市場環境への対応や競争力強化の必要性から、DXを推進する製造業企業が増加しています。
しかし、「自社ではどのようなDXに取り組めば良いのか・何を目指すべきなのか」を決めかねているDX担当者も多いのではないでしょうか。
この記事では、DXへ取り組む先行企業の事例をもとに、製造業企業のDX戦略を紹介します。
DXの進め方や構想を模索している方は、ぜひ参考にしてください。
経済産業省が発表したDX推進の現状(製造業)
経済産業省の発表によると、約95%もの企業がDX未着手・初期段階であるとのこと。
また、先行企業と平均企業で推進状況に大きな差が生じているようです。
上記は全業種を対象に、自社のDX進捗状況を5段階で評価したアンケート調査です。
DXを部門横断的に推進(レベル3)〜持続的実施(レベル5)と回答した先行企業は、わずか5%ほど。
大多数の企業は、DX未着手(レベル0)〜一部部門での実施(レベル3)にとどまっています。
また、製造業企業に限定したアンケート調査では、さらに深刻な状況が見えてきました。
上記は製造業企業を対象に、DXの初期段階である「データ化・見える化」への取り組みを調査した結果です。
データ化・見える化を実施している企業は、計画段階の企業と合わせてもわずか2割ほど。
実施に至っていない企業が、全体の8割を占める結果です。
したがって、多くの製造業企業はDXに取り組めていない、もしくは初期段階にあるといえます。
ただ裏を返せば、今からDXを推進すれば、デジタル競争で先行優位性を確立しやすいということ。
そのため、すでにDXへ着手する先行企業を参考に、いち早く自社ならではのDX構想を描くことが重要です。
製造業企業によるDX推進事例4選
製造業のDX先行企業は、どのような取り組みをしているのでしょうか。
経済産業省が発表した「製造業DX取組事例集」から、下記の4社を取り上げました。
- 株式会社今野製作所
- 沖の電気工業株式会社
- トヨタ自動車株式会社
- 富士通株式会社
各社が取り組んでいるDXの内容を、順に紹介します。
DX事例1.株式会社今野製作所(製造業)
株式会社今野製作所は、油圧ジャッキを扱う製造業企業です。
今野製作所では、個別受注への対応力不足や複雑化した業務プロセスが大きな課題でした。
課題解決に向けて取り組んだDXは、主に下記の2つ。
- 「プロセス参照モデル」を活用したプロセス整理
- システム・デジタルツールの導入による業務改善
プロセス参照モデルとは、サプライチェーン・エンジニアリングチェーンなど各業務の連携体制を可視化したもの。
複雑化した業務プロセスをフロー図化したことで、業務のつながりを意識した改善が実現できたようです。
また、可視化によって露見した課題を解決するために、システム・デジタルツールを導入しています。
今回のDXにより、複雑化した業務プロセスの整流化やムダな業務の削減を達成しています。
今後は、デジタルツールに蓄積したデータの活用や、新たな課題の解決に向け取り組むそうです。
DX事例2.沖電気工業株式会社(製造業)
沖電気工業株式会社は、ATMやプリンター製造を手がける製造業企業です。
取り組んだDXは、2つの工場を仮想的に1つの工場へと融合していく「バーチャル・ワンファクトリー」。
市場変化に危機感を覚え、マス・カスタマイゼーションへの取り組みとして、工場の連携を検討し始めたそうです。
連携に際しては、下記4つのポイントを中心に連携・仕様の共通化を実施しました。
- 部門間融合:各部門で交流会を実施し、効果的な施策の水平展開を実現
- 生産融合:各工場の負荷状況・得意技能を明らかにし、繁閑に合わせた生産応援を実現
- 試作プロセス融合:試作生産を内製化し、効率化・質の高いフィードバックを実現
- IT融合:工場間で異なっていたERPシステムの統合を検討
2つの工場を融合したことで、人材や技術の流動性が高まり、マス・カスタマイゼーションへの対応や業務負荷の分散、コスト削減につながったそうです。
また、各工場が独自の最適化を実施していたため、双方の強みを活かした生産体制を構築できています。
DX事例3.トヨタ自動車株式会社(製造業)
トヨタ自動車は、日本を代表する自動車メーカー。
インダストリー4.0や他業種の台頭を受け、全社的なデジタル化「工場IoT」に取り組みました。
工場IoTとは、既存のデジタル化データを一元的に管理し、部門間を横断する情報共有基盤のこと。
開発・市場・工場をデジタル化で連携し、ニーズに即した高付加価値製品を目指しています。
たとえば、製造現場や顧客から得たデータを、リアルタイムに技術開発部門へ共有。
技術開発部門は、収集したデータをもとに設計を改善したり、新製品の開発時に活かしたりと、短期間で製品改善を実現できます。
トヨタ自動車は現在もこのDXを推進しており、今後は、デジタル化推進と併せてセキュリティ強化も進めるようです。
DX事例4.富士通株式会社(製造業)
富士通株式会社は、通信システム事業や電子デバイスの製造をおこなう企業です。
富士通株式会社は、ノウハウ伝承・人不足などの課題を受け、リアルタイムなノウハウ共有を実現する、仮想大部屋をFTCP(設計開発プラットフォーム)内に設置しました。
仮想大部屋とは、製品開発に携わる部門が得た知見データを、ICTで収集・活用するための仮想空間。
蓄積したノウハウの共有のみならず、3D CAD図面を使用した仮想上での擦り合わせや、VRを活用した製品データの立体視が可能です。
仮想大部屋の運用により、いつでも・どこからでもノウハウを引き出せるため、従業員一人一人の能力底上げにつながります。
これにより、若手従業員の育成が推進され、開発プロセスにおける手戻り減少・品質向上・納期短縮を達成したとのこと。
今後は、システムのさらなる強化と、仮想大部屋を含むFTCP(設計開発プラットフォーム)の製品化に取り組むようです。
事例から見る製造業企業のDX戦略
先ほど紹介した4社の事例は、それぞれ下記4つのDX戦略に分類できます。
- 現場業務の最適化:株式会社今野製作所
- 工場間・企業間の連携強化:沖電気工業株式会社
- 品質向上・高付加価値化:トヨタ自動車株式会社
- ノウハウのデジタル継承:富士通株式会社
先ほどの事例をさらに深掘りし、製造業企業のDX戦略と取り組みの方向性を紹介します。
DX戦略1.製造業現場業務の最適化
今野製作所が取り組んだDXは、業務プロセスの可視化とシステム・デジタルツールの導入による現場業務の最適化。
言い換えると、スマートファクトリー化を目指したDX戦略です。
スマートファクトリーとは、ドイツ政府が提唱した「インダストリー4.0」に登場する工場で、デジタルデータの活用により、高い生産性や品質、高付加価値化を実現した工場を指します。
先述した事例で今野製作所は、業務全体を可視化し、課題の解決とデジタルツール・システムの導入を行いました。
これは、スマートファクトリーの初期段階であるデジタルデータ活用の基盤構築にあたります。
今後は、データの収集と蓄積、データ分析と予測、データ活用による現場業務の最適化というフェーズを経て、スマートファクトリーの実現を目指すでしょう。
インダストリー4.0を体現したスマートファクトリー。経済産業省からスマートファクトリーロードマップが発表されるなど、近年…
DX戦略2.工場・企業間の連携強化(製造業)
沖電気工業が取り組んだDXは、工場・企業間の連携強化です。
この背景にあるのは、大量生産の生産性と個別生産のカスタマイズ性を両立するマス・カスタマイゼーションへの対応。
マス・カスタマイゼーションの成立には、下記の条件が求められます。
- 顧客ニーズのデータ化
- 大量生産に耐えうるリソースの確保
- サプライチェーン・エンジニアリングチェーンのシステム連携
DX前の沖電気工業は、工場ごとにシステムが構築・仕様が最適化されていたためリソースが分散。
上記条件のうち、2,3個目を満たせていませんでした。
推進した「バーチャル・ワンファクトリー」では、リソース確保に向けた生産融合や、生産プロセス一帯をERPシステムで統合するIT融合が実施されました。
これにより物理的に離れた2つの工場を統合し、新たな生産体制を構築しています。
また、今後社内全ての工場のワンファクトリー化を目指しているため、本格的なマス・カスタマイゼーション化が推進されるでしょう。
個別受注生産の企業が市場競争を生き残るには、生産性向上・QCDの最適化が不可欠。しかし、どのような課題があり、いかにして…
DX戦略3.品質向上・高付加価値化(製造業)
トヨタ自動車が取り組んだDXは、エンジニアリングチェーン・サプライチェーンをも連携する工場IoT。
トヨタ自動車はすでに社内情報のデジタル化を達成しているため、今回の取り組みは、DXの進捗状況でいうレベル4~レベル5の部門横断的かつ持続的な実施です。
「開発」「市場」「工場」をデジタルで連携し、自社内の情報のみならず市場ニーズをも取り込んだ、品質向上・高付加価値化を実現するDX戦略です。
先ほど紹介したスマートファクトリーの最終段階に差し掛かっており、今後は社内のみならず社外へむけた営業の情報武装や販売強化を進めるようです。
DX戦略4.ノウハウのデジタル継承(製造業)
富士通が取り組んだ仮想大部屋は、多くの製造業企業で課題となっているノウハウ継承に着目したDX戦略です。
富士通では、属人化したノウハウのデータ化はすでに完了しているため、本事例の取り組みはデータ活用段階のものです。
仮想大部屋は、蓄積したノウハウデータを共有する社内wikiとしての役割のみならず、製品データや試作の立体視が可能。
つまり、従業員にとって受動的なノウハウ継承ではなく、能動的なノウハウ継承が実現できるのです。
知っているではなく、できるにまで押し上げるノウハウ継承DXといえます。
製造業の担当者が抱える3つのDX課題と対応策
製造業担当者が抱えるDX課題は、主に下記の3つが挙げられます。
- DXとデジタル化の混同
- 単独部門による属人的なDX推進
- DX人材の不足
この章では、上記3つの課題と対応策を紹介します。
DX課題1.DXとデジタル化の混同(製造業)
1つ目の課題は、DXとデジタル化が混同していること。
DXは、デジタル技術やデータを活用して企業に変革をもたらし、競争上の優位性を確立することを指します。
一方デジタル化には、下記2つの意味があります。
- アナログをデジタルへ転換する:デジタイゼーション
- デジタル技術によって新たな価値を生み出す:デジタライゼーション
デジタル化が内包するのは、あくまでもデジタル技術による価値の創造まで。
それ以降の、企業文化・ビジネスモデル・業務プロセスの変革や競争上の優位性確立は、DXです。
この違いを明確にしないと、本来DX達成の手段であるデジタル化が目的になる恐れがあります。
DXとデジタル化の本質を理解し、自社のDX戦略を策定しましょう。
DX課題2.単独部門による属人的なDX推進(製造業)
2つ目の課題は、単独部門による属人的なDXが推進されること。
DX推進を成功させるには、経営者を中心に現場の意見も考慮した全社的な取り組みが重要です。
仮に、IT部門や業務部門がそれぞれ独自のDXを推進した場合、DXを実現できず部分最適化に終わるでしょう。
したがって、DX推進では経営者を中心に対話の機会を設け、各部門が共通の認識を持ち推進することが重要です。
DX課題3.DX人材の不足(製造業)
3つ目の課題は、DX人材の不足です。
DX人材とは、デジタル技術・データ活用の知見を持ち、なおかつDXプロジェクトを牽引できる人材のこと。
日本企業は、システムの導入やIT戦略の立案などを外部のベンダー企業へ委託するケースが多いため、自社内にノウハウが蓄積していないケースが多く見られます。
また、DX人材に求められる能力は、企業ごとに異なるため、自社が求める人材の確保が難しいのです。
そのため、外部の専門家・他企業と積極的に交流を図り、自社に不足する知見を補う取り組みが効果的です。
製造業の方へ。まずはDX推進に向けた環境を整備しよう
この記事では、DXへ取り組む先行企業の事例をもとに、製造業企業のDX戦略を紹介しました。
現状、多くの製造業企業は、DX未着手〜一部部門での実施にとどまっています。
いち早くDXへ着手することで、デジタル競争の先行優位性を確立できるでしょう。
まずは、製造業のDX先行事例を参考にDX推進に向けた環境を整備し、段階的なデジタル化・DXを推進するのがおすすめです。
チェンシージャパン株式会社は、ITベンダーとしての知見から製造業のDX推進をサポートしています。
以下に製造業のDX推進に役立つ資料をまとめておりますので、ぜひご覧ください。