挙げられます。ただ、具体的にどのような違いがあるのか疑問に思う方も多いでしょう。
本記事では、バックキャストの概要をおさらいしつつ、フォーキャストとの違いを紹介します。経営目標や事業目標への効果的なアプローチをお探しの方は、ぜひ参考にしてみてください。
バックキャスト(思考)とは?
バックキャストとは、理想的な未来のビジョンを描き、そこから逆算して、実現に必要な解決策やシナリオを設定するアプローチのことです。
思考法として、バックキャスト思考と呼ばれる場合もあります。
元々は、SDGsやカーボンニュートラルをはじめとする環境問題を解決するために生まれた手法です。現状の課題や状況と切り離して戦略を策定するため、長期的かつ不確実性の高い目標に効果的です。
近年は、ビジネス課題の解決にも転用され、さまざまな分野で用いられています。
バックキャストとフォーキャストの違い
バックキャストとフォーキャストは、まさに正反対の手法です。
フォーキャストとは、過去の実績をもとに、事業やプロジェクトの将来的な着地点を正確に予測する手法のこと。目標と予測した着地点のギャップを埋めるために、対応策やシナリオを設定するアプローチです。
例えば、「営業実績をもとに、今期売上の着地点を予測。目標とのギャップを埋めるために、チームの新規開拓数を増やす施策を取る」というのがフォーキャスト管理です。
理想的な未来のビジョンから逆算するバックキャストとは、思考のベクトルが正反対。双方の違いを以下の表にまとめました。
バックキャスト |
フォーキャスト |
|
思考ベクトル |
未来→現在 |
現在→未来 |
用途 |
長期かつ不確実性の高い目標 |
短期かつ不確実性の低い目標 |
使用例 |
SDGs カーボンニュートラル |
売上目標 受注目標 |
フォーキャストの概要と活用例は、以下の記事にまとめています。特に営業・製造業で用いられる手法のため、興味がある方はぜひご覧ください。
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バックキャストのメリット3つ
バックキャストには、以下3つのメリットがあります。
- 正解がない問題にも使用できる
- 創造的なアイデアが生まれやすい
- 成果の最大化につながる
一般的には、環境問題などに用いられる手法ですが、企業が利用するメリットも十分あります。本章では、企業が利用した場合に、どのような効果を得られるのか詳しく紹介します。
メリット1.正解がない問題に使用できる
バックキャストが得意とするのは、正解がない問題の解決や目標の達成です。理想とする未来の姿を起点として、現在からゴールへの戦略を描くため、前例のない問題にも使用できます。
例えば、カーボンニュートラルやSDGsは、まさに正解となる道筋がありません。ただ、「CO2の排出量ゼロ」「17の目標達成」などの明確なビジョンがあることで、ガソリン車の廃止や自然エネルギーの活用などの革新的な施策を打てています。
近年は、市場・消費者行動が目まぐるしく変化する不確実性の高い時代です。時には、正解がない問題に立ち向かう必要があるため、バックキャストのような「理想をいかにして現実化するか?」に着目した手法が注目されています。
メリット2.創造的なアイデアが生まれやすい
バックキャストを実行する過程では、創造的なアイデアが生まれやすいというメリットがあります。これは、現在抱えている条件や問題と切り離して戦略を策定しているためです。
言い換えれば、「今何ができるか?」ではなく「〇〇をするには、どうすれば良いか?」という積極的なアプローチをとっているのです。従来よりも広い視野で物事を捉え、問題の解決方法を探る。これにより、新たな商品・サービスの開発など、イノベーションの創出につながります。
また、企業の体制としても、長期的な視点で物事を捉えることで小さな失敗に捉われなくなるでしょう。こうした積極的な姿勢は従業員にも伝わり、さまざまなアイデアが生まれやすくなります。
そのため、バックキャストを活用する際は、こうした革新的なアイデアをさらに生みやすくするために、自由に意見できる場を整えることが大切です。
メリット3.成果の最大化につながる
先ほどの内容に付随して、成果の最大化につながる点もバックキャストのメリットです。この思考方法で設定する目標は、いずれも現在より成長した姿です。
つまり、目標達成のために描いたシナリオは、自社や事業の成長過程とも言えます。これを高い水準で実現できたらならば、成果を最大化できるでしょう。
ただ、バックキャストには欠点も存在します。戦略として採用する前にはデメリットにも目を向け、自社で採用すべきかを十分に検討することが大切です。
バックキャストの欠点
バックキャストには、以下の欠点があります。
- 成功率が低い
- 短期目標には不向き
本章では欠点に加え、対応策も紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
欠点1.成功率が低い
バックキャストを採用するにあたり最も懸念されるのが、成功率の低さです。現状の延長線上に目標を設定するフォーキャストとは異なり、バックキャストでは達成困難な目標を設定します。
そのため実行過程では、以下のような障害に直面する恐れがあります。
- 経済・情勢など外部環境の変化によって中断
- 理想と現実のギャップが大きく、モチベーションが低下
- 企業の資金力が続かない
特に発生率が高いのは、外部環境の変化によって、戦略を中断せざるを得なくなるケースです。バックキャストでは長期的な目標を定めるため、将来的な環境の変化に弱い性質があります。
ただ、外部環境の変化は、自社の力でどうにかできる問題ではありません。そのため、目標設定の段階で環境の変化に対する対応策を検討しておく必要があります。
なお、モチベーションの低下や資金力が続かないケースは、目標・戦略を見誤っている可能性が高いでしょう。あくまでも理想の姿を実現することが目的のため、戦略策定では実現の可能性も考慮することが重要です。
欠点2.短期目標には不向き
バックキャストは、長期的かつ達成が難しい目標達成に向けた思考法のため、短期目標には不向きです。短期目標であれば、実績や現在の状況をもとに着地点を予測するフォーキャストの方が、達成率を高められます。
なお、数年単位におよぶ中期の目標を立てている場合は、注意が必要です。バックキャスト・フォーキャスト双方の特徴を把握し、どちらが適切かを見極めると良いでしょう。
バックキャスト戦略のフレームワーク
ここでは、バックキャスト戦略のフレームワークとして、基本的な進め方を紹介します。主な手順は以下のとおりです。
- ビジョンの明確化
- 現在と未来のギャップを洗い出す
- ビジョンの達成に必要な行動を設定
- シナリオの作成
各工程の要点をまとめていますので、実施をご検討中の方はぜひご活用ください。
手順1.ビジョンの明確化
まずは、実現したい未来の姿を鮮明に描いていきます。ただ、いきなり鮮明なビジョンは設定しにくいため、まずは抽象的な目標から徐々に解像度を高めるのがおすすめです。
例えば、「カーボンニュートラルに向けて、生産工場のCO2排出量を減らす」など。ここから、数字などを用いて具体的なものへと落とし込みます。
ただ、あまりに飛躍しすぎた目標では、達成自体が困難になります。解像度を高める過程で、将来的に達成が可能なものへと調節していきましょう。
なお、一般的にバックキャストの目標に対しては、企業全体で目指すことになります。そのため、設定したビジョンを従業員へ共有し、現場の理解を得ることが大切です。
手順2.現在と未来のギャップを洗い出す
次に、描いたビジョンと現在とのギャップをさまざまな角度から洗い出しましょう。ヒト・モノ・カネなどの経営資源はもちろん、必要な技術や市場の環境、自社のポジションなどです。
ここで明確にした課題は、目標に向けた戦略の策定に直結します。課題を十分に拾えてなければ、戦略自体の完成度も低くなるため、不足がないようしっかりと洗い出しましょう。
手順3.ビジョンの達成に必要な行動を設定
明確になった課題をまとめ、必要な行動を設定します。ここでは、時間軸よりも課題に対してどうアプローチするのが適切かを重視します。
もちろん、課題の解決方法がひとつとは限らないため、複数の戦略を比較してより効果的なものを設定します。例えば、「自社の技術力では到達できない」という課題があった場合、以下のような解決策が考えられます。
- 新たな人材を雇用
- 他社の製品を活用
- 他社と協業
将来的な自社の方針を照らし合わせ、どの選択が最も望ましいのかを検討しましょう。なお、どの戦略を取るか悩む時は、実現の可能性・コスト・成果など複数の観点から総合評価で選ぶのがおすすめです。
戦略を多角的に評価することで、おのずと取るべく選択が見えてくるでしょう。
手順4.シナリオの作成
達成に必要な行動が定まったら、時間軸に沿ってシナリオを設定します。課題を解決する期限やそれぞれの優先順位を明確化します。
シナリオを策定する過程では、目標の達成対して不足している行動・余分な行動が見えてくるはずです。こうした過不足を調節しながら、シナリオの完成度を高めましょう。
なお、全体像が見えてきたら、従業員へ共有して施策を実行に移します。その後、定期的に効果を検証して、必要に応じてシナリオを改善しましょう。
バックキャストの事例
ここでは、実際にバックキャストに取り組む組織・企業の事例を紹介します。本章で紹介する事例は、以下の2つです。
- SDGs|国際連合
- トヨタ環境チャレンジ2050|トヨタ自動車
いずれも現在進行形で進められているプロジェクトです。多くの資料が公開されているため、ぜひ戦略策定の参考にしてみてください。
事例1.SDGs|国際連合
SDGsとは、「持続可能な開発目標」をスローガンに、国連193カ国が掲げた17の目標のことです。これらの大きな目標は2030年までに達成するとされており、根本にはバックキャストの思考が採用されています。
SDGsが掲げられたのは2015年ですが、当時から考えるといずれも実現が難しい目標でした。しかし、これらの目標から逆算した明確なアプローチを設定したことで、今では多くの企業・団体が目標の達成に向けて取り組んでいます。
特に代表的なもので言えば、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」です。太陽光や風力をはじめとする再生可能エネルギーの活用に、企業のみならず一般の消費者も行動を起こしています。
達成困難な長期的ビジョンを目指す、バックキャストの代表例と言えます。
SDGsに向け、自社ではどのように取り組めば良いかを模索している製造業企業も多いはず。すでに、自社の強みを活かし、SDG…
事例2.トヨタ環境チャレンジ2050|トヨタ自動車
トヨタ環境チャレンジ2050は、「クルマの持つマイナス要因(CO2排出など)をゼロに近づけ、なおかつ社会へ貢献する」ことを目指したプロジェクトです。以下6つのチャレンジから構成されています。
- 新車CO2ゼロチャレンジ
- ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ
- 工場CO2ゼロチャレンジ
- 水環境インパクト最小化チャレンジ
- 循環型社会・システム構築チャレンジ
- 人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ
この達成困難な目標に対して、トヨタ自動車はバックキャスト思考を採用しています。特に、1番・3番については、2050年という明確な期限を掲げており、今なお達成に向けたチャレンジを続けています。
具体的な達成目標やトヨタ自動車の方針は、公式サイトからも確認できます。戦略策定の参考にしたい方は、ぜひご確認ください。
参照:トヨタ自動車、「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表|トヨタ自動車株式会社
バックキャストで組織をより良い方向へ導こう
この記事では、バックキャストの概要と企業における推進方法を紹介しました。達成難易度の高い長期目標に対しては、バックキャストが効果的です。
例えば、自社でのSDGsやカーボンニュートラルへ向けた取り組みに、バックキャストを活用するケースは多く見られます。ぜひ、本記事の内容を参考に、企業の将来的な戦略を立ててみてください。
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