原価計算とは、製品・サービスを製造するためにかかった費用を計算すること。
適切な販売価格を設定し利益を確保するために、欠かすことのできない重要な業務です。
しかし、「原価計算にはどのような種類があるのか、計算結果をどう活用すれば良いのだろう?」と気になる方も多いでしょう。
本記事では製造業の方に向けて、原価計算の種類とそれぞれの用途を解説します。
原価計算とは?
製造業では、原材料を調達して部品を組立加工し、完成した製品を顧客へ販売します。
製造過程では、原材料の仕入れ費用や組立加工を担当した人件費、さらには製造設備などの経費がかかります。
これらの製造工程で発生する費用を計算するのが、原価計算です。
また商品・サービスの製造に掛かった費用を、製造原価と呼びます。
製造原価は、製品を販売する際の利益計算や販売価格の設定など、あらゆる企業活動に用いられる重要な数値です。
仮に原価を正確に把握できなければ、製品を売れば売るほど損失が発生したり、十分な利益を確保できなくなったりします。
製造業が適正価格で製品を販売し、利益を確保するためにも、正しい知識を持って原価計算に取り組むことが重要です。
製造業が原価計算をする5つの目的
製造業の原価は、目的によって算出方法が異なります。
金融庁の企業会計審議会によると、原価計算の目的には以下の5つが含まれます。
- 商品・サービスの価格計算
- 原価管理の参考にする
- 財務諸表の作成
- 予算編成・管理
- 経営戦略の策定
本章では、企業会計審議会が策定した「原価計算基準」をもとに、上記5つの目的を紹介します。
目的1.商品・サービスの価格計算
1つ目の目的は、自社の商品・サービスをいくらで販売するのかを決めるためにする原価計算です。
原価が販売価格の大半を占める場合、利益率が圧迫され、大きな利益が見込めません。
一方、販売価格を高く設定し、原価の割合を抑えた場合、市場で受け入れられない恐れがあります。
そのため、商品・サービスの販売価格を設定する前に原価計算をして、適正価格を見出すことが大切です。
原価と販売価格を設定できると、利益予測を立てやすくなるため、製造する商品ごとに算出すると良いでしょう。
目的2.原価管理の参考にする
2つ目の目的は原価管理の参考データにするためです。
原価管理の目的は、自社の原価状況を見直し、利益確保やリスク削減を実現すること。
自社の原価状況を正確に把握するためには、製品・サービスにかかるコストを項目ごとに割り出し、原価を算出する必要があります。
こうして収集した原価データを見れば、削減できそうなコスト項目やリスクとなりそうなコストを把握でき、改善行動へつなげられます。
たとえば、組立工程に人件費がかかりすぎているため、設備を導入し部分的にオートメーション化するなどです。
商品・サービスの原価を管理・改善するためにも、原価計算は重要な業務なのです。
目的3.財務諸表の作成
3つ目の目的は、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書など、財務諸表を作成することです。
製造業に限らず企業には、自社の財政状況を投資家や債権者などへ開示する責任があります。
その際に必要となるのが、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書。
これらの財務諸表には自社の収益状況を記入する必要があるため、商品・サービスにかかった原価を計算しなければなりません。
目的4.予算編成・管理
4つ目の目的は、翌期の予算編成や予算管理の指標として活用するためです。
仮に、来期の売上目標を設定する場合、利益のみを設定しても原価がわからなければ売上を設定できません。
また製造業の原価率は、8割程度と高いため、原価を無視して売上を策定するのは困難です。
そこで、商品・サービスの原価計算が求められるのです。
正確な原価を把握できれば、売上目標や予算目標も細かく策定できるでしょう。
目的5.経営戦略の策定
5つ目の目的は経営戦略を策定するためです。
前述のとおり、製造業の原価率は8割程度と大きな割合を占めています。
売上の大半を占める原価は、新商品の開発や新規事業の立ち上げを検討する際にも、決して無視できるものではありません。
自社の成長につながる経営戦略を策定するためにも、数値的な根拠があり現実的に達成可能な目標を立てる必要があります。
原価計算をしておくことで、数値的根拠のある計画を策定しやすくなるでしょう。
製造業の原価計算に欠かせない3要素
製造業の原価と聞くと、原材料の仕入れ費を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし実際には、以下3つの要素を考慮しなければなりません。
- 材料費
- 労務費
- 経費
また、上記の要素は製品との関連性によって、直接費と間接費に分けられます。
直接費とは、自動車を製造する場合の鉄やカーボン樹脂、ガラスやゴム素材など、製品の製造に直接関わる費用のこと。
一方、間接費とは従業員の出張費や事務員の人件費など、製品・サービスに対し、間接的に発生する費用のことです。
本章では、製造業の原価計算に欠かせない3要素を順に紹介します。
要素1.材料費
材料費には、製品の製造に使われる原材料や部品の仕入れコストが含まれます。
製品の製造に直接必要なパーツや素材はもちろんですが、組立加工で用いられる工具もや消耗品も材料費です。
製造業における材料費を細かな区分に分類すると、以下の5種類に分けられます。
- 原材料費:製品材料の仕入れにかかるコスト
- 購入部品費:外部の企業から仕入れる物にかかる費用
- 燃料費:製品の製造に必要な燃料のコスト
- 工場消耗品費:製品の製造に使われる消耗品の費用
- 消耗工具器具備品費:製造工程に用いられる大型の工具や機材のコスト
細かなものまで含めると、実にさまざまなコストが材料費に含まれます。
要素2.労務費
労務費とは、製品の製造に必要な人材にかかるコストのこと。
製造業の労務費は、主に以下の5つに分類されます。
- 賃金:正社員や契約社員など、月給制で製造業に従事する人の給与
- 雑給:アルバイトやパートタイマーなど、時給制で製造業に従事する人の給与
- 従業員賞与手当:従業員に支払う賞与や交通費、家族手当など
- 退職給付費用:将来支払われるであろう退職金
- 福利費:社会保険料や労働保険料
要素3.経費
経費とは、製品の製造にかかる費用のうち、前述した材料費と労務費に分類されないコストのことです。
主に、以下の4種類に分類されます。
- 測定経費:消費量が数値で測定されるもの。ex)電気代・水道代・ガス代
- 支払経費:支払い先が明確な経費のこと。ex)租税公課や広告宣伝費、通信費
- 月割経費:数ヶ月にわたって支払う経費のこと。ex)電話通信料・インターネット代
- 発生経費:金銭の支払いはないものの、財務諸表に経費として計上すべきもの。ex)減価償却費
【製造業向け】原価計算の種類と用途
製造業で用いられる原価計算は、用途に合わせて以下の4種類に分類されます。
- 標準原価計算
- 実際原価計算
- 直接原価計算
- 番外編(生産形態別2種類の原価計算)
本章では、各原価計算方法の概要と用途を解説します。
標準原価計算
標準原価計算は、材料費や労務費、経費の目標値をもとに算出する原価計算のこと。
完成した製品1つ当たりの標準原価を数量にかけ、算出します。
標準原価計算は実際の使用量や投入リソースをもとに算出するわけではないため、数値の精度が低い点がデメリットです。
ただし、標準原価計算で算出した数値は、いわば目標値であるため、実測値と比較することで、目標との差を認識できる点が魅力です。
業務改善やコスト管理など、原価の改善行動をとる際の指標に用いられる傾向があります。
実際原価計算
実際原価計算は、実際に使用した材料費や経費、投入した労務費をもとに原価を算出する方法です。
前述した標準原価計算とは異なり、数値の精度が高い点が特徴です。
そのため、自社の生産工程にどれほどの原価がかかっているのかを測定する場合は、実際原価計算を活用します。
また、実際原価計算の結果と標準原価計算の結果に大きな差が生じる場合は、材料費や労務費、経費のいずれかを削減する必要があると言えます。
実際原価計算と標準原価計算は総じて、全部原価計算と呼ばれます。
全部原価計算の算出結果は、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などに記入されるため、財務諸表の作成時には必ず必要となる原価計算方法なのです。
直接原価計算
直接原価計算は、製品の製造にかかる原価を変動費と固定費に分け、そのうち変動費のみを計算する方法。
具体的には、製品の生産量に比例して発生する変動費のみに着目し、原価計算する手法です。
たとえば、材料費は生産量に比例して発生する変動費に含まれます。
一方、生産量に関係なく発生する土地代や家賃などの固定費は、直接原価計算に含まれない点が特徴です。
変動費のみに着目する直接原価計算は、実際の生産工程を正確に捉えやすく、事業の採算性を正確にはかりやすい手法とされています。
そのため、損益分岐点の設定時や経営判断を下す際の判断材料として活用されています。
【番外編】生産形態別2種類の原価計算
原価計算には、目標値をもとに算出する標準原価計算や、実測値を捉える実際原価計算の他に、以下2種類の計算方法が存在します。
- 個別原価計算
- 総合原価計算
個別原価計算は、1つの製品または1単位ごとに原価を算出する手法です。
顧客の要望ごとに製品仕様が異なる、受注生産で用いられる傾向があります。
個別原価計算は製品ごとの原価を正確に捉えることが目的のため、材料費や労務費、経費を細かなコスト区分に至るまで集計して算出します。
製造原価を正確に把握できますが、計算に際し膨大な労力と時間がかかる点はデメリットです。
一方、総合原価計算は、同一の製造ラインで大量生産をするような生産形態で用いられる手法です。
一般的に、月単位で発生した費用を集計し、原価を計算します。
個別原価計算よりも数値の正確性は劣りますが、少ない工数で算出できる点が魅力です。
社内情報を把握し正確な原価計算をしよう
本記事では、製造業の方に向けて、原価計算の種類と用途を解説しました。
原価計算はExcelやスプレッドシートなどの表計算ツールでも算出できますが、多くの作業工数がかかります。
生産管理システムやERPシステムを活用することで、効率的に社内情報を把握できるでしょう。
システムの導入を視野に、正確な原価計算を目指してみてはいかがでしょうか。
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