ISM製造業景況感指数とは、全米供給管理協会(ISM)が毎月算出している指標であり、米国の製造業の景況感を示しています。
ISM製造業景況感指数を経営判断に役立てる製造業者も多いのではないでしょうか。
今回は、ISM製造業景況感指数の基礎知識と景況判断の基準、経営に活かすためのポイントを解説します。
【基礎知識】ISM製造業景況感指数とは?
ISMとは、Institute for Supply Managementの略称で、全米供給管理協会のこと。
ISMによる製造業景況感指数(Manufacturing Report on Business)を、ISM製造業景況感指数(ISM Manufacturing Report On Business)と呼びます。
ISM製造業景況感指数の算出では、米国製造業の300社以上の購買・供給管理の役員を対象にアンケートを実施。
アンケート結果となる、受注状況や売り上げ、価格などに関する10項目の回答を集計し、新規受注や生産、雇用などの指数をもとに算出します。
製造業はアメリカのGDPの約11%を占めており、その活動水準はアメリカ経済の動向を指し示す要因の一つです。
アメリカ製造業企業の購買・供給管理役員によるアンケート結果を指標としているため、製造業における様々な要因をカバーしており、景気動向を正確に把握するための重要な指標です。
ISM製造業景況感指数は毎月調査が実施され、第1営業日に公開されます。
他の指標よりも公開時期が早くことから、米国の景気先行指標として注目されています。
本章では、ISM製造業景況感指数の概要として、以下2点を解説します。
まずは概要を知り、ISM製造業景況感指数が自社の経営判断に活用できるのかを検討しましょう。
1.ISM製造業景況感指数とPMIの違い
PMIとは、製造業の購買担当者に対して、生産・新規受注・雇用・価格・購買数量などのアンケート結果をもとにした景気指標のこと。
ISM製造業景況感指数とPMIは、いずれもアメリカの製造業の景気動向を示す指数ですが、対象範囲や算出方法が異なります。
ISM製造業景況感指数は製造業のみを対象としており、調査対象企業の回答数や回答率によって加重平均が算出されます。
また、アメリカの製造業の現状に着目し、製造業の新規受注、生産、在庫、納期、雇用など、複数の要素から算出される点が特徴です。
一方PMIは、製造業を含む全産業を対象としており、購買担当者による調査結果の比重が大きい指標です。
製造業の指標がとりわけ注目されますが、実は全産業の景気動向を示している指標なのです。
そのほかにも、主に以下2つの違いがあります。
PMI | ISM製造業景況感指数 | |
違い1.調査団体 | IHS Markit社 | 全米供給管理協会 |
違い2.対象企業数 | 400社以上 | 300社以上 |
ただ、いずれも将来的な景気を占う際に有効な指標とされているため、PMIとISM製造業景況感指数を合わせて景気動向を分析すると良いでしょう。
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2.ISM製造業景況感指数とISM非製造業景況指数の違い
ISM景気指数には、ISM製造業景況感指数とISM非製造業景況指数(サービス業景況感指数)の2種類の指標が存在します。
それぞれの違いは以下の通りです。
ISM製造業景気指数
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ISM非製造業景況指数 | |
発表タイミング |
毎月第1営業日 |
毎月第3営業日 米国標準時間:午前10時に発表 日本時間(夏):午後11時00分 日本時間(冬):午前0時00分 |
指数の算出方法 |
新規受注、生産、雇用、入荷遅延、在庫、顧客在庫、支払価格、受注残、新規輸出受注、輸入の10項目に関するアンケート 新規受注、生産、雇用、入荷遅延、在庫の5項目を加重平均して総合指数を算出。 |
事業活動、新規受注、雇用、入荷遅延、在庫、在庫景況感、支払価格、受注残、新規輸出受注、輸入の10項目に関するアンケート
事業活動、新規受注、雇用、入荷遅延の4項目を平均して総合指数を算出。
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算出開始時期 | 1931年から |
1998年から
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特徴 |
毎月発行されるアメリカ主要経済指標の中で最も早く発表される。 アメリカ製造業のGDPは1割程度と低いものの、輸出企業が多いことから為替の影響を受けやすい指標。 |
非製造業はアメリカ名目GDPの9割程度を非製造業が占めることから、注目度が高い。
アメリカ雇用統計よりも早く発表されることことから、雇用統計の先行指標としても活用される。
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ISM非製造業景況感指数は、製造業を対象としていませんが、アメリカの株価に大きな影響を及ぼす指標です。
というのも、アメリカにおける非製造業のGDPは、約9割と非常に高い水準であり、多くの労働者を抱えているためです。
各国の景気を分析して経営判断へ反映させるには、ISM製造業景況感指数のみならずISM非製造業景況感指数も分析指標に加えることをおすすめします。
ISM製造業景況感指数を使った景況判断の基準
ISM製造業景況感指数は、アメリカ製造業企業の買担当者が感じた景況感を表すため、将来的な景気を示唆する指標として活用されます。
ISM製造業景況感指数では、50を基準値として上回ると景気拡大、50を下回ると景気後退と判断できます。
一般的な指標と比べて、レンジが狭い点が特徴です。
ここ5年間では、41.5〜65の間を推移しています。
また、ISM製造業景況感指数の値は、株価指数や実質GDPとの連動性が高いと考えられています。
経済の実態をより正確に捉えるには、株価指数や実質GDPなど複数の指標を用いると良いでしょう。
【2023年】アメリカISM製造業景況感指数の推移
ここでは、ISM製造業景況感指数の推移(2023年3月時点)を見ていきましょう。
- 直近2年間のISM製造業景況感指数を開く
-
データ公表時期 ISM製造業景況感指数の予測 ISM製造業景況感指数の結果 2023年03月 47.6 46.3 2023年02月 47.8 47.7 2023年01月 48.1 47.4 2022年12月 48.6 48.4 2022年11月 49.7 49 2022年10月 50 50.2 2022年09月 52.5 50.9 2022年08月 52 52.8 2022年07月 52.2 52.8 2022年06月 55.3 53 2022年05月 54.6 56.1 2022年04月 57.7 55.4 2022年03月 59 57.1 2022年02月 58 58.6 2022年01月 57.5 57.6 2021年12月 60 58.7 2021年11月 61.2 61.1 2021年10月 60.5 60.8 2021年09月 59.5 61.1 2021年08月 58.5 59.9 2021年07月 60.9 59.5 2021年06月 60.9 60.6 2021年05月 60.9 61.2 2021年04月 65 60.7
かつての2021年4月〜2021年11月には、ISM製造業景況感指数が60を上回り、大きく景気拡大が進んでいました。
ただ、その後の2021年12月以降、ISM製造業景況感指数の低迷が続いています。
2022年11月〜2023年3月まで、ISM製造業景況感指数が50を下回り景気後退が進んでいます。
また、直近の2023年3月には、予測を大きく下回り46.3という結果に。
この値は、2020年5月以来の低水準です。
また、ISM非製造業景況指数も同時期に低水準を記録したことから、景気の先行きに対する懸念が高まっています。
ISM製造業景況感指数を経営に活かす3つのポイントとは?
ISM製造業景況感指数は、製造業の経営を判断するうえで、どのように活用すべきなのでしょうか。
ISM製造業景況感指数を、経営に活かすためのポイント3つを解説します。
ISM製造業景況感指数を経営に活かすためのポイント
ポイント1.ISM製造業景況感指数は他の指標と合わせて判断すべき
ISM製造業景況感指数を経営判断に活かす場合、PMIなど他の指標と合わせて判断することが大切です。
特定の指標のみでは断片的な景気状況しか読み取れず、経営判断に偏りが生じるためです。
景気判断の際は、ISM製造業景況感指数と合わせて以下の指標を取り入れると良いでしょう。
ISM非製造業景況感指数(サービス業系共感指数) |
非製造業約300社を対象としたアンケートを集計した指標 |
製造業PMI(購買担当者景気指数) |
製造業約400社を対象としたアンケートを集計した指標 |
NY連銀製造業景気指数 |
製造業約200社を対象としたアンケートを集計した指標 |
フィラデルフィア連銀製造業景気指数 |
ペンシルベニア、ニュージャージー、デラウェア州の製造業が対象 |
どの指標を取り入れるかは、各社の事業内容や判断基準によって異なります。
ただ、景気にはさまざまな要素が絡むため、複数の指標を活用し多角的に分析することが大切です。
ポイント2.ISM製造業景況感指数は海外進出すべきかの参考値
ISM製造業景況感指数とPMIは、グローバルな事業展開を検討する際にも役立ちます。
特に近年では、中国の経済成長にともない、同国への進出を検討する企業が増えています。
たとえば、ISM製造業景況感指数とPMIから、世界経済と輸出の動向を把握したとしましょう。
これらの数値から得られるのは、海外進出後の先行きを判断する材料です。
ISM製造業景況感指数とPMIからは、現地の企業が実感している、リアルな景気観を把握できます。
ポイント3.自社リソースとISM製造業景況感指数をすり合わせ
ISM製造業景況感指数は、自社に蓄積された生産量や利益などの情報リソースとすり合わせることで、より的確な経営判断を可能にします。
たとえば、ISM製造業景況感指数と情報リソースをグラフ化したとします。
ISM製造業景況感指数の変化に対して、自社の分野ごとに、どのような影響を受けたのかを把握可能です。
そうした情報が得られれば、今後の経済動向に対して、どのように対応すべきかを判断しやすくなります。
そのため、ISM製造業景況感指数を参考にするには、自社リソースの活用が必須でしょう。
ISM製造業景況感指数の活用にはIT化が必須、3つの理由とは?
属人化が進んだ結果、ブラックボックス化した膨大なデータ、活用法が見出せないシステム。
そうした課題を抱えている状態では、ISM製造業景況感指数の的確な活用は困難です。
しかし、IT化は課題の多くを解決できる可能性を秘めています。
ISM製造業景況感指数の活用に、IT化が必須な理由を解説します。
ISM製造業景況感指数の活用にIT化が必要な理由
理由1.ISM製造業景況感指数の活用には業務プロセス可視化が必要
ISM製造業景況感指数で景気が好調な場合、”生産量を増やすと利益が増大する見込みがある”と判断できます。
そして、ISM製造業景況感指数のタイムリーさを活かすためには、素早い対応が求められます。
そのために必要なのは、どの部門の・どのプロセスを・どれだけ強化するかという判断です。
業務プロセスの可視化ができていれば、素早い判断が可能ですが、実際に業務プロセス可視化ができている企業は少数でしょう。
ISM製造業景況感指数を的確に活用するためには、IT化による業務プロセス可視化が必要です。
理由2.限られた人材でISM製造業景況感指数を分析する必要性がある
ISM製造業景況感指数による判断を現場でするのは生産管理部門です。
「生産管理の業務とは?社内の人材を活かし作業効率化する方法を解説」にも掲載していますが、生産管理は、生産受注・生産計画・購買計画などを担当するためです。
しかし、生産管理の業務負担は大きく、人材不足の深刻化がさらなる業務負担の増大を招いているのが現状です。
そうした中、ISM製造業景況感指数と情報リソースをすり合わせる作業が可能な人材は、さらに限られてしまうでしょう。
つまり、ISM製造業景況感指数をもとにした分析には、生産管理の業務負担軽減が必須ということ。
社内のIT化は、生産管理の業務負担を軽減し、ISM製造業景況感指数の有効活用を可能にします。
理由3.自社リソースの効率的活用はシステム導入が必要
生産管理をはじめとして、データをエクセルで管理する企業が少なからず存在します。
確かに、エクセルは扱いやすく、扱える人材が豊富なソフトです。
しかし「製造業の生産管理を効率化!エクセルに頼らず属人化を防ぐ方法とは」で解説している通り、エクセルでの管理には様々な課題があります。
長年蓄積した、大切な情報リソースがブラックボックス化するケースも多いでしょう。
こうした現状を背景に製造業にシステム導入を求めているのが、経済産業省が発表したDXレポートです。
しかし「製造業向けのシステムは豊富で、何がいいのかわからない」という声も多くあります。
ISM製造業景況感指数の活用にも貢献可能な基幹システムについて、次章で解説します。
ISM製造業景況感指数を経営に活かすにはERPがおすすめ
ERPとは、企業の経営最適化を目的として、全社的なデータの一元管理ができる基幹システムです。
従来、部門ごとに管理していたデータをシームレスに連携することで、業務効率化や経営スピードの向上を実現します。
本章ではERPが、ISM製造業景況感指数を活用する際、どのように役立つのかを解説します。
ISM製造業景況感指数の活用に貢献するERP
ERPの分析機能で正確な経営判断を実現
1つ目は、ERPの分析機能で正確な経営判断を実現することです。
ISM製造業景況感指数の分析結果を経営判断に活かすには、自社の状況を把握しておく必要があります。
前述のとおり、自社の状況が不明確では、どの部門の・どのプロセスを・どれだけ強化するかを設定できず、適切な経営判断が下せないためです。
ERPは、社内の情報を一元管理するだけでなく、多くの分析機能・出力機能を搭載しています。
そのため、高い精度で社内の見える化や課題の抽出を実現できます。
これによりISM製造業景況感指数による景気判断をもとに、自社にとって最善な経営判断を下せるでしょう。
社内データの一元管理により経営判断を円滑化
2つ目は、社内データの一元管理により経営判断を円滑化できることです。
社内データの一元管理は、部門間や立場間での壁を取り払い、円滑な情報共有を促します。
また、特定のパソコンのみにデータが保存されるなどの属人化を解消でき、有益な情報が社内全体に共有されます。
これらにより経営層はリアルタイムで社内の状況を把握でき、スピーディーな経営判断や意思決定を実現できるでしょう。
ISM製造業経済景気指数を経営に活かすために
本記事では、ISM製造業景気指数の基礎知識を中心に、製造業がおさえるべき内容を解説しました。
ISM製造業景気指数の活用にはIT技術が必要であり、ERPはISM製造業景気指数の活用に役立ちます。
製造業を取り巻く環境は、刻々と変化を遂げています。
成長を続ける企業であるためには、様々な観点からの素早い経営判断が必須です。
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