工場の負荷率は、生産性アップをはじめとした業務改善をする上で、重要な意味を持ちます。
負荷率を応用すると、業務効率化やコスト削減などが可能になるためです。
業務改革を的確に推進するためには、負荷率を正しく理解することが鍵。
本記事では、工場の負荷率についてわかりやすく解説します。
工場の生産性アップに重要な「負荷率」とは?
負荷率とは、作業担当者の現有能力に対する仕事の負荷を表す数値です。
生産計画の小日程調整に使用され、的確な作業配分や作業スケジュールの策定に役立ちます。
より効率的な作業配分・作業スケジュール策定のためには、余力管理も大切なポイント。
余力管理は、予定に対する進みと遅れを調整する際に必要となるためです。
負荷率や余力管理は、多品種少量生産や注文生産が増えている昨今において、特に重要視されています。
「無限山積み」とは?(基礎知識)
無限山積みとは、製造現場の仕事・スケジュールに対して、作業・工数を積むことです。
まとめてきた注文を日々のタスクとして積み上げるため、”山積み”と呼ばれています。
このとき、規定値を超えたものに対して、他の月に作業を分散させることを”山崩し”と呼びます。
山積みと山崩しの目的は、無駄を省いた効率的な生産管理です。
それでは、効率的に生産管理するにはどうすべきなのでしょうか。
続いて、効率的な生産管理に活用できる「山積み表」について解説します。
山積み表は製造期間と生産量を表す
生産管理では、何を・いつまでに・どれくらい生産するかを可視化する必要があります。
日々の生産量や現場スタッフに対する負荷を平準的にするためです。
そして、平準化を通して工程管理をわかりやすくするために必要なのが山積み表。
山積み表とは、月・週・日などの期間を縦軸に、人員・設備などの資源を横軸にして表したグラフです。
まずは生産能力を度外視してグラフに書き出し、続いてグラフの凹凸をならしてフラットな状態にします。
どの程度の仕事量になるのかを把握するためにグラフに書き出し、生産能力に合わせて効率よく生産できるように調整するという訳です。
山積み表のグラフをフラットにする作業が山崩しであり、生産性の向上に欠かせない作業となります。
負荷工数は無駄なコスト軽減のために算出
営業が獲得した仕事で最大限の利益を得るためには、生産ラインの効率化が必要です。
例えば10日間で100個製造する仕事があり、人材が不足したため派遣社員を準備したとしましょう。
しかし、実際には6日間で製造が完了してしまいます。
予定よりも早く製造が完了しては、人件費をはじめとした大きなコストが無駄になってしまうでしょう。
そのため、納期ギリギリで製造が完了するよう調整する企業がほとんど。
納期の違う複数の製品製造が多い昨今では、どのラインに・どれだけ割り振るのかは、計算した負荷工程をもとに考えるのが大切です。
受注に変動が生じる事態を想定しつつ、その都度負荷工数を算出しながら工程管理をすすめます。
負荷工数式参考:1.1 負荷工数の算出|MONOist
【3ステップで解説】生産の負荷率を計算する方法とは?
工程管理で出てくる負荷計画とは、人・設備などの数と生産能力を比較し、仕事配分の調整をする作業のこと。
負荷計画は、与えられた期間内に生産が完了できるかどうかの判断基準にもなる大切な作業です。
本章では、負荷率を計算する方法紹介します。
お手元のデータと負荷率の計算に必要なデータを照らし合わせ、過不足がないか確認する際にお役立てください。
ステップ1.負荷率計算に必要なデータを収集
負荷率の計算に必要なデータは以下の通りです。
- 機械の標準工数(機械の台数及び製品別の標準工数)
- 製品の作業にあたる人員数
- 1人あたりが受け持つ機会台数
- 人の標準工数
- 1ヶ月間の生産量
- 歩留まり率
- 1日の稼働時間
- 1月の稼働日
- 出勤率
データの管理はERPソフトウェアがあれば容易ですが、ない場合はエクセルでフォーマットを作成して管理しましょう。
データが揃ったところで、負荷率の計算を開始します。
ステップ2.機械の負荷率を計算
機械の生産能力と保有台数が適正かどうかを確認する作業です。
機械の生産能力は以下の式で算出されます。
1ヶ月の生産能力=(生産量/時間)×1日の稼働時間×1ヶ月の稼働日
機械の生産能力を算出した後、機械の必要台数を計算します。
機械の必要台数=1ヶ月に生産しなければならない数量÷1ヶ月の生産能力
機械の必要台数が現有保有台数を上回っている場合、1ヶ月あたりの生産量調整や外注などの対応が必要です。
ステップ3.人の負荷率を計算
機械が不足していないか・期間内の製造が可能かを確認した後、人に対しても同様に負荷率を計算します。
1ヶ月に必要な所要工数の計算式は以下の通りです。
1ヶ月に必要な所要工数=1ヶ月の生産量×標準工数
標準工数は、機械を1台扱うのか2台扱うのかによって異なる点に注意です。
Aという製品に対して、機械を1台扱う場合の標準工数が0.01だった場合、2台になると0.005と半分に。
標準工数を間違えると生産計画が大幅に狂ってしまうため、念入りな確認が大切です。
続いて必要な人員数が整っているかを、以下の式で計算します。
必要な人員=1ヶ月に必要な所要工数÷1日の稼働時間÷1ヶ月間の稼働日÷出勤率
算出した必要人員数と保有人員数を比較。
人員が不足する場合は、残業・休日出勤の調整や派遣社員の獲得などで対応します。
負荷配分による日別調整で工程管理をスムーズに
負荷配分とは日別の負荷計画を指し、納期に対する計画のズレを調整する役割があります。
受注した仕事を自社工場で生産する際は、フタを開けてみないとわからないという部分もあるでしょう。
そこで負荷配分を行い、納期に合うように都度の調整をかけます。
すぐに活用できるよう、負荷配分の方式とやり方についてわかりやすく解説します。
負荷配分の方式は2種類
負荷分配は。フォワード方式(順行負荷法)とバックワード方式(逆行負荷法)の2種類があります。
フォワード方式とバックワード方式のどちらかを行うのではなく、それぞれの役割に違いがあるのがポイント。
各方式の特徴と使うシーンを表にしました。
フォワード方式(順行負荷法) | バックワード方式(逆行負荷法) |
現時点を基準として負荷を設定する方法。 工程を加工順に従い、計画における時間軸に沿って負荷していく。 バックワード方式に比べて手順が簡単で、納期を算定する際に使用される。 |
納期を基準として負荷を設定する方法。 時間軸を逆から追うため、負荷の移動・調整が増えると計算が複雑になる。 受注後の負荷配分に使用される。 |
生産ラインにおいて、生産計画の通りに製造ができるケースはほとんどありません。
常に動きのある現場に対して、必要かつ適切な方法で柔軟に対応します。
負荷配分で行うのは山積みと山崩し
負荷配分のために、どれだけの製品をいつまでに製造するかを可視化します。
製造の可視化に使用するのは、山積み表は製造期間と生産量を表すの章で解説した山積み表です。
データを記載する山積み表を用意したのち、下記の手順に沿って山積みを実施します。
【山積みの方法】
- 負荷計画前の基準日程計画や生産計画を取り込む。生産リードタイムは前倒しに設定し、歩留まりは割り戻す。
- 月・旬・週・日など計画期ごとに、工程別の負荷を算出して山積み表を作成する。
- 生産能力と生産負荷(仕事量)を比較する。
山積み表は生産能力を度外視するため、生産能力を超えた部分が出ます。
そのため負荷配分は山積みだけでは終わりません。
生産能力に合わせて山崩しを実施し、効率的に生産できるよう調整しましょう。
突発的な受注を考慮し、若干の余裕を持たせて調整するのがポイントです。
山崩しの手順は以下の通りです。
【山崩しの方法】
- 山積み表で生産負荷が生産能力を超えているポイントを探る
- 生産負荷を余裕のある計画期に移動する
- 最終的な計画を作成する
生産ラインでは、標準時間が予定よりも長くなる、欠品によって製造がストップするなど様々なトラブルが発生します。
しかし全ての作業をオートメ化するのは困難で、人為的なトラブルは避けようがありません。
そのため、発生したトラブルに対する対応の素早さこそが生産効率と生産性の向上の要。
工場内の素早い情報伝達と管理しやすい環境作りが大切なポイントです。
製造業のヒューマンエラー対策のポイントの多くは、作業の効率化にあります。しかし、自社に適したヒューマンエラー対策を打ち出…
最適な工程管理、負荷率を活用した考え方とは?
最適な工程管理をするためには、負荷率を活用し、在庫を必要最小限に抑える必要があります。
本章では、これまでの概念にとらわれず、最適な工程管理・在庫量に対する考え方について解説します。
負荷率や山積み表の応用や、より効率的な製造にお役立てください。
考え方1.完成期限をもとに順序付け
最適な工程管理に必要なのは、適切な作業順序の決定です。
作業順序の決定に必要な要素は、完成期限と設備・作業者の稼働率です。
多品種少量生産では上記の要素を重要視し、少品種多量生産では生産量・レイアウト・製品在庫量などの状況により、緩やかな制約を意識しましょう。
どちらの場合にも共通しているのは、完成期限を基準としたバックフォワード方式を活用するのが主流ということ。
順序付けは、バックフォワード方式に必要な要素を加え、建設的に考えるべきです。
考え方2.最小限を意識した在庫確保
高効率な製造と適切なキャッシュフローのためには、在庫や仕掛かり品は最小限にとどめる必要があります。
「仕掛かり品は付加価値があり、在庫は財産である」という扱いを受けているケースが多い中、実際には不要となることが多いのが実情です。
少品種多量生産から多品種少量生産に切り替わった今、必要なのは仕掛かり品や在庫に対する新たな考え方でしょう。
「仕掛かり品や在庫をどのように売りさばくか」ではなく「今、求められている製品の高効率な製造」を考える方が現実的です。
仕掛かり品や在庫が抱える課題の本質を捉え、新たな考えのもとで生産設計をするのが大切です。
考え方3.作業完了待ちを排除したロット精算
作業完了待ちや仕掛かり品の運搬作業などは、リードタイムが長くなる要因です。
特に仕掛かり品は、最適購入ロットサイズの「最適」という言葉に翻弄されている企業が散見されます。
最適ロットサイズを計算した結果、金科玉条のものとして、抜け出せなくなってしまうのです。
そのため、ゼロを目指すべき最適購入ロットサイズの仕掛かり所要費用の、理想を実現できている企業はわずか。
ロット生産では、ジャストインタイムの考え方にもとづき、1個流し(1個ずつ製造する)という方式にシフトすべきではないでしょうか。
負荷計画の「手順計画」で作業を効率化する方法とは?
手順計画とは、製品の製造にあたり、仕事の順序と条件を策定することです。
手順計画では、部品の加工順序・作業方法に加え、外注化も含めた作業場所を決定します。
本章では、作業を効率化するために必要な手順計画について解説します。
1.制作仕様書(部品表)から合理的な加工手順を策定
最初に実施するのは、制作仕様書と図面をもとにした部品の加工手順・機械設備・方法・場所の決定です。
加工手順は、自社工場・外注工場の機械設備や技能水準を把握し、作業量を考慮しながら関係部署と検討しましょう。
合理的な加工手順を完成させるために、チェックしておくべきポイントは以下の3つ。
- 製造する製品は、繰返生産(繰返加工)と個別生産のどちらなのか
- 制作期間・納期はどの程度か、緊急性はあるか
- 部品が組み込まれる場所・機能はどの程度なのか
加工手順を効率良く検討するために、共通のチェックシートを用意するのも良いかもしれません。
チェックシートには、機械設備や技能水準を記入する箇所を設けておくとより効率的です。
2.余裕率を加味した標準時間の決定
標準時間を決定する際は、職場の平均作業能率のほか、平均出勤率・余裕率を加味すべきです。
たとえば、作業能率と平均出勤率が、ともに95%だった場合の作業時間です。
上記の状態では、1日の有効稼働時間は7.22時間(8時間×95%×95%)となります。
標準時間を策定する際に、作業能率や平均出勤率を加味しない場合、納期遅れにつながるリスクが想定できるでしょう。
標準時間の決定には、人のほかにも機械が関わります。
そのため、機械の作業時間についても把握しておく必要があります。
人と機械、それぞれの作業時間を把握後は、製品工程の完成時間を決定しましょう。
人と機械の作業時間の組み合わせは、図の通り3パターンがあります。
製造する製品が該当するパターンに合わせて完成時間を決定し、管理するのが大切です。
3.生産方式に合った関係諸帳票の発行
標準時間をもとに完成時間を割り出したあとは、帳票類を作成します。
帳票類は、手順カード・工程カード・進行カード・作業カードなどが代表的です。
ただし、使用する帳票類は企業によって差があり、機械化の度合いや使用しているシステムに合わせた工夫が必要不可欠。
同時に、ライン生産方式・個別生産方式といった生産方式に合わせて帳票を作成しましょう。
関係諸帳票を作成するにあたり、編成効率を向上させるためのポイントが設計理論です。
ライン生産方式では、生産性と作業効率を向上させるために、人と設備の待ち時間を短縮する必要があります。
代表例として、トヨタのジャスト・イン・タイム生産方式があるように、材料を待たせる生産方式の構築が目標となるでしょう。
編成効率を向上させるためには、負荷率をもとにしたデータを活用するだけでなく、設計理論に精通しておくべきです。
工場の見える化と素早い情報伝達はERPが可能に
「生産管理の業務は煩雑で、どこから改善すれば良いのかわからない」と感じている方が多いのではないでしょうか。
生産管理の業務はもともとが煩雑ですが、さらに悪化させている原因は、各部署が抱える情報のブラックボックス化です。
どの部署にどの情報があるのかがわからず、トラブル解決に向けて走り回っている間に時間ばかりが過ぎ去る。
結果として対応の遅れが納期にも影響したあげく、終わりの見えない仕事に嫌気がさした経験をするケースも。
生産管理における悩みの大部分を解決できるERPについて説明します。
ERPとは各部署のパイプ役となるソフトウェア
ERPとは既存のシステム同士をつなぎ、素早い情報共有と工場の見える化を図るためのソフトウェアです。
維持管理ができず、デジタルの恩恵を十分に受けられていない状態を指す「システムのレガシー化」が問題化している企業で活躍します。
例えば生産管理。
締め切りに追われながら生産計画を作り、部品や資材の調達・人員配置・工程管理など、業務負担の大きさが課題となっているケースが少なくありません。
特に工程管理では、欠陥品チェックのために生産ラインに様子を見にいく必要があり、体がいくつあっても足りない状況も実在します。
しかしERPの導入により、欠陥品がいつ・どこで発生しているのかが自分のデスクで分かるようになるとどうでしょうか。
次の生産工程に必要な生産計画作成と工程管理という2つのタスクを同時に進行できます。
さらに欠品や資材不足など、生産ラインで発生した問題も速やかに察知。
トラブルに対するスピード感のある対応が可能になります。
ERPは低コスト・アジャイルで導入可能
近年では、ERPはクラウドを利用したコンポーネント型が注目を集めています。
自社にサーバーを設置する必要がなく、必要なシステムだけを選べて低コストで導入可能なためです。
経済産業省が「中小企業デジタル化応援事業」を推進している通り、デジタル化が必要なのは中小企業です。
同省が発表したデータによると、製造業は全体の85%以上が中小企業。
製造業は中小企業によって成り立っていると言っても過言ではない数字です。
ERPは限られた状況下で活用でき、生産性の向上に貢献する低コストのソフトウェアです。
ERPについては、下記記事でわかりやすく解説していますので、ぜひご覧ください。
BPR(業務改革)の推進を検討中の方へ
本記事では、負荷率をもとにした作業効率向上についてお伝えしました。
製造業には、経済産業省の「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」にあるように、業務改革が求められています。
人材の拡充が困難な状況が続いており、ERPをはじめとしたITシステムによって、さらなる業務効率化が必要なのです。
当メディアを運営するチェンシージャパン株式会社は、日本の製造業との相性が最適なERP「IFS Cloud」を提供しております。
業務改革を検討されている方は、ぜひ弊社の導入事例をご覧ください。