変化し続ける顧客ニーズに対応すべく、マスカスタマイゼーションが注目されています。
マスカスタマイゼーションとは、大量生産と受注生産を組み合わせ、双方のメリットを活かしつつデメリットを補う生産方式です。
本記事では、マスカスタマイゼーションの概要を踏まえつつ、注目される理由と4つの事例を解説します。
マスカスタマイゼーションとは?メリット・デメリット
マスカスタマイゼーションとは、大量生産(マスプロダクション)と受注生産(カスタマイゼーション)を掛け合わせた生産方式です。
大量生産は、スケールメリットにより生産コストの削減効果が高い方式です。
一方、受注生産は顧客の要望に応じて製品を製造するため、高い満足度・付加価値を実現できます。
この双方のメリットを享受しつつ、デメリットを補い合うのが、マスカスタマイゼーションです。
本章では、マスカスタマイゼーションの生産概念の理解に欠かせない、大量生産・受注生産のメリットを紹介します。
大量生産のメリット・デメリット
大量生産は、限られた種類の製品に特化し設計を規格化することで、生産工程の標準化を促し、コストダウン・生産量の増大を実現する生産方式です。
日本では主に、戦後の高度成長期(1950 年代中頃~1970 年代初め)に目まぐるしい成果を生み出しました。
自動車・ラジオ・冷蔵庫など、多様な消費財・耐久消費財のニーズへ対応し人々の生活を支えたのです。
大量生産には、以下のメリット・デメリットがあります。
メリット | デメリット |
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大量生産が上手く機能した場合、コスト面や生産性のメリットは非常に大きいでしょう。
一方で、生産工程が大規模化することで、不良・売れ残りが発生した場合の損害が肥大化するデメリットもあります。
なお、特定の品目に絞り大量に生産することを想定しているため、多品種の生産には対応できません。
受注生産のメリット・デメリット
受注生産とは、顧客の要望に合わせて、製品を製造する生産方式です。
あらかじめ在庫を用意せず、受注後に生産を始めるため、在庫リスクを軽減しつつ、顧客の満足度の向上を実現できます。
受注生産には、以下のメリット・デメリットがあります。
メリット | デメリット |
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受注生産は、顧客の仕様に対応するいわばオーダーメイドの生産方式です。
顧客が要望した通りの商品を提供できるため、満足度の向上につながりやすい傾向があります。
また、カスタマイズ製品に対し付加価値がつき、大量生産の商品に比べ高単価での提供が可能です。
一方、要望を追求することでリードタイムが伸び、大量の商品を生み出すことが困難です。
このように、大量生産と受注生産では、それぞれに異なったメリット・デメリットがあります。
マスカスタマイゼーションとは、大量生産と受注生産を掛け合わせることで、それぞれのメリットを享受しつつ、デメリットを補える生産方式なのです。
マスカスタマイゼーションが注目される背景
近年なぜマスカスタマイゼーションが普及しているのでしょうか。
主な要因は、以下の3つが考えられます。
- 顧客ニーズの多様化・市場競争の激化
- 製品ライフサイクルが短縮化していることへの対応
- マスカスタマイゼーションを支えるIT技術の進歩
日本でも、近年は高度経済成長期と比べ顧客ニーズが多様化しています。
たとえば、冷蔵庫ひとつをとっても、全体のサイズ感や価格帯のほかに、食料の長期保存機能を搭載したものや、冷凍室が大きなものなどさまざまな製品が提供されています。
さらに、以前に比べて、製品ライフサイクルが短縮化され、次々と真新しい商品が求められるようになりました。
こうした価値観の多様化・製品ライフサイクルの短縮に対応するべく、マスカスタマイゼーションが注目されています。
また、近年のIT技術の発展もマスカスタマイゼーションが浸透しつつある要因の一つです。
マスカスタマイゼーションは従来の大量生産に比べ、管理する業務・データが複雑です。
ただ、近年はIT技術が進化したことで、業務・事業を支える体制を確立しやくなりマスカスタマイゼーションに取り組む企業が増加しています。
顧客ニーズ・ライフサイクル・IT技術、3つの変化を背景に、マスカスタマイゼーションは今後もさらに浸透していくでしょう。
マスカスタマイゼーションに必要な4つの要素
マスカスタマイゼーションを実現するには、以下4つの要素が必要です。
- マスカスタマイゼーションを支える生産方式
- マスカスタマイゼーションのバランス
- 営業・ITに精通した人材
- 受注〜生産工程を管理するシステム
本章では、上記4つの要素を順に紹介します。
要素1.マスカスタマイゼーションを支える生産方式
マスカスタマイゼーションは大量生産の側面を持っているものの、すべての部品を繰り返し製造するわけではありません。
一部の部品では、顧客の要望を反映するため受注生産の仕組みで生産することになります。
ここで必要になるのが、異なった複数の生産方式を滞りなく機能させるための仕組みです。
たとえば以下のポイントを検討する必要があります。
- 顧客の要望を製品のどの部品に反映するのか・どの部品を標準化するのか
- 複数のラインが同時稼働した場合の管理体制
- 部品・材料調達はどのようにおこなうのか
この問題は製造部門のみならず、受注管理・在庫管理・資材調達管理など複数部門にまたがるものです。
マスカスタマイゼーションを実施するには、複数の部門が連携させる管理体制を構築することが大切です。
要素2.マスカスタマイゼーションのバランス
マスカスタマイゼーションのメリットを最大化し、デメリットを最小限にとどめるには、大量生産と受注生産のバランスが重要です。
仮に顧客が要望する仕様を100%製品に反映した場合、これは受注生産であり大量生産のメリットが享受できません。
また、受注生産のデメリット出るリードタイムの長期化や管理生産コストの増加を引き起こすでしょう。
マスカスタマイゼーションでは、先述したデル社のようにカスタマイズのニーズが高い部品のみにバリエーションを持たせるケースが一般的です。
残りの部分を大量生産で賄うことで、マスカスタマイゼーションのメリットを最大化でき、デメリットを最小限にとどめられます。
したがって、マスカスタマイゼーションを導入する場合は、製品の特性・消費者のニーズをもとに生産形態を最適化していくことが大切です。
要素3.営業・ITに精通した人材
マスカスタマイゼーションの実現には、受注業務の最適化やITシステムが必要です。
顧客が抱えるニーズを正確かつ迅速に収集できなければ、製品ライフサイクルの長期化や仕様変更の増加を招きます。
また、ラインでは大量生産・受注生産が進められ、これらを適切に管理するITシステムの導入が欠かせません。
そのため、顧客ニーズの分析やITシステムの導入に対応できるスキル・ノウハウを持つ人材の育成・確保が重要です。
ただ近年は、DXの普及に伴い、IT人材が不足しています。
今後さらに人材不足が深刻化すると推測されているため、少しでも早くIT人材を確保しておくことがマスカスタマイゼーションの成功を左右するでしょう。
要素4.受注〜生産工程を管理するシステム
マスカスタマイゼーションを実現するには、生産管理のみならず受注管理を内包したシステムが必要です。
製品の共通部品はあらかじめ製造が可能ですが、可変部品は注文内容に応じて仕様が異なります。
製品を短期間で製造するには、顧客の要望を即座に生産工程へ連携しなければなりません。
こうしたマスカスタマイゼーションの要件を満たすには、受注〜生産工程の管理に対応したシステムを選定することが大切です。
生産管理システム・ERPシステムは製品ごとに対象とする業務範囲が異なるため、受注〜生産工程を一元管理できる製品を選びましょう。
マスカスタマイゼーションを取り入れた企業の事例
本章では、マスカスタマイゼーションを実施した以下4社の事例を紹介します。
- 株式会社オンワードパーソナルスタイル
- 株式会社 ZOZO
- 株式会社ナイキジャパン
- ハーレー・ダビッドソン社
マスカスタマイゼーションの導入を検討されている方はぜひご覧ください。
事例1.株式会社オンワードパーソナルスタイル
株式会社オンワードパーソナルスタイルは、オーダーメイドスーツの販売を手がける会社です。
同社は、注文の受注〜工場での裁断・縫製までを一貫して管理するシステムを導入しています。
店頭で受注した注文内容や採寸データがクラウドにて工場へ共有され、設計が開始される仕組みです。
受注〜生産の流れを効率化したことで、オーダーメイドスーツでありながら最短1週間での提供を実現しています。
なお、一点もののスーツとして長く利用できるよう、採寸のために全国37店舗を展開。
こうした企業努力によりオーダーメイドスーツの高付加価値化を実現しています。
事例2.株式会社 ZOZO
株式会社ZOZOは、ZOZOTOWNやWEARなどを運営するインターネット企業です。
同社は、消費者が自身で採寸をできるよう「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」と専用アプリを提供。
実店舗にいかずとも採寸ができ、自身の体型にあったアパレル商品を購入できます。
さらに、プライベートブランドを立ち上げ、ZOZOSUITで計測した体系データから、オーダーメイド方式でアパレル商品を製造する仕組みを構築しています。
事例3.株式会社ナイキジャパン
株式会社ナイキジャパンは、スポーツ用品の卸売販売をおこなう会社です。
同社が運営するネットショップでは、シューズの色やデザイン素材を指定できるサービスを提供しています。
さらに、カスタマイズの範囲を広げるため、シューズを複数のパーツに分類。
消費者が自分だけの1点もののシューズを購入できる仕組みを構築しています。
事例4.ハーレー・ダビッドソン社
ハーレー・ダビッドソン社は、100年以上もの歴史があるオートバイメーカーです。
同社ではもともと、オプションパーツやカスタマイズパーツを数多く製造していました。
ただ、より顧客の要望に寄り添うため、購入時点でオートバイをカスタマイズできるサービスを開始。
ボディは共通の設計を利用し、ハンドル・シート・マフラーなどを自由にカスタマイズできるマスカスタマイゼーションを実現しています。
マスカスタマイゼーションのにはERPシステムが効果的
マスカスタマイゼーションの実現に欠かせないのは、複雑な生産方式を管理・維持するためのシステムです。
そこで注目されているのが、基幹業務を一元的に管理できるERPシステムです。
本章では、ERPシステムの導入で得られる3つの効果を紹介します。
効果1.基幹業務を統合し社内データを一元管理
ERPシステムは社内の生産・販売・人事・会計などの基幹業務を一箇所に集約し、一元的に管理するシステムです。
各部門で扱うデータ・書類などが一箇所に集約されるため、他部門であっても必要情報を瞬時に取得できます。
たとえば、注文の仕様変更が生じた場合、その情報が設計・製造部門へ共有されるため、手戻りを最小限に抑えられるでしょう。
また、一度入力したデータは関連部門へ連携されます。
これにより部門間の重複業務や数値のズレを防止でき、生産性の向上につながります。
効果2.部門間で生じるタイムラグを削減
ERPシステムで管理するデータは、複数の部門間でリアルタイムに共有されます。
これは、経営判断を下す際に大きなメリットと言えます。
現時点での売上・生産コスト・財務情報等を即座に取得できるため、実態とのタイムラグが少なく必要なタイミングで適切な判断が可能。
また、生産中に何らかのトラブルが生じた際も、即座にその情報把握もできます。
販売管理・物流管理・在庫管理などの関連部門は迅速な対応が可能となり、トラブルの影響を最小限に抑えられるでしょう。
効果3.在庫管理の最適化
マスカスタマイゼーションでは、標準化部品と可変部品が存在するため、在庫管理が複雑化しがちです。
とくに可変部品は、注文ごとに必要な材料や消費量が異なります。
ERPシステムが内包する在庫管理機能を活用すれば、注文データと紐づき必要在庫の引き当て自動でかかります。
また、製造実績や仕入れデータと連携し、自動での会計仕訳も可能です。
従来よりも少ない工数で在庫を管理できるため、業務の効率化につながるでしょう。
IT技術を活用しマスカスタマイゼーションを目指そう
本記事では、マスカスタマイゼーションの概要を踏まえつつ、注目される理由と4つの事例を解説しました。
マスカスタマイゼーションとは、大量生産と受注生産を組み合わせ、双方のメリットを活かしつつデメリットを補う生産方式です。
多様化する顧客ニーズに対応すべく、多くの企業が実現に向け取り組んでいます。
生産管理システム・ERPシステムなどのIT技術を活用し、マスカスタマイゼーションを目指してみてはいかがでしょうか。
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